気づき
「終わり〜〜!」
山本のかけ声で、男子グループの時間は終わる。
「五分間、って、結構、長いん、だなっ...」
息を切らしながらトモヤスに話しかける。
「バテ過ぎだぞミナトお前ー。無理して喋んなー」
そう言ってニッと笑うトモヤス。
なんでコイツはこんな涼しい顔してやがる。
まあバスケなんてもっと走り回ってるだろうし、これくらいどうって事ないのか。
結果俺は捕まえられた回数3回、で捕まえた回数はたったの1回、後半で俺と同じくバテ気味だった奴を捕まえたアレだけだった。
お互いにゼエゼエ言いながら走っていたので、側から見ればアレはまさしく泥試合に見えていた事だろう。
よかった、俺と同じくらいの奴がいて。
それにしても、もっと捕まると思っていたのが意外と回数を抑えられたな、と個人的には思う。
それよりも鬼側の方が全然駄目だった。
後半で体力が切れていたのもあるかもしれないが、相手に追いつける感じがしなかったのだ。
それは俺と同じくらいの足の速さの奴であっても、そう感じる所が俺にはあった。
「お疲れさま」
山本が俺に労いの意を示す。
隣にいる松木さんも、小さく拍手を送ってくれていた。
「おう、マジで疲れたわ」
「ミナトくんがあんなに走ってるとこ、もう見られないかもね」
そう笑ってまた彼女なりの煽りをしてくるも、今は疲れていて特に返す余裕も無いので、
「確かにな」
と、適当な返事をする。
「もー何それまた」
ふてくされる山本。
「サヤ、行こ」
そう言って松木さんと、先ほど俺たちが走り回っていた方へ歩いていく。しかし、
「あ」
と何か思い出したように一瞬こちらの方へ向き直し、
「タイムキーパーは新さんにお願いしてあるから、ミナトくんは休んでていいからね」
と俺に声掛けし、また向こう側へと足を戻した。
もはや声を出すのも面倒だったので、適当に手をあげ了承のサインを送るだけに留まった。
そしてそのまま近くのネットへ腰を預け、ヘタリと座り込む。
しゃがむとそこで改めて足に溜まっていた疲労を感じる。
息もまだ整わない。
「じゃあ、始めますよ、よーい、スタート」
新さんの合図で女子一組目の時間が始まる。
ゼッケンをつけた山本が逃げる一人の女子を追いかけている。
女子の中ではかなりスピードが出ていそうな走りだった。
これ俺より速いんじゃない?
「キャーーーー!」
叫びながら逃げる女子たち。
どうしてこう、女子たちって何かと声張り上げたがるのかね。
普段はそんな大声出さないのに、こういう時だけやたらと高い声が出るよなあ。
ただでさえ今走っているというのに、ますます疲れる気がするのだけれども。
ただ女子たちも一応山本のいう通り、直線や曲線に走っているようで、男子同様、思っていたよりも真面目に取り組んでくれているようだった。
グラウンドの様子を一人活気の無い目で眺めながら考える。
体を伝う汗が、春風に冷やされていくのを感じる。
彼女は言った。
リレーの時の動き。
直線や曲線。
確かにリレーではトラックを走るので、直進コースとあとは曲線になっているコースを曲がる事しかしない。
俺が最初にやったように急にコースが切り替わったりすることはまず無い。
鬼と逃げる人。
追う側と、追われる側。
ん?
そういう事なのか?
ようやく一つ、俺に見えてきたものがあった。