速い
鬼と逃げる役がそれぞれにまばらに、お互い一定の距離を保って構える。そして、ストップウォッチを手にした山本がまた声を張り上げる。
「いくよー!位置についてー、よーーい」
「スタートー!!」
合図がかけられた瞬間、トモヤスがこちら目掛けて思い切り走ってくる。
「やっぱ狙ってたなお前」
とりあえず背を向けて逃げる。
「当たり前だろ!お前があんま速くないのは知ってるからなあ!」
元気な声が背後からどんどん近付いてくる。クッソ、速いなさすがに。
速さで劣る相手にそのまま真っ向勝負を挑んで勝てないのは当たり前だ。
ならば別の所で勝負するしかない。
俺は体を右に捻り、走っていた進行方向を変える。
「うわっ、お前ずりぃ!」
慌てて俺の曲がった側を追うトモヤス。
「ハッ、こうでもしなきゃ勝てねえだろ」
「なんかいつになくやる気だな、ミナト」
「お前に負けるのはなんか嫌なんだよ」
「言ったなお前!?」
そしてまた急ターン。
確かにトモヤスはそこそこの走力はあるが、俺の動きが読めていないのかまだ少しもたついている感じがした。
表情少なめのこの顔がこんな所で役に立つとはな。
これなら行けるかもしれないと思ったその時。
「はいミナトくんそれダメー」
「はあ?」
立ち止まり、さっきよりも大きくなったようなその声の方を振り返ると、スピーカーを手にした山本がこちらを見ていた。
新さんなんでそんな準備いいんすか。
え、なんで駄目なんだよ。それじゃ捕まるだろ。
もちろんこちらが何かを言ってもどうせ聞こえないので、山本の言葉を待つ。
「その動きリレーの時しないでしょー。なるべく直線か曲線で逃げてー」
そんな事言ってたっけ。
言ってたかもなあ。
同じく一時止まっていたトモヤスの方を見ると、ニヤりと確信したような表情をこちらに向けて言い放つ。
「観念しろよ、ミナト」
あっという間に俺を捕まえたトモヤスはすぐにターゲットを変えてそちらの方に走っていった。
「ミナトー俺にも捕まえさせろ」
息つく暇もなく、トモヤスとちょうど交代するように、海人がターゲットを俺へと変えた。
まだ海人との距離はそこそこ離れていたので、俺は早めに背を向け走り出し、更に距離を取ろうとする。
しかし海人はグングンとこちらに近付いてきて、離すどころかむしろその距離を詰めてくる。
これは確実にトモヤスよりも速い。6秒前半は出てるんじゃないのか、これは。
もしかしたら彼がこのクラスのアンカー候補なのかもしれない。
イケメンで足も速いのかよ。
などと考えているうちにあっという間に捕まり、海人も俺をタッチしたかと思えばすぐさま他の人の方へと向かっていった。
この体力オバケが。
俺はもう割と息が上がってきて、既にまあまあ苦しい。
てか2分半、結構長くない?