謎ルール
「で、どうするんすか?山本さん」
また一人の男子が山本に質問をする。
確かに、この人数で鬼ごっこって、訳分からなくなりそうじゃないか。
「実はグループ分けして来たんだよね、残り15分ちょっと走り続けるのもしんどいしね」
そう言ってポケットから一枚の紙を取り出し、ヒラヒラとさせる。
紙には確かに名前のリストが線で三つに分けられていた。
なんという用意周到。
「ひとグループ5分ずつやってもらう感じです、あとこの鬼ごっこ、鬼と逃げる役を分けます」
「ん?どういうことだそれ、鬼ごっこは鬼と逃げるのが交代するもんだろ」
と、思わず小さい子供でも知っている当たり前の事を聞いてしまう。
「厳密にいうと、一人ずつ鬼と逃げる役の時間があるの。2分半ずつくらいで交代ね」
ほう、なるほど。
2分半の間はずっと鬼か逃げるターンという訳だ。
何のためにそんな事をするのかは全く分からないが。
山本は説明を続ける。
「とにかく鬼は全力で追いかけて、逃げる人は全力で逃げる。で、その時にやってほしいのが」
「うん」
「鬼の時に捕まえた回数と、逃げている時にタッチされた回数を数えていてほしいの」
「?」
俺と同じくクラスメイト一同ポカンとしているようだった。無理もない。
山本もその様子には気付いているようで、
「これ以上言っちゃうと結果が変わっちゃう可能性があるかもだから、とにかく全力で追いかけて、逃げてみて。なるべく直線か曲線で走るように。カウントも忘れずに、お願いします」
そう言って頼むように手を合わせた。
「まあ、とりあえずやってみるか」
「ま、そうだな」
まだピンとは来ていないものの、男子たちが協力の姿勢を見せる。
「ありがと男子ー。じゃ、男子全員グループから始めます、あ、新さん例のものお願いします」
「はいはい持って来てますよ」
と言って新さんは手にしていたカゴを山本に渡す。
中には体育などで使うゼッケンが入っていた。
鬼と逃げる役を見分けるためか。
てか男子は男子で分かれてんのね。
まあ三つに分けるならちょうどいいくらいの人数だし、さすがに足の速さが違うからな。
あと、女子にタッチするとかこう、良からぬ事をしそうなバカがいそうだからな。
おん。
「あんまり同じ人狙うとかなしねー!あと、隅っことかでサボるのもなしー!」
遠くから山本がこちら側に手を振っている。
俺たち男子はグラウンドの真ん中の方へ移動していた。俺は逃げる側からのスタート。
「回数がどうってのはよく分かんねえけど、多い方がなんか山本さんの役に立てそうだよな」
そう言って地面につま先をつけ、足首を回すトモヤス。
かなりやる気に満ちているようだった。
単純な奴だ。
アイツはゼッケンを付けているから、最初は鬼か。
男子は14人。
改めて考えると割合にして大体3:7くらいなんだよな。
やはり男子の方が足の速さはあるわけで、男子一人の戦力というのはかなり大きなものになる。
この14人の足の速さは全く知らないが、とりあえず分かる範囲だとバスケ部のアッキーとトモヤス、サッカー部の海人とお喋りの井口。
井口はそのまま名字で井口と呼ばれているので俺もそう呼ぶ事にしている。
なんか名字呼びって、今まで一応下の名前で呼ばれて来た俺にとっては少し悲しく思えてしまうのだが。
お前も実はあだ名が欲しかったりするんじゃないのか、井口。
知らんけど。
ともかくこの4人の部活だけは何故か知っていて、あとはまだよく知らないが他にも数人運動部はいるだろう。
運動部=足が速いには決して繋がらないが、それでも普段から体を動かしている人間とそうでない人間の差は大きい。
加えて俺はこの前の50m走が7.5秒と、大して速くない。
というか多分やや遅いくらいの部類に入ると思う。
逃げられるのか、これ。
あとさっきからトモヤスがずっと自分に目を光らせているのだが、アイツ絶対俺のこと狙ってるだろ。
弱い者いじめは良くないよ。