お願い
「高田湊、よろしく」
「うん、知ってる」
そう笑って答える彼女。
よく見ると、この子も綺麗な顔立ちをしている。
可愛い子の友達もまた可愛いの法則。
「まああれだな、とりあえず理由を聞いてみるわ」
「うん、そうだね。よろしくお願いします」
といってぺこりと深く頭を下げるようにする。
どうかうちの子を、と言う保護者のようだった。
「山本、やる意味を言った方がいい、みんな困惑してる」
俺も別に本気で彼女のやろうとしている事を止める気は無いのだが、せめて意図だけはハッキリとさせておきたい。
「うーん、確かにそうなんだけど、とりあえず本気でやってもらわないと良い”データ”が取れないっていうか、まあ"データ"って程でも無いかもしれないんだけど」
「データ?50mのタイムとかじゃ駄目なのか?ちょうどこの前スポテスあったし」
そう、一昨日ちょうどスポーツテストがあったばかりなのだ。
足の速さを知って走順を決めたいのであれば、そのデータを元にすれば良い話だ。
「いやあ、それも必要なんだけど、他に知りたい要素があるんだって」
「...それは教えてくれないんだな?」
「うん、ちょっとね」
埒が明かないので、とりあえず俺からクラスメイトへ頼み込むか。
「とりあえずやるだけやって見ましょうか。みんなお願いします」
自分の中では精一杯の笑顔を作ったつもりだったが、周囲の反応はあまり変わらなかった。
特に女子。
すると見兼ねた山本が一歩に前に出て、
「みんなで勝ちたいの。わたし一人じゃ何もできない。だからお願い、ね?」
甘えるように自分の願いを告げた。
「よっしやるか...」
と俄然やる気を見せる男子たちはもちろんの事、それを受けた何人かの女子たちまでもが、
「かえちゃんやっぱかわいい...」
などと言って若干乗り気になりつつある。
どうやら同性にもファンがいるらしい。
そして山本は追い打ちをかけるように、生徒たちと出ていた新さんに話しかける。
「もし、リレーで優勝したら、みんなにアイス買ってくださいよ、新さん!」
「えぇ...」
新さんが俺と同じような狼狽え方をしている。
だよな。結構高いぜ、40人分買うってなると。
「ハーゲン!ハーゲン!」
畳み掛けるようなハーゲンコール。
クラスがまた一つ団結した。
新さんは困ったようにしていたが、やがて諦めたように、
「わかりました。優勝したら買いましょう。皆さん、頑張るんですよ」
と言った。優しいなあ。
「いえーい!」
と、男子たちが盛り上がる。
先ほどまでどちらかというと乗り気で無かった一部の女子たちも、少しやる気を見せてくれているように見えた。
...俺と山本の差である。
何か色々と手を使って見事にその空気を変えていった。