種目決め
6限の予鈴が鳴り、それとピッタリに新さんが教室へ入ってくる。さすが真面目。
今日も変わらず渋めのスーツをびっしりと決めている。
でもそれもう暑くないすかね。
ふうと一息、新さんが手にしている書類を教卓にトントンと揃えるように置く。
「はい、それではですね、今日は体育祭の参加の種目決め、ですよね。じゃあ、学級委員の二人、お願いできますか」
「はい」
とまず山本が元気よく立ち上がる。
それに続く俺は対照的に、はあとため息を吐きながら前に出る。
「委員長暗いぞー」
「元気だせ〜」
と少々鼻につく一部男子の煽りはとりあえず無視しておいた。
無反応こそ人間の最も嫌がる行為だ。
特に攻撃してくる側にはこの方法が一番ダメージを与えられると俺は思っている。
大体言ってる奴らの顔は想像がつくが、あえてその声の方は見ないようにした。
そして俺たちはまたあの日のように教卓の前に並んで立った。
やはりここからの景色はいつ見ても慣れない。
どこを見ればいいのか分からず、目が泳ぐ。
視線をチラと横に送ると、山本は毅然として前を向いていた。
こうして立って上から見ると睫毛の長さがよく分かる。
背の高さはそれほどでは無いが、それでも彼女にはハッキリとした存在感があった。
対して、背を曲げてダルそうに立つ俺との差は歴然だった。
「もう、すぐ元気ない」
今度は彼女が俺の方を向いて、そう自分にしか聞こえないくらいの声で耳打ちをする。
その耳元で囁かれた声に慌ててこちらも小声で返す。
「わかったよ、話すから」
そう言って前を向き、といってもクラスメイトの顔は見ないように後ろにあるコルクボードに焦点を合わせ、息を吸い込む。
「えー...それでは体育祭の種目決めをしていきたいと思います」
俺の中ではそこそこの声量を出したつもりだったのだが、クラス一同、なぜかキョトンとしている。
「ミナト声ちっせえ!」
「こんな元気無い委員長いるか?」
教室から笑いが漏れる。
さっきの煽り隊か。
よし、後でシバこう。
とはいえちょっと声が小さかったか。
もう少し頑張って張るか。
「えっと、じゃあ」
あ、そういえば。
「俺体育祭の種目知らないんだけど...」
さっきよりも一際大きな笑いが起きる。
え、なんかウケてる。
ウケるのは気持ちいい。
とか悠長な事を思っていると、教卓に一枚の紙がスッと置かれる。
「プリント。昨日もらったでしょ」
山本が呆れ顔でそう言った。
「そだっけ」
「委員長もう無くしたんすか?!」
「しっかりしろー」
元気だなーこのクラス。
まあ主にさっきから同じ奴らしか喋って無いけどな。
一人は加瀬智安。
相変わらずなのでノーコメント。
もう一人は井口周平。
クラスに一人はいるお喋り。
やかましいんだよコイツら。
でも何というか、クラスが始まって間もない頃からこうして飛ばせる奴って凄いよな。
まあ本人たちはいつも通りに振舞っているだけだと思うけれど。
周りを意識する度合いというのは後天的に変わるもので、その当人のいた環境や起きるイベントで徐々に変化していくものだ。
子供の頃は活発だったのに今は大人しかったり、その逆も然りだったりして、人間が周りから受ける影響というのは思ったよりも大きい。
要は意識の違いだ。
意識として一度現れたものを、取り消す事は難しい。
「これ見ながら進めてね」
山本がさっき俺の前に置いたプリントを指差す。
「ああ」
言われるがままその紙を広げると、中には体育祭で行われるプログラムであろうものが書かれていた。
いつの間にこんなものを決めているのだろうか。
各プログラムの下に学年の指定と男女の募集人数が割り振られている。
「確かここから一人一つ選ぶんだよな」
「そ」
俺去年何出たっけ。
忘れたな。
「じゃまず玉入れから、男子出たい人...」