信じたい
5限の授業が終わり、時間は木曜のLHRに差し掛かる。
一週間に一度訪れるこのボーナスタイム。木曜日は実質5限だけだと考えられる。
だがぼうっとしているだけで良かったこの俺の至福のひと時は、もう無いのだ。
「ミナトくん!」
呼ばれて振り返ると、そこには案の定ヒロインの笑顔を向ける山本楓が立っていた。
「なんだよ...」
「何それまた元気ないし」
そう言ってムスッと少し頰を膨らませるようにする。
ほらそうやってすぐかわい子ぶっちゃって。
まあ本当に可愛いから文句無いが。
男は許しても女は許さなかったりするのだが、彼女の場合そういう敵はいるのだろうか。
そこら辺も色々と上手くやってそうだけど。
それにしてもこういう子どもじみた所もあれば、やけに大人びた雰囲気の時もあったり、なんかイマイチキャラが分からないんだよな。
妙な不安定さというか、アンバランスな感じが彼女にはあるような気がした。
もっともバランスなんてものを人が測るという事自体容易ではない。
本当の事は、当人にしか分からない。
ただ上手く自分の不安定な部分を隠し、見えないようにしているだけなのかも知れない。
しかしそれもハッキリとは分からない。
悲しくも他人はそれくらい他人の事が見えていないのだ。
注意深く見ていたとしても、見える部分はどうしても限られる。
そういう意味で行くと、むしろその移りゆく感情を素直に見せる彼女の方が、掴み所のないように見えて実は安定していたりするのかも知れないと、そう思った。
これもただの推測なんだけどな。
何せ食べた物の塩加減なんかも俺にはさっぱり分からない。
食リポのお姉さんのように「絶妙」さは感じられない。
いや別にディスってるわけではないよ。
可愛いから許しちゃう。
「今日のLHR、体育祭の種目決めだから、前でるよ」
休み時間、6限が始まる前に教えてくれる用意周到さと優しさよ。
ご報告どうもありがとう。
でもめんどくさい。
普通にダラダラ出来ると思っていたのに。
「えぇ...」
「キミほんとそれすきね」
もはや呆れたと言ったように山本が笑う。
いや好きとかではない。
これでも正真正銘の本音なのだ。
大体いつも同じ感情になるからデフォルトに見えているだけ。
「いやだって、前も山本一人で十分だったろ。どうせ俺喋らないし、いなくても一緒だろ」
司会をやるだけなら本来その役は一人で十分事足りるのだ。
しかもその一人がかなりの有能だというのに、さらにもう一人なんているだろうか。
また手持ち無沙汰でどこを見ていいのか分からず過ごすLHRは避けたい。
そして今明らかに嫌そうな顔をしていると思うのだが、そんな俺を見て山本が何か得たようにフーンと笑みを浮かべる。
「なに、話したいの?」
どこを見てそう思えるんだこの子は。
もうわざとやってるようにしか思えない。
やはりこういう所も彼女なりの俺に対するイジりなのだろうか。
タイプの異なる俺のような人間を理解するため、打ち解け合うための誠意か。
はたまた単純な悪意か。
後者では無いと俺は信じたい。