たかが
また何度か練習を繰り返し、体に振りを覚え込ませていく。
その時も、リズムの事は忘れずに。
なっちゃんは一旦俺たちに見本を見せるのはやめて、カウントを取りながら俺たちの動きをチェックしている。
うーん、と難しそうな顔をしながら俺たち4人を注意深く見るその様子は、さながらコーチのようだった。
「みんな大体振りも覚えてきたし、声もよく出てて良いと思うんだけど、もちょっと手足の先まで意識した方がいいかなー。ほら、さっきミナトくんにも話したリズムの話と通じるところがあると思うんだけど、その拍でちゃんとビシッと先まで伸ばす感じでいくと、もっと全体で見たとき揃って見えると思うんだよね」
「なるほどね」
と言いながらビシっとその場で練習し始めたのはアッキーだった。
その大きくて長い手足が先まで伸びていると、どこか躍動感のようなものを感じる。
アッキーも何だか楽しそうな様子でずっとビシバシ続けている。
「そう!アッキーくんはやっぱ大きいから力強さがあるね!特にこういう踊りだと、そういうダイナミックな感じが必要になるんだよね」
「こう?」
と、トモヤスもアッキーを見て真似し始めた。
海人も俺も、それに倣う。
「そう!それが揃えばすごくカッコよくなると思うなあ。男子はみんな貴重な戦力だから、そこらへんも頑張ってみて!」
「ハイ!」
上手い、乗せるのが上手すぎる。
こいつら俄然やる気出てるし。
と言いながら俺も指先まで意識を張り巡らせる。
「でもね、それと同時に大事なことがもういっこあるの。リラックスだよ、みんな」
「リラックス?」
「そう、色んなところに意識を集中させながらも、脱力すること。つい力が入ってしまいがちだけど、そうすると自然な動きに見えなくなっちゃうから。これが結構むずかしいんだけどね」
そういってなっちゃんは少しはにかんだ。
確かに、またひとつ難易度上がるような事を言われた気がした。
これこそ一日そこらで掴めるものではないだろう。
そしてふと、思ってしまった事がある。
素人の俺たちが、ここまで意識する必要があるのか?と。
これはさすがに口には出さない。
彼女のこの応援団に懸ける思いは俺にでも分かるものだ。
本番では踊りもしない男子パートを、俺たちのために用意して覚えて来てくれた。
動画を見つめるその目は、まさに真剣そのものだった。
きっと他のダンス部も、あるいは団長や組長をはじめとする上級生達も、同じような思いでここにいるだろう。
それでも俺にはまだ、こうして練習に初めて参加した上であっても、「たかが体育祭」という、その気持ちが拭えなかった。
「じゃあ最後に全体で合わせてみたいと思いますー!今日は時間もうあまりないので男子の最初のやつだけかなー」
さっきの金髪先輩がスピーカーを持って呼びかける。
「じゃあがんばってみんな!」
それでもこのなっちゃんの純粋な笑顔で言われると、とりあえずはやろうと、そうひとまず保留する事にしたのだった。