茶番
すると、何度か通しを繰り返していくうちに、少し他の3人とも動きが合っていくような感覚を、心なしか覚える。
「ミナトくんちょっとよくなって来たんじゃない?ね、みんな?」
なっちゃんが嬉しそうに俺の方へ近づいて3人に確かめる。近い近い。
「うん、ミナト飲み込み早いんじゃね?」
海人が何気にフォローしてくれる。
これだからイケメンは。
「うんうん、今はカウントで分かるけど、本番は原曲の音源だけを頼りにやるわけだから、リズム取りは大事だよねえ。原曲だともっと色んな音の情報があるから、全部を一度に聴きすぎないようにするといいかも!」
「なるほど」
そこは原曲を通してやってみないと分からないところではあるが、確かに基準となるような音、主に全体のリズムを司っているのはドラムだろうか、その基準となる音を、他の音と分けて聴く事が結構大切になってくるのだろうか。
拍に間に合うように踊っても、テンポは正しく取れないし、周囲との動きも噛み合わない。
重要なのは、拍の芯に動きをしっかり合わせること。
なんとなくそう理解したが、体が覚えるにはまだまだ時間がかかりそうだなこれは。
「どーする?ちょっとだけ休もっか。全体合わせの時間まだだし」
授業が15時半過ぎに終了して、この体育祭関連の練習時間は大体16時から17時と定められている。
その後は普段の部活動の時間に充てられる仕組みだ。
練習も毎日出来るわけではないので、この時間は割と貴重だ。
と、山本が昨日ラインで言っていた。
「いやいやなっちゃん先輩、自分はまだまだいけますよ!」
トモヤスがうおおと、スポ根ばりの熱血の雰囲気を漂わせる。
「自分もです、なっちゃん先輩」
すかさずアッキーが乗っかる。
ノリ良いなー。
あんま表情変わってないけど。
海人は爽やかに二人の様子を見て笑っているだけだった。
それだけでもう、絵になっているような気がした。
「おおーやるじゃないか我が弟子達よ、では続けるぞ」
なっちゃんが師匠のフリをする。
良い子だなー。
俺はノラねえぞ、こういうのに乗っかるのやだし。
「いや、お前ら足腰キツくねえのかよ...」
この踊り、動画で見ていた時に持っていたイメージよりも下半身に負担がかかる。
重心を低くしたままの動きが多いので、普段通学や下校の際でしか足腰を使っていない俺のような人間にとってはなかなか苦行だったりする。
「何いってんだよ、ミナトジジイか」
「体はもうお爺ちゃんなんだよ、もっと帰宅部を労れ」
「お前これくらいでキツいって将来どうすんだよ」
「それは確かにそうとかしか言い用がねえよトモヤス」
「うわ開き直った!もっと運動しろー」
座り込む俺を立ち上がらせようと、腕を引っ張るトモヤス。
その様子を見ていたなっちゃんも、
「ほらもうちょっとがんばろ、おじいちゃん」
とかいって俺のもう片方の腕を引こうとする。
その小さくて柔らかな手の感触が腕に感じられたので、思わず焦って、
「分かったから」
といって自らの力で立ち上がる。
もう、すぐそうやって触るのやめてね。
そういう本人からしてみれば何気ない安易な行動で勘違いしちゃう男もいるからな?
もちろん俺は違うよ?