リズム感
俺が上手く踊れない原因の一つに、このリズム感の無さがあった。
おそらく昔から、リズムの取り方が下手だったのだ。
だがその原因は分からず、特に知ろうともせず、ずっとそのままにしてきた。
「い、いやあ、大丈夫だよまだ始めたばっかだし」
と、優しいなっちゃんが慌ててフォローしてくれる。
序盤でカウントずらしてるんだからまあヤバいよな。
気使わせてすんません。
「ミナト、ドンマイ」
海人がそう声を掛けてくれるので、
「お、おう」
と首を向けると、そこには笑いを堪える様子の男3人衆がいた。
ようお前ら、やけに統率取れてんじゃねえか。
「なっちゃんごめんこの通り、テンポがズレます」
と、一人優しい言葉を掛けてくれたなっちゃんだけに謝罪の意を示す。
「いや、ホントだいじょーぶ!リズム取るのが苦手な人でもダンスは踊れるようになるよ!」
なっちゃんは俺を励ますようにそう言った後、少し考える様子を見せた。
「そうだなー、たぶんミナトくんは今のカウントを聞き流すって感じで取っちゃってるんじゃないかなあ。1、2、3が、いちー、にー、さんーて感じで」
「うーん?わからん...」
「まあだよねー、もっと音を掴む感じで数えてみるといいかも?トンとかグォ!とかでもいいからさ。声に出してみて」
「う、うん」
グォて。
音を掴む?どういう感覚なのだろうか、それは。
「とはいってもそれだとカウントがどこまで行ってるかわからなくなっちゃうかもだから、今度はわたしカウントしながら踊るね!だから動きはこっちにまかせて、リズム取る事に集中してみて」
「了解っす」
半分もいかないくらいの理解だが、とりあえずやってみるという姿勢を見せるべく、彼女にそう頷いておく。
丁寧にアドバイスしてくれるなっちゃんマジでありがとう。
心の中で涙を流す。
「ミナトがんばれよ〜」
ガヤは放っておくとして、ともかく俺はリズムをしっかり取る事に集中していた。
確かにカウントの取り方なんて気にしていなかった。
それよりも振りに付いていく事ばかりに集中していたから。
リズム感なんて一朝一夕に身に付くものではないと分かっているが、それでもやれるだけやってみようと思った。
正直参加しなければこんな事もせずに済んだのだ。
だが俺は山本に、まずは全力で取り組むという事を宣言した。
それも自らの意志を持って。
ここでいつも通り放棄する事は、そもそもそのスタートラインにすら立てていないことを意味する。
「じゃあもっかい最初からいくよ、ハイ」
「1、2、3、4、5、6...」
間延びでテンポを刻まない。一つ一つ、丁寧に掴んでいくように。
「トンっ、トンっ、トンっ、ッ...!」
恥ずかしさを押し殺すように、声も控えめに口にしながらカウントを取る。
振り付けは、前で元気よく踊るなっちゃんを頼りにして。