意外
「トモヤスくんも夏組だし良かったね、高田くん!」
「ん、良かった?てかお前夏だったっけ...」
「おまえヒドくね?!俺らの友情なんてこんなもんだったんだッ...!」
俺に泣きつくように寄りかかるトモヤス。
いや、俺の中ではこれでもお前とはまあまあ良くやってる方だと思うぜ、だから安心しろ。
言わんけど。
「それよりやっぱ俺がこういうのやるってそんな意外かね...」
トモヤスを押しのけつつ少し話題の転換をしてみる。
運動部なだけあってなかなか剥がせそうに無かったので、それを見兼ねたのかトモヤスからすんなり退いてくれた。
ちょっと悲しい。
「んーそーだね」
西野さんが指を口元に当ててうーんと考える。
「夏生まれの男子の中では一番入ってくれなさそうだなーって感じはしてたね、正直」
「正直だねなっちゃん」
ヘヘーと笑い合う女子二人。
意外と包まず言うんすね西野さん。
とはいえ本当にその反応はいいのだ別に。
きっと誰に言っても同じような反応をされるのだろう。
いかに俺が”そういう”ように見えているのかという事が良く分かる。
今までも「やる気なさそう、眠そう、つまんなそう」とかそうそうそうそう言われてきたし、それは自分でも分かっている。
自分から見た自分と他人から見た自分に乖離が少ないのは悪い事では無いはずだ。
むしろそれだけ自分を客観視していると言える。
こんな形でも、俺は結構自分の思う自分を表現する事が出来ているのだ。
まあそれは置いておくとして、どうしても西野さんに聞くべき事が一つあった。
「あのさ、西野さん」
「ん、何?てかなっちゃんでいいよ!」
はいそうやってすぐホイホイ名前とかあだ名で呼ばせるところ、ダメだと思いますよ。
プラス5点。
それも置いておくとして。
「俺、マジで踊れないけど大丈夫かな?」
そう、高田湊は踊れない。
これは多くのダンスをしていない一般人の「踊れない」とは一線を画すものだ。
壊滅的に下手。
小学校の運動会で行なったソーラン節の様子を、後で親に撮ってもらっていたビデオで見て自分で引いた事を、今でも覚えている。
あれはビビった。
何だろうな、常にテンポがズレているというか、自分の思い描くイメージとは全然違う動きを体がしている。
さっき客観視できてるとか言ってたのはどこの誰ですかね。
「いやあ全然大丈夫だよー。ちゃんと練習すればみんなできるくらいの振り付けだと思うから、心配しないで!」
なっちゃんは笑顔で俺の心配を取り除くように言ってくれる。
でもこれ、伝わってないな。
おそらくちょっとした謙遜くらいに思ったのだろう。
甘いよなっちゃん。
いや何様だよ。
だが無理もない、これだけの言葉で伝わるはずが無い。
まあやれば分かるさ。
それに考えてみれば、全く出来ないと言っておきながら大丈夫かって意味が分からないんだよな。
そんなお馬鹿な質問にもなっちゃんは優しかった。
「じゃあ早速今日から練習しよう、トモヤス君も。今日は体育館でやるから、先に行ってて!」
がんばろー、と両手の握り拳をグッと見せる。
「うぃーっす!いこーぜ、ミナト」
トモヤスが元気にそう答える。
「おう」
「頑張ってね、ミナトくん」
少し後ろで俺たちの様子を見ていた山本がそう微笑む。
俺も彼女の方に顔を向けるが、その清廉な表情に押し返され、すぐさま視線を別の方へと移した。
「…はいよ」
「それじゃなっちゃん、私も秋組の練習行くねー。今年は負けないから!」
「いや、今年も夏組が勝ちまーす」
「何をー?!」
女子同士の楽しそうなやり取りを背に、俺とトモヤスも体育館へ向かう。
「いやあ、お前が自分からこういうイベント事に参加するなんてなー。楽しみになってきたなあ?」
「はあ」
トモヤス、その発言何一つ合ってねえぞ。