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俺には全く関係がない。  作者: みやりく
そもそも彼女とは面識がない。
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立候補

 その前に、確定事項があった。


「はい、学級委員やりたい方。」


 新さんがそう言った瞬間、ピシリと手を挙げたのはもちろん、山本だった。


 おお〜、という声が周囲から漏れる。

 だろうな、という心の声も、そこから聞こえてくるような気がした。


 女子は最初から彼女で解決していたのだ。

 問題は男子。

 昨日大体の奴ととりあえず一言は交わしたつもりだが、流石にそれではまだ一人一人のキャラが見えて来ない。

 まあもうこの際キャラとか何でも良いから、誰か頼む。


「じゃあ女子は山本さんでいいですね、それでは次、男子はいませんか?

あ、山本さん、前来て司会お願いして頂いていいですか」


 そう言いながら新さんは教室用の椅子に腰掛けた。

 やはり年は来ているみたいだった。

 よいしょと座り、腰のあたりを労わるようにさすっている。


「はい」


 一番右端の列にいる山本が、なぜか一列挟んだ列にいる俺の横を通り過ぎる。

 そして俺の机の角を、視線は前を向いたままコツンと少し当てるようにする。

 まるで俺に、昨日の事を念押しするように。

 分かってるって。

 一瞬見えた横顔からは、堂々とした顔色が窺えた。

 だからその感じが怖いんだって。


 山本は教卓の前に立つと、一度全体を見渡すようにしてから、ゆっくりと口を開いた。


「では男子で学級委員をやってくれる人、いますでしょうか?」


 その一言を皮切りに、あとは挙手待ちお祈りタイムが始まる。


 手を合わせてお願いポーズの山本と不意に目が合う。


 いや、合わせられたのだろう。

 山本の口元が、ふっと緩んだように見えた。


 どうやら俺の予想は正しく無かったらしい。

 正しかったのは、彼女の方だった。

 おそらくこういう状況になる可能性の方が高いと、そう踏んでいたのだろう。

 だからあの時あんな案を出したのだ。

 考えてみれば山本側にも勝算があるという、そんな当たり前の事を見落としていた。


 てか何で誰も出て来ないんだよ。

 とりあえず一人は出てくるものだと思っていたのだが、もしかして今までそういうクラスに当たりすぎていただけだったのか?


 隣や俺の視界の前に映る男子たちは、苦笑いしている奴、何とも言えない顔で黒板の方を見ている奴、何も考えてなさそうな奴と、みなそれぞれだった。

 ただ同様に、反応しそうな様子だけは誰にも見えなかった。

 おそらく俺の中央やや手前より後方に座る他の男子陣も、そんな感じなのだろう。

 この他力本願集団がよ。

 俺はいいんだ。


 ともあれ、このままでは俺の負けだ。

 潔く、ここらで手をあげるしかないのだろうか。

 だが一度静まり返った空気からアクションを起こせるのは、一部の選ばれた人間のみである。

 当然俺はそこには属していない。


 しかし前を見ると山本が完全にこちらを向いて、何かを言うように口を動かしていた。


 は・や・く・あ・げ・て。


 躊躇う俺の背中を押したのは、山本だった。

 何これすごい。

 いとも簡単に、さっきまで鉛のように重かった右手が、指の先までスッと綺麗に伸び上がるのだから。

 そして俺は心の中だけで、そっと涙を流した。

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