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世界は無情である 5

「…………これがメーレが言っていた扉だよな?」


 銃火器があった部屋に戻った僕達はメーレが怪しい扉の前に集まっていた。

 扉は床にあり、よく目を凝らさなければ見つかることすら難しいものだった。明らかになにかを隠す為に作られたとしか言いようが無い扉だ。

 もしかしたらここにある銃火器よりも危険なものがあるのかもしれないが、それは無いだろう。

 耳を凝らせば扉の奥から電子音とカタカタと何かを鳴らす音が聞こえて来る。音からしてタイピングしているのだろう。


「うん。多分だけどこの扉の奥に人が居るね。何人かまでは分からないけど」

「何でその距離から分かるの? もしかして蝙蝠のようにソナーでもついているの?」

「まぁ柘榴ですから、メーレ程飛び抜けてはいませんが人間業とは思えないようなことだって出来ますからね」

「待って、何で柘榴より扱いがあれなの? ねえ!」


 メーレがなんか納得言っていないらしいが、素手でコンクリートを砕いたり威嚇しただけでライオンが全面降伏してお腹を見せたことがあるので、僕よりも扱いがあれなのは残等である。

 それに僕なんかは耳を凝らしただけなのでメーレ扱いをされるのは誠に遺憾である。そりゃあ他の人に比べれば耳は良い方だが。


「取り敢えずどうする? 鍵が掛かってるから中に入れないけど――――」

「あっ、扉外れたよー」

「外れたよじゃなくて壊したの間違いだよね?」


 メーレが扉を持ち上げて物理的な意味で壊す。

 しかしこれで中に入れるようになった。

 扉の下は階段になっており、階段を下った先には何やら近未来的な印象を与えるような扉があった。間違いなくこの扉の向こうに誰かが居る。


「この先に、何者かが居る。そしてそれは間違いなく私達の味方というわけではありませんわよね」


 西瓜はさっきのリボルバーに弾丸を装填し、壁に飾られている自動拳銃に手を伸ばす。


「おい、西瓜…………」

「流石に今回は見逃してくださいな。武器は多い方が良いんですから」

「まぁ、分かってるよ。でもそれは最後の手段ということにしてね」

「貴方は私のことを何だと思ってるんですか」

「さっきの行動を思い返せば僕がきみのことをどう思っているのかなんて予想がつくだろうよ」

「申し訳ありませんわね。全く予想が出来ませんわ」

「ああ、お前はそう言うと思ったよ」


 本当にこの幼馴染はいつもいつも毎日が楽しそうで何よりだ。

 まぁこんな世界になった以上、辛気臭い顔をしているよりかはこっちが困るくらい元気な方が良いか。


「さてっと…………それじゃあ下に行ってみようか」


 メーレの言葉を合図に僕等三人はなるべく音を出さないように慎重に階段を降る。

 既に扉を外した音が中に響いていそうだが、こんな亡者溢れる世界になってしまったのだから物音くらい普通に耳に入ってない筈だ。最も流石にそれはありえないだろう。

 自分でも楽観的過ぎる考えなのは理解しているが、そんな希望を持っていても良いじゃないか。今では亡者の方が多くなったとはいえ生きた人を手にかけたくは無い。

 そんな事を考えながら歩き、扉の前に到達する。


「よし、3・2・1の合図で中に突入する――――」

「ダイナミックお邪魔しますですわぁ!!」

「ねぇ、西瓜の知能指数下がってない?」

「普段は猫被ってる、というよりかは矯正してああなっただけだけど元はこんな奴だったよ」


 扉を蹴り破った西瓜の姿を憂いに満ちた瞳で見つめながらそう呟く。

 今でこそお嬢様な口調で誤魔化しているが幼い頃からアクティブなのだ。

 内向的だった僕に反して西瓜は超外向的だった。

 幼い頃の遊びでも鬼ごっこや隠れんぼといった遊びが好きだったし、逆におままごとやお人形遊びは嫌いだった。テレビで見るものは男の子が見るようなヒーローものでぬいぐるみや人形は可愛いものじゃなく、怪獣のぬいぐるみだったりしたのだ。唯一の例外は魔法少女とかアイドルとかだろう。

 今でこそ髪の毛も長くツインテールにしているが昔は男の子のように短くしていたのだ。

 正直今と昔の西瓜が同一人物だなんて知らなかったら分からない。付き合いが長い僕には内面が全く変わってないと分かるが。


「正直僕の方をわんぱく小僧扱いしているけど、今回の探検一番乗り気なのって西瓜なんだよね」

「口ではああ言っていたけど本当にすっごく楽しんでるね。柘榴より楽しんでない?」

「楽しんでるよ。今の今まで大分ストレス溜まってただろうし、外には出れないけどこういった所で発散しておかなくちゃね」

「…………本当に二人は仲が良いね。実際のところさ、柘榴は西瓜の事をどう思ってるのさ」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべながらついさっきにも同じような内容の事を聞いてくる。

 相変わらずメーレの奴は僕と西瓜をくっ付けたいらしい。ただの幼馴染だと何度も言っているのに。

 と、いうかこんな場所でそんな事を聞くか普通――――普通じゃ無かったなこの状況。

 まあ幸いなことに見た感じの広さはそれなりだが視界の届く範囲内に西瓜の姿を確認できるので良しとしよう。


「同じようなことを何度も聞くけどさ。僕と西瓜はただの幼馴染なだけだって」

「いやいや。一緒にお風呂に入っておいてただの幼馴染は無いからね」

「いやいやいや。良くある良くあることだって」

「いやいやいやいや。きみ達にとっては普通な事なのかもしれないけどさ。私からしてみれな全然普通じゃ無いんだって」


 メーレは必死になって僕の意見を否定をする。

 そこまで必死になって否定するような話題なのだろうか。


「実際、どう思っているのか気になってるんだって。この際だから一度聞いてみようと思ってさ」

「…………それ、答える必要ある?」

「答えなかったら私はきみを憎しみで殺す」

「本当にできそうだから止めて…………正直に言うとさ、まぁ嫌いじゃないよ。嫌いだったら話したりさえしていないし。どちらかと言えば腐れ縁に近いけどさ」

「はいはい。本人たちがどう思っていようがそんなのは関係無いんですよ」


 ニコニコとを笑みを浮かべながら茶化すメーレの姿をみて思わず「こいつ本当にシスターかよ」と呟いてしまう。

 だがメーレは聞こえていた筈なのに何の反応も示さなかった。ただ「早く話せ」と言わんばかりの威圧感のみを放っていた。


「改めて思ったけどメーレって性格が悪いよね」

「よく言われます。ですがそれよりも二人のありえたかもしれない未来が気になるんです! だってほら、親子ほど歳の離れた婚約者とかよくあるお話じゃあないですか!」

「その話が現実だから最悪なんだよ。本人同士が納得しているなら話は違うんだけどさ」


 西瓜の今までを知っている僕としては彼女の生い立ちは本当に酷いものだった。

 幼い頃の僕の目から見ても彼女は実の両親から愛情なんて言うものを与えられたことは無い。あるにはあるのかもしれないが少なくとも僕は一度も見たことは無いし、西瓜も愛情らしいものを与えられた事なんて殆ど無いと言っていた。

 実際のところ、お嬢様と言えば聞えは良いが西瓜の人生の殆どは僕の家で過ごしていたと言っても過言じゃ無いくらいなのだから。


「メーレ、いくらなんでもその話は不愉快だよ。もう過ぎ去ったことだし、そんな結末にはならなかったとしても…………そのせいで西瓜は男嫌いになったんだから」


 興味が無いのならそれで良い、本当は良くは無いが自由にさせておけばいいのだ。

 だと言うのに自分にとって都合が良くなると西瓜の意思を無視して無理矢理結婚させようとする等、あまりこういう事は言いたくないし思いたくも無いのだが思わざるおえない。


「西瓜は、あの家で産まれた事が不幸だったんだよ。子は親を選べないとはよく言ったものだね」

「そっかぁ…………そうだね。酷いことを言っていたね」

「分かってくれるならそれで良いよ。でも後でちゃんと謝っておいてね」

「分かったよ。で、それで結局のところ柘榴は西瓜のことをどう思っているの?」

「……………何でまたその事に戻ってるの?」


 上手い具合に話が変わったから逸らせたと思っていたのに。


「いや、だんだん話が逸れていったから軌道修正しないといけないなって思ってさ」

「そのまま忘れてくれれば良かったのに」

「で、結局柘榴は西瓜のことをどう思っているの? 嫌いじゃない、とか曖昧にしないでさ。ちゃんと答えてよ」

「はぁ…………仕方がない」


 もうこれ以上誤魔化しても納得してくれなさそうだ。

 だったら正直に答えて納得してもらうしかないだろう。


「西瓜の事をどう思っているか、だったよね。残念ながら好き、ではないんだよなぁ」

「えー。嫌いじゃないって言ってるんだからさ、そういった曖昧な答えじゃダメ――――」

「愛しているよ」 


 僕がそう言った瞬間、メーレは口から唾を噴き出した。

 噴き出した唾は丁度良く僕の顔面に掛かってしまう。


「ちょっ、汚いなぁもう…………」

「ゲホッ! ご、ごめん…………気管に入った………ゲホっ、ごほっ!」


 思った以上に気管に入ったのか、盛大に咽こんでいるメーレの姿を見て何故か勝ち誇った気分になる。

 いつもニコニコと笑みを浮かべてすまし顔をしていたのを崩してやったのだから良い気分である。


「ま、まさか…………まさかここまで素直に言うとは思わなかったよ」

「素直に答えました。それじゃあ無駄話は終わらせてとっとと行くよ。西瓜が先に進んじゃったみたいだし」


 一応そこまで遠くには行っていないらしく目の届く範囲に居るので心配は無いが。


「まぁ、それは置いておくとして…………何だろうこの部屋」


 西瓜が蹴り破った扉を越えた先にあったもの。

 それは白いという印象を植え付けるような部屋だった。

 清潔感に満ち、汚れというものがあったらすぐに目立ってしまう程に眩しくて明るい。

 僕の記憶の中にある中でこれに似たものがあるとしたら、それは大学病院の研究所と答えるだろう。

 何でそんな場所を知っているのかについては西瓜と一緒に忍び込んだ事があるからである。


「ふむ、中々に広いね」


 メーレが慎重に前に進みながら探索を始める。

 意外とこの中で最も慎重で冷静なのはメーレだった。

 怪力に加えて技術もあるとか、本当に『天は二物を与えず』とは嘘っぱちであることを証明させてくれる。

 ただしあの何度も同じよう事を聞いてくるあの根性さえ無かったらの話だが。


「ついさっきまでここに誰かが居た、とは思えないけど何らかに使われた形跡はあるね」


 置かれていた机を指でなぞり、埃があるのを確認する。

 確かに結構掃除されていない感じがする。生活感が無いと言う表現だって出来る。

 しかしながら誰かが居た、というのは僕もメーレの意見に同じだった。


「…………多分、居るとしたらあそこだよね」


 この部屋の奥にあるもう一枚の扉、そこからタイピングの音が聞こえる。

 恐らくあの扉の向こうに人間が居るのだろう。


「でも今はそっちよりもこの部屋を探索しなくちゃね」


 あの扉はどうやら鍵が掛かっているらしく、外すのは時間が掛かりそうだ。

 メーレなら扉ごと取り外してしまいそうだが。


「そういや西瓜、そっちはどうなの?」

「へっ!? あ、いや…………こ、こっちは大丈夫です…………わよ…………」


 先に一人でこの部屋の探索をしていた西瓜に話しかける。

 すると西瓜は僕の顔を見るなり、自身の顔を真っ赤にして僕から顔を背けた。


「…………もしかして、さっきの会話聞いてた?」


 僕の問い掛けに西瓜はこくりと首を縦に振って頷く。


「あ、私ちょっと席を外すね」


 事の元凶であるメーレはにやにやと笑みを浮かべながら離れていく。

 どうやらアイツとは一度本格的に話さないといけないようらしい。

 そんな事を考えながら顔を真っ赤にして俯いている西瓜の姿を見て溜め息をついた。

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