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世界は無情である 2

 この陽山学園は少子化が加速している近年にしては珍しいマンモス高校だった。

 様々な事柄に取り組む姿勢を見せており、学校の広さもかなりのものだ。体育館は四つもある上に地下一階から地上四階建て、と無駄に広いと入学当初はそう思った。

 菜園設備に高度な浄水装置、ソーラーパネルを含めた自家発電装置に命の尊さを学ぶ為という名目で育てている鶏などの家畜に無駄に広い中庭で放し飼いにしている可愛い兎達。その上、保存食や缶詰調味料を含めた大量の食糧が備蓄していた。

 他にも色々と語るべきことがあるのだが、まぁ私立とはいえ一高校が持っているにはあまりにも過剰過ぎる用意がされていたのだ。

 それこそ大勢の人間がここで暮らしていても問題ないくらいには。


「……………改めて思うけど、やっぱりこれって異常だよね」

「何を今更言ってやがりますか」


 四階にある第四体育館でいつも通り運動をしている二人を見ながら考え事をしていると、西瓜がいつの間にか近くにまで来ていた。

 体操服、何故かブルマを着ているのかは分からないが、まぁそれは今はどうでも良い事だろう。


「亡者溢れるこの世界が異常以外のなにものなんですか。そんなことはもう分かり切ったことでしょうに」

「いや、そっちもそうだけどさ。僕が言いたいのはこの建物のことだよ」


 バスケットゴールにダンクシュートを決めているメーレを遠目にしながら僕の考えを西瓜に言っていく。


「ふむ、成程…………確かによく考えると色々とおかしいですわよね」

「でしょ? 災害対策にしては過剰、じゃないにしても用意周到だし…………まるでこんな状況になることを最初から予測していたみたいだ」


 正直な話し、これは前々から思っていたことだった。

 学費が安く試験的な意味合いもあった為、何となく入学してみたは良いがよくよく考えると明らかにおかしいところも多すぎるのだ。

 結果的にここの設備に救われている僕達が言うのもおかしな話だが。


「まぁ、そう思いますわよねぇ。私もそれは前々から思っていたことですわ」

「西瓜も考えていたんだ」

「考えていないわけがないじゃないですか。いえ、メーレは考えていないかもしれませんが」


 確かにメーレはこういった難しいことは考えないだろう。

 何と言うか、アホの子だし。


「とは言え、考えてどうにかなるんですの? 調べて何かが分かるんですの? 分かった所でどうにかなるんですの?」

「うぐっ、それを言われちゃ何も言えないよ」

「大方疑問や好奇心からそう言うことを考えていたんでしょうがね。まぁ、大体の予測は出来ますわよ。そういったことを考える時間は無駄にあったんですし」


 むしろここでの生活ではそう言った事しか考えないだろう。

 気分を逸らそうにも外には亡者が今もうろついているのだから。それに娯楽も以前と比べて少なくなった。

 ボードゲームやカードゲーム、僕達ならこうした運動も出来るが外の人はそんなことを考える余裕も無いだろう。


「でも、さっきも言いましたけどそれを知ってどうにかなるんですの? こんな世界になってしまった以上、知らない方が良かったこともあるでしょう。むしろ知らない事の方が良いことで満ちているかもしれません。例え知ったとしてもこうなった現状を変えることは出来ません」

「地味に酷い事を言うなぁ…………」

「当然ですわ。世の中知らない方が良いことだってある。無知は罪と言いますが、知る事で罪になることだってあるんですのよ」

「無知で居るよりははるかにマシだ。自分の眼で見て、自分で知ったことで考えて、今の自分に何が出来るかを知らなくちゃいけないだろう。僕達だって、一生ここで平穏無事に過ごせるとは限らないんだし」

「一生ここで無事に過ごせるかもしれませんわよ?」

「だとしてもだ。持っている手札は多い方が良い筈だよ。僕達もこの生活に余裕が出てきた今しかできない」

「……………そうやって言っていますけど、貴方単純に探検がしたいだけでしょう?」

「大正解」

「はぁ…………全く、外見はお姫様だというのに中身はどうしてやんちゃなわんぱく小僧のままなんですかね貴方は」

「男の子だからさ」


 エッヘン、と胸を張ると頭を軽く叩かれる。


「と、まぁ…………冗談はさておき、さっきも言ったけど実際のところ余裕が出てきたから一度調べたいとは思っていたんだよ。理事長の最後の言葉が気になってるし」

「……………貴方が聞いたとかいう、理事長の最後の言葉ですか」

「もし僕の想像が正しいならこの学校には奴等に対抗する何かがあると思うんだ。例え無かったとしても、全く何も無いわけじゃあないだろうし、それはそれでストレス解消にはなると思うし」

「はぁ、どちらにせよ損は無いと言うわけですか。良いでしょう、探すとしてみましょうか」

「やったー! ありがとう西瓜大好き―!!」


 ぴょんぴょんとその場で跳ねて喜びを身体で表現する。


「メーレさん! 壊れたようにダンクシュートを決めるのはもうやめてくださいな!」


 ミシミシと嫌な音を立て始めたバスケットゴールに気にせずに何度もダンクシュートを叩き込んでいたメーレに止めるよう声を掛ける。

 っていうか本気で壊す気かよ。ただでさえ少ない娯楽なんだからもうちょっと手加減してほしい。


「ん、なにー? どうしたの?」

「いえ、ちょっとこれからこの学校を探検しようかと思いまして、折角ですし一緒にどうですか?」

「二人が行くなら私も一緒に行くよ」


 あっさりと僕達に同行すると了承し、バスケットボールを投げ捨てる。

 投げられたそれはボールが入った籠に向かって飛んでいくが入ることは無く、ガシャンと音を立てて転がった。


「あー、失敗しちゃった」

「別に構いませんわよ。どうせ私達以外居ないんですから」


 西瓜は哀愁を帯びたその言葉を呟くとともに後ろを振り向きもせずに体育館から出て行く。

 先に行った二人を追いかけるように僕も遅れて駆け出す。

 その際に床に転がったバスケットボールを視界に入れるも、気にせずに体育館を後にした。

 体育館から出てブルマ姿の二人に合流する。


「それじゃ、先ずは何処を探しますか?」

「いやいや西瓜。その前にやることがあるでしょ」

「やること? 何かあるの?」

「ふっふっふ…………メーレもまだまだだねぇ。秘密の多い建物の中で! これから様々なことを調べようと言うのだから! 必要なものがあるじゃないか!!」

「良いからとっとと言いやがってくださいませ」


 両手を広げて高らかに宣言すると西瓜から容赦の無い一言を浴びせられる。

 だが僕は気にせずに言葉を続ける。


「それは武器だよ! ウェポン、ソード、ブレイドォッ!!」


 未探索の部屋と言う名の迷宮、情報収集と言う名の宝探し、亡者と言う名のモンスターが犇めくこの世界において無力な探索者で居る事はどうか殺してくださいと言っているようなものだ。

 だから僕達は変わらなくてはいけない。どんな状況でも対応できるように武器を持たなくてはいけないんだ。

 こんな世紀末染みた世界、戦わなければ生き残れないのだから。


「凄いねー。まるで星空のように目を輝かせてるよ」

「この子、こういうノリが好きなんですよね。中学校時代でもよくありましたよ。その時のあだ名が返り血の吸血鬼とか」

「止めて。僕の黒歴史を思い出させないで」


 本当に無かったことにしたい昔話だ。


「取り敢えず最初は職員室から調べましょっか」

「そうだねー」

「待って! お願いだから武器持たせて! せめて気分だけは味わいたいんだよっ!」


 去ろうとする二人の手を掴んで止めようとする。

 だが二人は僕のことを気にせずそのまま足早に去ろうとする。

 いくら背丈が、体格が、それどころか体重までもが下回っているとはいえここまで引きずられるとは思いたくなかった。

 だが僕も諦めるわけにはいかない。と、いうか色々認めたくない事実を突き付けられて黙っているなんて出来るものか。

 こうなったら最後の手段を使ってでも二人を止めなくちゃ。

 そう考えた僕は二人から手を離して地面に伏せる。


「お願いします! 本当にお願いします! もし何かあったら守られないといけなくなっちゃうから、役立たずになるのだけは嫌なんです!」


 床に伏して土下座をしながらなんとか二人に懇願する。

 だが二人はそんな僕を無視して先に進んでいく。


「本当にお願い!! 何でもしますからっ!!」


 僕がそう言った瞬間だった。


「ん? 今何でもするって言いましたわね?」

「うんうん。言ったよ。ちゃんと聞こえたしね」


 二人は今まで無視して歩いていたのが嘘のように良い顔をして歩み寄って来た。

 もしかして僕は早まったことをしてしまったのではないだろうか。

 そう思う僕を裏腹に二人は僕の前に立っていた。

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