終わる日常と始まりの非日常 2
「まさか…………夜の学校に来ることになるなんて思いもしなかったよ」
「そう言わないでくださいな。私達だってこうなるなんて思っていなかったんですから」
「でも私達、これで一蓮托生だよ」
夜空を月が照らしている中、僕達は自分達が通っている陽山学園の前に居た。
学生達が学業を営んでいる時は電気で光っている筈だったのに、夜になり教師達も帰った今は真っ暗な闇に包まれていた。夜の学校というものには七不思議とか恐怖のイメージがあるが、それを感じさせるだけの何かがあるのだろう。
新築だというのにも関わらず、そう思ってしまったのはきっと僕だけでは無いだろう。
「けどさ、どうやって入るの? 夜の学校って基本鍵もしまっているだろうし、何より警報装置とか警備員も居るよね?」
メーレの言葉に僕は確かに、と思ってしまう。
正直な話し、昔の学校ではそこまで警備はきつくなかったらしいが近年ではそういったものもある。
このまま行けば僕達は間違いなく捕まってしまい、下手すれば僕達は警察のお世話にもなる。
それ以前に先ずはこの校門を乗り越えなくちゃいけない。
「それについては考えてありますわよ」
しかし西瓜は自信満々と言わんばかりに笑みを浮かべている。
「そんな事を考えるのなら何で宿題を忘れちゃうんだろうね…………」
「それを言われると私も辛いんですの。お願いですから言わないでくださいな」
「はいはい。それでこの校門はどうするつもりなの?」
僕達の眼前に映るのはこの学校の入り口でもある校門だった。
この学園の敷地を覆うようにして建ってある塀のせいで、僕等はグラウンドから侵入するということが出来ないでいた。侵入する為には正面から入らないといけないのだ。
塀の高さは別にそこまで高くは無いが、だからといって三人全員で乗り越えられるかと聞かれれば無理だといえるぐらいの高さだ。
僕ならば体格が小柄な上に身軽だから登れなくも無いし、多分一人だけなら突破も容易い。だけど他の二人が入れるかと聞かれれば不可能だと答えられる。西瓜は単純に運動神経的な意味で、上ること自体出来無さそうだ。メーレの身体能力は高いけど、身動きのしやすさと言う意味ではあまり向いていない。鍵を開けるにしても門が開いていたら警備員が不自然に思うだろう。
一体どうすれば良いのか。
「取り敢えずは柘榴、中に入ってくださいな」
「分かったよ、っと」
西瓜の指示を受けて慣れた様子で僕は門を乗り越えて敷地内に侵入する。
「中に入ったけどこれからどうするのッ!!?」
中に入ったことを二人に伝えようと後ろを振り向いた瞬間だった。
西瓜は自分の腰につけていたベルトを外し始めていたのは。
「な、何をしているの!?」
突然ベルトを外し始めた西瓜の行動に驚きを隠せずにいると、西瓜は自身の唇に指を一本当てる。
「しーっ! 声は静かにっ!」
「ご、ごめん…………でもなにを…………」
「このベルトをロープ代わりにするんですわ。メーレさんも外してくださいな」
「え、わ、私も外すの?」
「当然ですわ…………恥ずかしいかもしれませんがやってください。そして柘榴、私とメーレさんのベルトを繋いだら上から渡しますので、貴方のベルトとつなげてください。このベルトをロープ代わりにします」
確かに、それならば二人も乗り越えられるだろう。
しかし他に方法は無いのだろうか、そんな視線を向けると西瓜の履いていたスカートがズレ落ち、彼女の下着が露わになる。
水色と白の縞々だった。
「う、ぐっ…………お願いしますからやってくださいな。私も結構恥ずかしいんですから」
「わ、分かったよ…………」
西瓜の言う事通りに三人分のベルトでロープを作成し、二人がこのロープを使って敷地内に侵入するとことに成功する。しかし、その際に西瓜はおろかメーレのスカートもズレ落ちてしまい、彼女のパンツが露わになってしまう。
黄色の紐パンだった。仮にもシスターである筈なのに中々エロティックな下着である。
「今日の事は絶対に忘れてくださいな。良いですね」
「お願いだよ柘榴。僕はきみを殺したくない」
「わ、分かったよ……………」
敷地内に入るだけでも一波乱があったものの、三人全員上手い具合に入ることが出来た。
宿題を取り戻すことを目標だとするならば、これは第一段階だろう。
まるで探索型のゲームみたいだ。等と場違いなことを考えてしまい、笑みを浮かべていると頭を軽く叩かれた。
「何にやけているんですの。これでも真面目にやっているんですわよ」
「ごめんごめん。でもさ、ちょっとこういうのってドキドキしない?」
夜中に校舎に忍び込むといった行動は童心に戻った感じでなんか懐かしい感じがする。
「本当に男の子はこれだから…………言っておきますけど、これはばれたら警察に捕まっちゃうんですわよ。住居侵入罪ですわよ」
西瓜はジトっとした目で此方を見て来る。
やっぱり根っからのお嬢様にはこの気持ちは分からないか。
そう思っているとメーレに肩を叩かれる。
「大丈夫。私にはその気持ち分かるよ」
メーレはにっこりと微笑みながら僕の言葉に同意をする。
「今の私達は三人の女怪盗、スリーレディース!」
「僕男の子なんだけど!!?」
「ちょっ!? 柘榴大きな声を出さないでください!!」
何でそこで女の子扱いされないといけないのか、その事実に僕は思わず大声で叫んでしまう。
すぐさま西瓜に注意されるも時既に遅く、僕達が居る場所から少しずれた先にライトの光が当てられた。
「誰かそこに居るのか?」
懐中電灯を持った警備員がそう呟きながら此方に歩み寄って来る。
僕達三人は揃って口に手を当てて塞ぎ、呼吸を止める。
「おーい。誰か居るなら出て来ーい!」
呑気な口調ながらもこっちに近付いてくる警備員に僕達は緊張を隠せずにいた。
このままでは見つかってしまう。そう思ったその時だった。
「にゃあん」
ライトの光が向けられた先の茂みから一匹の黒猫が姿を現したのは。
あの黒猫はにゃん太郎、僕がこの間この学園内で偶然見つけた猫だ。
いけないことだとは分かってはいるがついつい餌をあげてしまい、懐かれてしまっている。
「なんだ、猫が居たのか」
警備員は安堵の溜め息を漏らしながらも黒猫に近付き、手を軽く振るう。
にゃん太郎は警備員から離れて何処かにへと去っていく。
「うし、巡回はこれぐらいにしてコンビニ行ってくるか。ここコンビニが近くに無いのが不便だよなぁ」
そう呟きながら警備員は僕達に後姿を見せて去っていく。
どうやら僕達の存在はばれることはなかったらしい。しかも暫くの間、外出するという。
チャンスだ。僕達三人は目を会わせて頷く。
ありがとうにゃん太郎、きみのおかげで僕達は救われたよ。
心の中でにゃん太郎に感謝をしながら僕達は音を立てないように忍び足で校舎内に忍び込んだ。