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例え結末が悲劇だとしても 2

 西瓜に案内され、向かった先は地下にある駐車場だった。


「何だこれ…………」


 僕は思わず言葉を失ってしまったがそれも無理も無い話だった。

 そこにあったものは大型のキャンピングカーだった。それもただのキャンピングカーではなく、電気で動くように改造された上、ソーラーパネルが取り付けられていたからだ。

 明らかにガソリン等の燃料が無くても動けるように改造された一品で、僕達にとって何でこんな都合が良い物があるのか一瞬不思議に思ってしまうぐらいだった。

 俗に言う電気自動車に近いが、明らかにバッテリーの量も多過ぎる。

 多くの人が乗る大型バスと言った方がまだ理解出来る。

 そんなのが複数存在する。


「これはこの施設が使えなくなった時に使う、いわば予備の車両ですわね」

「うーん。ほんっとうにお金が掛かってるって感じがするね」

「でもまぁ、使えますので文句を言う必要は無いでしょう。ほら、中に入って下さいな」


 西瓜に急かされて車の中に入る。

 車の中は中々に広く、色々と物が置かれているが快適に過ごせそうな感じがした。まるで高級ホテルの内装を思わせるかのようだ。


「相変わらず無駄に金かかってるな」

「作った人達があれですし、お金はかかってると思いますわよ。あの人達が実際に使ったら多分ストレスで一日も持たないとは思いますが」

「同感だね。食料とかだって補充しなくちゃいけないし、流石に一日は無いと思うけど三日も持たないと思う」


 結局のところ、作ったは良いがあの人達はこの世界で生き残れる人間では無かった。

 典型的な金持ち連中の道楽で作ったのかもしれないが、それを活かすことが出来る人間じゃなきゃ意味が無いだろうに。


「…………自業自得か、なるべくしてなった運命なのか」

「どちらにせよ便利なので使わせていただきますわね」

「って、ちょっと待てい。僕等の中でこの車を運転できる奴居るの?」


 一応僕はバイクの免許を持っていたが当然だが車の免許は持っていない。と、いうか年齢的にも法律的にも免許を取ることが出来なかった。

 だから当然車を運転出来る人なんかここには存在しない。世界が壊れてしまった以上、無免許で運転しても誰も咎めない。しかし、全くのど素人が運転するのと経験がある人が運転するのとでは全く意味が違う。

 はっきり言って事故らないか心配なのだ。


「私は学んだことあるし、乗った経験もあるよー」


 そんな僕の疑問にメーレは手を挙げならか答える。

 外国だから車を運転する機会もあるだろう。と、考えたがイタリアでも車を運転する事が可能になるのは18歳からである。それなのにどうしてメーレは乗った経験があるのだろうか。


「それならお願いしますわね」

「任せてよ。ところで亡者は別に轢いても問題は無いよね?」

「問題はありませんが出来る限り控えて下さいな。車体が大破したら元も子もないんですから」

「分かったよー。ほら、二人ともシートベルトしっかりつけて。私の運転は荒いからね」


 僕が胸の内に抱えていた思いを告げる前にメーレによって座席に座らされる。

 内心不満があったがこうなってはもう仕方がない。流されるがままに流されるしかない。


「そう言えばさ。ここって地下だけどどうやってこの車両で外まで出るのさ」

「隠し通路があったのでそこから出ますわ。ちなみに学園の裏山に出口がありますわね。ほら、裏山にあった謎のシャッターが出口ですわ」

「本当にこの学園って避難用に作ったのかな?」


 はっきり言って悪の組織が建造した秘密基地と言われても多分信じるだろう。

 そんな怪しい施設をアジトにしている僕達。うん、外に居る今生き残っている人達からしたら何か碌でも無い事をやっているよう人達としか思われないな。


「それじゃあ出発進行――――!」


 メーレが車のキーを回し、アクセルを踏んだ。


   +++


「お、おぇええええええ…………げぇ…………」

「す、西瓜…………大丈夫?」

「………ご、ぼぇ…………これが大丈夫なように、見えヴぉぇえええ……………」

「全然見えないね。取り敢えず黙って背中を摩ってるから」


 目的地であるデパートに着いた瞬間、西瓜は胃の内容物を思いっきり身体の外にぶちまけた。

 幸いなことに元お嬢様の維持と言うべきか、それとも車の中で吐きたくないという思い故か、車の外に出てから嘔吐していた。

 暫くは無理だろうな。背中を摩りながら胃液の苦味と込み上げて来る内容物によって苦しんでいる西瓜の状態を見てそう思う。

 それから暫くして回復した西瓜は一言呟いた。


「…………帰りの運転は柘榴がやってくださいな」

「分かったよ。メーレに任せてたら命がいくつあっても足りない」


 学校から出発した瞬間、僕達はメーレに運転をさせた事を深く後悔した。

 確かにメーレは運転の経験があった。それは疑いようのない事実である。

 ただし経験があっても運転の腕前が良いかと聞かれれば全く話が違うのである。

 少なくとも道中、群れ成して襲い掛かって来る亡者達を相手に車の前輪を軸にして独楽のように回転させ、次々と亡者を吹き飛ばしていったのは爽快だった。その車の中に僕達が居るのを除けばだが。

 最も僕としてはジェットコースター以上にスリルがあったし、中々に楽しかったが西瓜の場合はそうではなかったらしい。まぁアウトドア的ではあるものの僕やメーレと違って少し病弱の西瓜からしたら大分きつかっただろう。


「バイクしか運転したことが無いけど頑張ってみるよ」

「お願いしますわね。さて、メーレは何処に行ったのでしょうか?」

「ちょっと様子を見に行ってくるって言ってたけど…………あ、戻って来た」


 出入口の方からメーレが姿を現して戻って来る。

 その表情は何処か浮かない様子だった。


「中の様子はどうだった?」

「ダメダメ、全然ダメダメだよ。中はうじゃうじゃ、亡者だらけだよ。とてもじゃないけど真正面から行ったら物量差で普通に殺される」

「やっぱり、そうですわよね。と、なると亡者が増えた原因はこのデパートが関係してありますわね」


 いくら僕達が亡者にならなくなったからと言っても死の危険性まで無くなったわけじゃない。

 十体程度ならば勝ち目があるものの、それ以上の数が一気に押し寄せてきたら押し潰されて死んでしまう。


「で、どうするの? 正直言って正面から中に入ることは出来ないよ」

「なら正面から入らなければ良いんですのよ。こういう時は裏玄関から入れば良いんですのよ。ここまで大きいデパートならば職員用の階段だってある筈ですし」

「無かったらどうするの?」

「その時はその時ですわよ。正直言って狭い通路を選びながら進むしか無いですわね」


 結局のところ、西瓜の言う通りにするしか無いのだろう。

 メーレが中の様子を見て無理だと判断したならば、正面突破は決してしちゃいけないのだ。

 元より正面突破をするつもりは無かったが亡者だらけだという事実に気が引けてしまう。

 臆病なのはこの世界にとって良い事だ。しかし、ローリターンであってもやらなくちゃいけない。


「本当に儘ならないなぁ…………」


 そう呟きながら僕はメーレが見に行った場所、デパートの表玄関まで向かう。

 玄関のガラスは酷く壊れており、血の跡がべったりとついていた。


「…………本当に悲惨だな」


 覗き込むような形で中の状況に視線を向ける。

 デパートの中は控えめに言って地獄だった。亡者がゴキブリのように一階のフロアに密集しており、あのメーレが入るのは駄目と言うのが分かる。

 これは中に入っても生き残る事なんか出来そうにない。

 幸いなのは上階の方には亡者がそこまで居ない事だろう。亡者の足取りでは階段を上るのが難しいのだろうか、難しいのだろう。あれ程までにズタズタの傷だらけならば階段を上っている途中で転んでしまいそうだ。

 事実、階段の方は血の跡がたっぷりついている。


「――――どういう事だ?」


 視界の端に捉えたモノは人間の骨、それも見て一発で分かる骸骨だった、

 それが複数個程フロアに無造作に捨てられている。規則的に並べられているわけではない、本当に投げ捨てられているとしか言いようが無かった。

 この世界では人間の骨というものは別に珍しい物じゃない。動かなくなった亡者が腐って白骨化したり、動いている亡者でも骨が露出するまで損傷している場合がある。しかしこの場合は違う。明らかに骨だけを投げ捨てているのだ。でなければあんなに散らばったりはしない。


「あれ? どうしたんですの柘榴、さっきメーレが見ていたというのに」

「いや、ちょっとね。少し気になるモノを見つけたというか、何と言うべきか」

「気になるモノ? 私が見た時はそこまで気になるようなものは無かった筈だけど」

「メーレが見て気にならなかったことだし、僕の杞憂かもしれない。でも違和感があった」

「……………話してくださいますか?」


 歩み寄って来た二人に僕が感じた違和感を話す。

 すると西瓜は顎に手を当て、少し考えた後に口を開いた。


「これは…………最悪、そういう事もありますわよね」

「西瓜は何か分かったの? 私が見ても気が付かず、柘榴は違和感を覚えた事」

「ええ、分かりましたわ。ただあまり口に出したいものじゃありませんわね」


 メーレにそう話しながら西瓜は持ってきた鞄からマスクを取り出して、口に装着する。


「先に全部吐いていて良かったかもしれませんわね。私の想像の通りなら、中は最悪としか言いようが無い状況になっていると思いますから」

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