例え結末が悲劇だとしても 1
百合子さんを殺害してから数日が経過し、心の傷やストレスも少しずつ言え始めてきた時だった。
土砂降りの雨が降る中、湿気と蒸し暑さに苦しんでいると下着姿の西瓜がうんざりしていると言わんばかりの表情でこう呟いた。
「…………今の私達に足りないもの、それは何だと思います?」
「避妊具!」
「だまらっしゃいこの煩悩エロシスターがっ!! 今から本当に真面目な話をするんですのよ!! てめぇのくっだらねぇ下ネタに付き合う余裕が今の俺達にあると思ってんのかぁ!!」
ふざけて変なことをほざいたメーレに対し、西瓜は罵倒で返した。
余程精神的に余裕が無いのか昔の男口調が出ている辺り、本当に余裕が無いらしい。
まぁこうもじとじとしているとやる気だって失せて来るしストレスだって加速度的に溜まる。
僕なんかもう何もしたくないから畳の上で突っ伏しているのだから。暦で言うのなら今は六月になったばっかりだが、梅雨だとかいう雨季の影響が出ている。その上、屋上で農作業をしていたらゲリラ豪雨の被害にあってしまい下着までびっしょりしているのだ。
それがたった一日だけならば問題は無かった。そう、問題なかったのである。
だが毎回ゲリラ豪雨の被害にあって全身びしょ濡れにされれば誰だってストレスが溜まる。と、言うかブチぎれる。湿気が強いのもあって服が乾かないのもあり、着る服が無ければ猶更である。
おかげで僕達三人は微妙に生乾きの下着を穿くしかない状態なのだ。
「今、私達に必要なモノは服です! 下着です! 兎に角衣類とか布です!!」
「まぁ…………そうだよね。僕達三人、一応下着は鞄の中に入ってたけど服って制服とジャージしか無いから」
「後は柘榴用のメイド服ですわね」
「何で僕のメイド服をそこに含めるんだよ。って、普段なら言ってたけどさ。それを含めても少なすぎるよ」
衣食住の内、食事と住居は整っている。だが衣類に関しては殆ど無いような状態だ。
一応校内中を探し回って着れそうな服もあるにはあるのだが、それだってサイズがあっていない。
「後は靴もだね。まだ大丈夫だと思うけど、予備の靴がいくつかあった方が良い」
「ついでに毛布とかタオルケットも欲しいよね。と、言うか色々と欲しい物があるよね」
僕とメーレは思ったことを口に出していく。
人間というものは不思議なもので、満たされた状態でも足りないと思ったら欲しい物が増えていくのである。
それが現状無いのなら猶更である。
「よし、こうなったら外に行って補充しに行きますわよ!」
だから西瓜がこういった結論を出すのも至極当然とまではいかないが、ある意味当然の帰結でもあった。
「でも外には亡者が沢山居るよ。雨の中なのにね」
そう言って雨が降る外に視線を向ける。
さっきから雷が鳴り響き、バケツをひっくり返したかのような酷い雨が降る中であっても亡者達は元気に徘徊していた。
心なしか以前見た時よりも数が増えているような気がする。
ただ土砂降りの餌食になっているせいか動きが遅い。
「あっ、雷が落ちた」
ピカッと一瞬だけ外が光り輝き、外に居た亡者の内の一体に雷が落ちる。
全身が黒焦げになり、口から黒煙を吐きながら雷に打たれた亡者は倒れて動かなくなった。
「ええ、確かに沢山いますわね。でも雨が降っていますのよ。それは私達にとって好都合ですわ」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべ、窓の外に居る亡者達を睨みつける。
再び雷が落ちて近くの亡者に直撃する。今度は地面にある雨水を伝って他の亡者達にも感電し、数体の亡者達の活動が停止した。
「この雨の中、行くの?」
「ちょっと行く気が消え失せましたが今行かないと次いつ行けるのかも分からないですからね。少なくともこの雨で臭いはおろか、音も姿も隠してくれますからね」
亡者が人間を襲う時、どうやって人間だと認識しているのか。
百合子さんがやっていた人体実験のまとめに書かれていたが亡者は人間だった時となんら変わらない五感で情報を得ているらしい。特に聴力と嗅覚が発達しており、それで人間を発見するらしい。逆に視力は下がっているらしく、動かず臭いもどうにかすれば余程近くに接近しなければ大丈夫らしい。臭いで探すことも犬には劣るので清潔にしてさえいれば大丈夫だ。
ついでに僕等は既にワクチンを接種しているので亡者になる心配も無い。
とは言え、一体一体の力も強く、群れて襲い掛かってくるので危険なのに違いはない。奴等の仲間にならないというだけで死ぬ危険はまだあるのだから。
「身に降りかかる危険は限りなく少ない方が良いでしょうし、それに気になることも多いですからね」
「気になること?」
「ええ。二人も薄々気が付いているとは思いますでしょうが、日に日に亡者どもが多くなっていますわ」
西瓜の発言に僕とメーレは思わず首を縦に振って同意する。
外でうろついている亡者の数は明らかに多いとしか言い様が無い状態だった。身に纏っている服装も学生服だけではなく、私服とかスーツを含めた様々な服を着た亡者が殆どだ。
「一応屋上からライフルで狙撃してますけど、明らかに増えていますわね」
「おい、貴重な弾丸を無駄にするなよ。銃に問題が無いのは分かったとはいえ、無駄に使う意味は無いんだから」
「安心して下さいな。ライフルだったのは初日だけ、今ではメーレのゴリラな馬鹿力で放つスリングショットや私が作ったこのボウガンで始末していますわ」
「なら良し」
「良しじゃないよ! さらりとゴリラ扱いされてるの納得いかないよ!」
メーレは立ち上がり「うがー!」と吠える。
しかし本当にメーレってスタイルが良い。さっきから胸の谷間が見えていたし、立ち上がった拍子に胸が揺れていた。
一瞬だけ西瓜が殺意の籠った瞳で睨み付けたが、すぐに平静に戻る。
そう言えば西瓜の身長とか体格って初経が起きてから全く変わっていないような気がする。それでも僕より身長が高いのはちょっと許せない。誤差の範囲だとしても許せない。殆ど誤差しか無いのに「私の方が三センチ高いですわね」と言った西瓜のことは絶対に許さない。
「で、これは私の予想なんですが大勢の避難民が集まっている場所が亡者達によって襲撃されたんだと思うんですよ。でなきゃここまで増えるわけがありません。勝手に生えて来るなら話は別ですがね」
「大根のように?」
「ぶほっ! ちょっ、変なことを言わないでください柘榴…………! 今、大根のように生えて来る亡者の姿を幻視しちゃったじゃないですか…………!」
心底おかしかったのか西瓜はげらげらと笑いながら転げまわる。
笑いのセンスというか、ツボがおかしいのではないだろうか。少なくとも亡者が大根のように生えていたら間違いなく腰を抜かすだろう。
「大根のように生えて来ても全員ぶっ潰せば問題無いんじゃないかな?」
「それが出来るのはお前だけだよ」
拳を握り締めるメーレの姿を見て思わず呟いてしまう。
正直に言ってワクチンを飲んだ今のメーレならば亡者相手に夢想をかましても不思議では無いのだ。
以前ならば亡者に噛まれてしまい、史上最強にして最悪の亡者が誕生する危険性があった為、積極的に戦わせられなかった。だってメーレが亡者になったら人類が文字通り滅亡するんだもの。
「と、取り敢えず今回は道具を新たに仕入れることと外の情報を入手する事。正直に言ってハイリスクローリターン過ぎますわね」
「えー…………それ、やらなくちゃいけないの?」
「やらなくちゃいけないんですのよ。正直に言って服が無いのは本当にきついんですのよ」
結局のところ、やらなくちゃいけないからやるという結論に行き付いた。
メリットがあまり無かったとしても、危険性しか無かったとしてもやらないわけにはいかないのだ。
「でも足はどうするのさ。この雨の中を徒歩で行くの?」
「それは大丈夫ですわ。この前の探索で良い物を見つけましたからね」




