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世界は無情である 6

 遠くに行っていたからとはいえ先程の会話を聞いてないと思ったのは楽観的過ぎた考えだったと思う。

 しかしながら話を聞かれているとは思ってなかったし、まさかこんな反応をするとは思ってもみなかった。内面的にはガサツとしか言えようが無いくらいなのだから。

 だからこんな反応をするのはある意味で新鮮だった。


「さっきの話どこまで聞いていたの?」

「…………さ、最初から最後まで全部、ですわ」

「あー、そっかぁ。そうなのかぁ」


 メーレの奴、分かっててやっただろう。と、いうか絶対に確信犯だ。

 心にふつふつとメーレに対する怒りを沸き立たせていると西瓜は口を開く。


「私の事を愛してるって、本当なんですの?」

「本当だよ。少なくともメーレがあの婚約者と結婚するのが嫌で逃げたいなら、一緒に逃げてやるぐらいにはね」

「それって駆け落ちって言いませんか?」

「そうとも言う」


 僕の言葉に西瓜は力無く笑う。


「何で、こんな面倒な女の子を好きになったんですかね。はっきり言ってかなり面倒臭いですよ私」

「面倒臭かったら好きにならない理由にはならないよ。それに西瓜にはさ、中学時代に弟の件で色々と助けられたから」


 中学生の頃の話になるが僕には弟が居た。

 元々三兄弟で僕は上から二番目の子どもだった。一番上の姉に弟の間に挟まれたような感じで育っていた。兄弟仲も良い方だったし、弟なんかは人の布団に勝手に入って一緒に寝ることもあったぐらいだ。

 弟の癖に僕よりも第二次性徴期が早く到来した上にかなりのイケメンになりやがった事は許さなかったけど仲の良い兄弟だった。

 あの時までは―――――。


「弟がイジメで自殺した時、復讐するのを手伝ってもらったんだから」


 ある日突然の出来事だった。

 弟が自分の部屋で首を吊って命を落としたのは。


「バカな話だよ。弟がイジメを受けていたなんて遺書を見て初めて知ったんだよ? 兄貴失格ってどころじゃないよ」


 あるいは弟が僕に気付かれたくなかったからなのかもしれない。

 遺書には「僕に心配をかけたくなかった」って書いてあったぐらいなのだから。

 本当に馬鹿な話だ。僕に心配をかけたくないからって死んじゃおしまいだろうに。


「弟は頭が良かった。多分僕よりもずっと世の中の役に立つような人間だったんだよ。それなのにさ、あいつの足下にも及ばないような奴がさ、弟の死を嗤うんだよ『あいつが死んでくれて良かった』って」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中が真っ白になっていた。

 気が付いた時には西瓜が必死になって僕を止めていたこと、そしてイジメをしていた連中が文字通りの血まみれなって僕に命乞いをしていたことだろう。

 後で知った事だか僕は彼奴等に暴行を加えられながらも倒れる事はなく、一人一人ぶちのめしていったらしい。


「もしあの時、西瓜が止めていなかったら僕は彼奴等を怒りに身を任せて殺していたよ」

「本当にそうですわね。メーレ程じゃありませんが止めるのには苦労しましたよ」

「そうだね。本当にありがとう。その後の裁判のこともね。あの時はびっくりしたよ。奴等が有罪になった時のあの顔は本当に気が晴れたよ」

「流石に刃物を使ってましたしね。全員牢の中に入ったのは自業自得でしたけどね」


 奴等が刃物とか鈍器を使っていた事、そしてイジメ殺した奴の兄ということで襲いかかってきた事もあり、一人残らず情緒酌量の余地無しで少年院に一番重い罪で送り込まれた。

 その際に抵抗しようとしていたが西瓜の雇った検事のおかげもあり、今までの余罪全てを明らかにしてやった。


「そのおかげで僕は不良扱いされたのは納得いかないけどね」

「先輩に目をつけられたりして大変でしたね。全員返り討ちにしてましたけど」


 どんどんと悪名が広がっていき、見た目のせいで少なかった友達も離れていく中で最後まで側に居てくれたのは西瓜しか居なかった。

 本当にこの幼馴染には迷惑を掛けっぱなしである。


「あの時は本当にありがとう。自棄になっていた僕を最後まで見捨てないでくれて」

「私だって自棄になっていた時に助けて貰ったんですからおあいこです」

「ん? あれ? 西瓜って自棄になってた時あったっけ?」

「ふふふ、忘れた人には言いませんよ」

「むぅ………なんか納得いかない」

「いかなくて良いですわよ。それじゃあ探索に戻りましょうか」

「ちょっと待てぇーい!!」


 会話を終わらせていざ探索しようとした瞬間、離れていた筈のメーレが何故か叫びながら近付いてきた。

 この女、やっぱり人の会話を盗み聞きしておったか。


「何で聞き耳立ててたのか聞きたいんだけど」

「だまらっしゃい! 質問は私がすべきものだ!」


 有無を言わさず、メーレはマシンガントークを開始する。


「何でそこで会話を終わらせるのさ君達! 私が求めていたものは甘酸っぱい恋愛なんだよ! 草食だろうが肉食だろうが付き合うならそこに至る青春があって当然だよね! なのにどうしてそんな生々しく憂鬱で暗い話ばっかりするのさ!! お気楽な調子で聞き耳を立てていたこっちが悪くなるじゃん! 世界がこんなになっちゃったからって暗い話題でしんみりするなんて嫌だよ!! もっと、情熱的に熱くなれよぉおおおおお!!」

「「うざい」」


 一息で言い切ったメーレに対し、僕達の答えは一言で終わった。

 無駄に暑苦しく、無意味にうざったい叫びだった。

 言っている内容の半分くらいは賛同してやってもいいが、要するに「甘酸っぱい青春を見せろ」と言ってるようなものだし。


「っていうかこんな状況になって青春なんて出来るか」

「確かにそうなんだけどさぁあああ!!」

「それにこんな状況になってしまった以上、デートとかそういった青春みたいな真似出来るわけ無いじゃないですか。余裕なんかありませんわよ」


 西瓜の反論にメーレは涙目になりながら黙ってしまう。

 こいつどんだけ僕等で遊びたいんだよ。


「てか仮にもシスターだろお前」

「シスターだからこそ、姦淫でない付き合いは推奨するよ! 幼い頃から親交を深めてきた親友同士で結ばれて、その子どもの名付け親になるのが私の夢なんだから!」

「あー、はいはい。もう好きにしたら良いと思うよー」


 もうこの駄シスターはダメなのかもしれない。

 心の中でそう思っていたら西瓜がある一言を呟いた。


「あら、何を言っていますの? メーレも柘榴の子どもを産むんですのよ」

「お前こそ何を言っているんだよ」


 西瓜の発言に思わず脊髄で反応してしまった。

 だがそんな反応をしても無理もない発言だった。


「へっ、ちょっと待ってよ西瓜」


 メーレも西瓜の発言には驚いたのか、思わず声を上げる。


「私はシスターだよ? 主に身を捧げた清らかな身だよ。なのにどうして子どもを産まなくちゃいけないのかな? 柘榴のことは嫌いじゃないしむしろ好きな方だけどさ。それにそう言う事は結婚をした相手としかしちゃダメなんだよ?」

「わぁ、ついさっきまで僕達のことで愉悦を感じていた奴の台詞とは思えない言葉を言ったぞこの女」


 一応、というか元シスター見習いをやっていただけあって言っている事はまともなのだ。

 しかし西瓜は呆れた様子で口を開く。


「いや、今恐らくですけど人類の数滅茶苦茶減っていると思いますわよ。少なくとも日本においては間違いなく激減しています。このままだと人類絶滅待ったなしですわよ」

「…………まぁ、そうだと思うけど」

「ついでに空を飛ぶ飛行機もヘリコプターも無くなりましたわ。日本国内は勿論のこと外国からの救助が来ることもほぼ皆無と言えるでしょう。少なくとも外国からやって来たであろう戦闘機が何機も二ヶ月前に墜落する様子を見ていますから、多分外国も似たような状況になっていますでしょうね。そうでなくてもこんな亡者が動き出すような現象、ウイルスとか最近とかを持ち帰ってしまいパンデミックになられたら最早手の付けようがありません。正直に言って見捨てられたとみても構わないでしょう」

「戦闘機とか来てたのか…………」

「流石に何処の国のかとか、種類までは分からなかったですけどね」


 西瓜の口から語られる言葉は淡々とした真実だった。

 実際、あの騒ぎから三ヶ月も経過しているのに全く情報が無いのは明らかにおかしい。

 テレビでも最初の頃は毎日のように特番のニュースがやっていたのにも関わらず、今では全ての電波が無くなってしまった。ラジオも同じようにノイズだらけだ。

 はっきり言って情報が無さ過ぎるのだ。だから僕はこの学園の探検を提案したのだ。

 その結果、銃火器が沢山見つかったのと謎の部屋を発見してしまった。

 さっきからメーレのせいで話が逸れまくっていたが結局のところそこに行き付くのだ。


「そんな状況で私たち人類がすべき事は聖書に書かれてある通りに『産めよ増えよ地に満ちよ』です。最悪、人類存続の為に頑張らなくちゃいけないんです。拠点を安定化させ、亡者を薙ぎ払い、襲い掛かる敵を退けて残された人類の数を増やす。それが今の私達がやらなくちゃいけない最重要目標です」

「そこに人間らしい自由な選択はあるのかな?」

「あるわけないじゃないですか」


 メーレの言葉を一蹴し、西瓜はそう結論付ける。


「そんな我儘を言う自由なんかありませんよ。権利は既に無く、自由は失われた。身を護る為ならば喜んで汚れ仕事を行う必要があるんです。その点、私達はまだ恵まれていますよ。信頼することが出来て気兼ねなく接することが出来る男の人が居るんですから」


 そう言って西瓜は僕の肩を叩き、耳元で呟く。


「…………柘榴が一緒じゃなきゃ、オレはとっくのとうに自殺してた」


 今まで見せることが無かった彼女の弱気な呟きを耳にして僕は言葉を失ってしまった。

 気丈に振舞っていた西瓜だって本当は恐怖に震えていた筈なのだ。なのに僕はそれを今まで忘れてしまっていた。それだけこの日常に慣れ過ぎてしまっていたのか、それとも彼女の笑顔を見ていたからどこか安心していたのか。

 どちらにせよ西瓜がそんなことを言うとは思っていなかった僕にとって、彼女の発言は寝耳に水だった。


「まぁそれはそれとして柘榴のハーレムになった以上、メーレのその胸は私の物であると同じですわ!」

「ちょっ! いきなり飛び掛かってこないでってば!!」


 僕の視界内で騒ぎを起こす二人を見て静かに俯く。

 心の何処かで分かっていた事だったが、結局のところ僕達がこうして真面目な場所でもふざけてしまうのはそういった辛い現実を少しでも忘れようとしているからだろう。一応何が起きても対応出来るようにドアから離れてすぐに身を隠せる場所に居るが、それでもふざけずにはいられない。ふざけていなかったら僕達の身が持たない。

 三人で仲良く空元気であっても振舞えなくちゃ今にも潰れてしまいそうな程の現実しかないのだから。

 心の中でその事実を再認識させられた瞬間だった。


「さっきからうっさいわあんた等! 入って来るならとっとと入って来なさいよ! 何でこんな場所にまで来てイチャイチャしているかと思ったら急に真面目な話をしだしたりして、話に落差がありすぎるわよ!! と、いうか真面目に探す気あるのかあんた等!!」


 奥の扉が開いて中から白衣を身に纏った女性が怒鳴りながら姿を現したのは――――。

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