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ラプトルは恋をした

 ひょんなことから異世界に転生してユタラプトルに転生してしまったこの俺、田中は森の中で助けてもらった可憐な少女、ネルに連れられて彼女の言う[お師匠様]と会うことになった。


 ──さて、果たしてそのお師匠様とやらこの只の畜生、ユタラプトル田中と話が出来るかな? そもそも受け入れてくれるか? ──


 ギィィィと音を立てながら洋式の建物の扉が開き、ネルと共に建物の中を歩いていく。俺は先程と変わらず首をヒョッコヒョッコと前後に動かし鳥の如く歩いていた。正直ちょっと前はそうでもなかったが、今更緊張してきた。お師匠というくらいなんだから魔法とか使っているんだろうか。


「シューッ………シャフっ!シャフっ!ブルルルルゥゥゥ………」


 俺は不安からか呼吸が乱れ口から勢いよく息を噴出して唸ってしまう。


「あれぇ?羽なしドラゴンさん、どうしたの?お顔が怖いよぉ?」


 いつの間にか俺は歯をむき出しにしてもいた。ついでに足のツメもカチカチずっと鳴らしていた。


「大丈夫大丈夫! お師匠様は優しいよ! 鶏の世話なんかもネルがいない代わりにしてくれるの!」


 ネルはそう言うと、俺の前脚を引っ張り、俺に笑いかけながら歩いていく。俺はなんだかその行動のおかげで安心を得ることが出来た。何故だかこの少女といると不安がかき消される。ユタラプトルの身だが惚れてしまいそうだ。


「シャァーォ」


 俺は彼女に応えるかのように短く吠えた。




 広い屋敷をネルと共に歩いてお師匠様の部屋に到着するまでに俺とネルはおしゃべりこそできないものの、確かにコミュニケーションをして、じゃれ合っていた。


「ドラゴンさんに空を飛ぶような翼とかついてないけど、鳥さんみたいなら体しててふわふわだね〜……」


 ネルが俺の体に生えている羽毛を触ってもふもふと感触を楽しんでいる。ちょっとくすぐったいが撫でられてなんだか心地良い。


「きゃっ! ドラゴンさん!」


 俺もお返しにネルの頬にユタラプトル特有の細長い頭部の頬を擦りつけてみる。


「ははっ! くすぐったいよぉ!」


 こんな事、人間である本当の俺の姿、一般高校生の田中の姿でこんな事をしたら逮捕はまぬがれないだろう。しかしユタラプトルだから許されるのだ。ユタラプトルなら、恐竜なら、畜生なら仕方ない。動物を逮捕などできるものか。やってみろ。来いよ!ポリス!!このユタラプトルを法律とやらで裁いてみろ!もっともこの今いる世界には法律とかあるのか?まぁ、細かいことは良い。とにかく白亜紀前期北アメリカに存在していたとされるこの小型肉食恐竜ユタラプトルがこんな年端もいかない少女のほっぺに自分のほっぺを擦りつけていたところで只の動物と少女が仲良くしてる普通の図だっつーの!来いよォ!!!!!憲兵!!!!!!!誰も俺は止められないぞ!!!!!!!!!


「……ドラゴンさん? なんだか目が怖いよ?」


 俺は我に帰る。しまった。やりすぎた。嫌われてしまうかもしれない。俺は反省の念を抱いた。


 しばらく歩いた後、そして俺達はようやく、お師匠様がいるとされる部屋へと辿り着いた。


「お師匠様ーー! ただいまなのーー! そして変なドラゴンさんつれてきたなの!!」


 ネルは部屋の扉を開けるとそう大きな声で言う。お師匠様という人、どのような人だろうか。


「ネルネル、遅かったわね」


 部屋に入るとそう女性の声がした。俺は瞬膜で瞬きをしながら爬虫類特有の細長い黒目を動かしてその声の主を探る。

 その声の主、ネル曰くお師匠様を見てみると、その姿は小さな少女だった。見た目から年齢を考えるとネルよりも幼いかもしれない。


「ネルただいまなのー! お師匠様!」


 ネルは元気よく挨拶をする。


「っ…….!? ちょっと何よ!?その、えっ、ドラ……ゴン? 翼が無い? ともかくなんでそんなのここに連れてきたのよ!? 説明しなさいよ、ネルネル!?」


 まぁ、目の前に突然恐竜が立っていたら突然そうなるな。


「シャーォ!!!」


 俺は念の為、爪を立てて鳴き声を出して威嚇した。これは本能だ。多分この仕草は俺でも止めようがない。自然に威嚇をしてしまう。何故ならラプトルだからな。


「まわー! 落ち着いてなの! お師匠様にドラゴンさんも! ネルから説明するの!」


 ネルが慌てて間に入り、手のひらを両者に向け抑止してくる。なんだか俺はその仕草を見ると落ち着きを取り戻した。何故かは俺も分からないが。


 ネルはしばらく、そのお師匠様と呼ばれる少女に俺と出会った経緯、ここに連れてきた理由を説明していた。






「………へぇ、じゃあ、その変なドラゴンもどきが森の中で倒れてたと。それをネルネルが助けてここに連れてきたと」


 ネルの説明を聞き、少女は腕を組みながらそう喋る。どうやら、そのお師匠様という少女が彼女のことをネルネルと呼ぶのは渾名でそう呼んでいるらしい。


「だからお師匠様! ドラゴンさんなんだかお腹すいてるみたいなの! ドラゴンさんが食べれそうなものないですか?」


 ネル、なんと優しい少女だろうか。ラプトルの身にしても感動で鳥肌が立ちそうだ。まぁ、今は本当に鳥肌だがな。鳥肌の上を行く鳥肌だな。


「ダメよダメーーー!!! 得体の知れないドラゴンもどきにあげるお肉なんてないのーー!!!! !」


 むむ。その折角の感動の余韻を否定の大声で台無しにさてしまった。お前を餌にしてやろうか。


(なんだとこのやろう、お前を餌にしてやってもいいんだぞ。お肉!お!に!く! お!に!く!!!!)


 俺は心の中でそう念じた。


「鶏なら、ネルネルが飼ってるじゃない。ほら。そこにいる」


 少女はそう言うが、ネルのペットの鶏を食うとなると若干気が引け…………


「コケッコケッコケッ!」


 ……………なんだ、この美しさは…………………。俺は数秒もしないうちにその鶏に完全に魅了されていた。なんという可憐さ、そして気品だ。こんな鶏、見たことがない。好きだ。


「わー! ドラゴンさん! 鶏さんを食べちゃダメですよー! ダメですー!!!」


 ネルは俺がその鶏を凝視している様子を、食べようと品定めしていると思ったのか、必死で制止してくる。そんなネルの制止も無視し、俺はただその鶏に見とれていた。その鶏、いや、彼女は俺の運命の人だ───。本能がそう呼びかけているのだ。俺はそいつが好きだ。


「コケ?」


 っ───!俺は一瞬だけ振り向いた彼女のとぼけた鳴き声で俺は心を撃ち抜かれるような感覚がした。もう我慢出来ない、好きだ好きだ好きだーーー!!!!今にもあふれんばかりのこの愛を彼女に伝えたい……!


「キュルルルルルル……………」


 困った、俺はあの鶏が好きだ。好きすぎてたまらない。俺は精一杯親愛を伝える鳴き声を共鳴腔を駆使して出す。伝わって欲しい。少しでもいいから。友達からでもなって欲しい……!



頼む…………!伝わってくれ…………!

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