靴下の彼女
ちょっと不気味かもしれません。小説書けないとか言っといて短編書いちゃってます。ごめんなさい
猫背の女の子がいる。
パーカーにボーダーのニーハイソックス、終いにツインテール。
”ー”が、彼女の特徴か。
うわ〜なんかこっち見てくる変な男がいる。
色白で眼鏡のインテリっぽい。
ーバチッ
目が合った。
話しかけてみるか。
早く行こう。
猫背が逃げる。
サッ サッ 人混みを流れる水のように彼女は進む。
『お兄さ〜ん、今晩どうですか〜?』甘ったるい声が聴こえてくる。
中年のおやじが早速反応して女達に近づく。
呼ばれたのは僕だ。このおやじめっ
そんなことをよそ目で見ていたせいか、いつのまにかあの彼女は見当たらない。
煙草の匂いのする男とすれ違った。
全く。この人混みには参る。すとんと肩を落として元の道なき道を辿る。
『なぁんだ、もう終わり?』
どこからともなく声が聴こえた。ビルとビルの間でカップルがイチャついている。
ふんっと鼻を鳴らして顔を拭って振り返る。
‥‥ん?
目の前に延びる白い腕の手には見覚えのあるボーダーの衣類。
その腕の持ち主は
ハッとして目を凝らす。
‥‥ツインテールのあの子ではない。
社会人っぽい女性だ。
『探し物はこれ?』
その女性はぶら下げるようにその衣類を僕に見せた。
これは確かにさっきのあの子が履いていた靴下に相違ない。
『どうして、これを?』
『頼まれたの。あなたに渡しといてくれって。』
『あの子と知り合いなんですか?』
『いいえ、さっきそこで急に渡されて、ま、いっかって感じで』
女性はそれだけ言い終えると人混みの奥へと消えていった。
彼女の靴下、片方だけ持って僕は女性が彼女と出逢った方へ向かった。
居酒屋の前で煙がすごい。
ーゲホッゲホッ
咳き込んで背中を丸めていたら
『さっきのおねえちゃんみたい』と幼い声。
そばかすの目立つ小学校低学年くらいの男の子。
『ゲホッさっきのおねえちゃん?』
もっと身を屈めて尋ねる。
『うんっ靴下片方しか履いてない、背中が曲がってる変なおねえちゃんっ』
元気よく男の子は答えた。
僕はハッとして時計に目をやった。時刻は夜8時に近い。
『君は今、一人なの?』
こんな幼い子が一人で街をうろうろしているなんて。しかも居酒屋の前で。
『んー、んー今、お兄ちゃんと一緒に居るじゃん』
『いや。そういう意味じゃなくて』
『おねえちゃんなら、あっち行ったよ』
訊いてもいないのに男の子は指を指した。
なんなんだ。
僕はなぜか彼女を追いかけなくてはいけなくなっている気がする。
ようやく繁華街を抜け出せたのはいいが、帰宅途中のサラリーマンがポツポツ歩いているだけだ。
たまにヤンキーみたいな連中を見かけても、なぜかいつもより気丈でいられている。
この靴下のせいなのだろうか。
でも一体なんのためにこの靴下片方をわざわざ僕に?
僕には特にこれといったフェチもないし。あったとしても公言することなんてないに等しい。
ああ、アホらしいっ
早く帰って、課題をしなければ。それが僕、大学生の務め。
『‥‥それ、拾ってくれたんだ?』
信号がチカチカしている。
渡ろうと思っていたのに足が進まなかった。
そう、渡ろうとしたのに、だ。
車のライトが僕を包み込んだ。
同時に車の助手席にツインテールの彼女が乗っていたのを見逃さなかった。
彼女は微笑んでいた。
僕の手元にあった靴下はその時には既になくなっていた。
end
彼女はいったいなんだったのか私にも分かりません。