8.冒険者への道
――――ジェネラル鉱石
海水に反応させることにより高温の熱源となる近代魔法科学の礎、現社会にあるすべてのインフラにおける重要なエネルギー源。それは王国内には存在せず、隣国から買いとる形で今まで体裁を保っていた王国だが、グラム単位で高価に取引されているはずのそれらが汗だくの男達の手によって荒々しくも船に投げ込まれその量は膨大、人の拳ほどの大きさでおよそ千人が暮らす家の明かりを1年持たせるそれは船体から溢れんばかりに詰め込まれていた。
王国全人口は400万人、この船に積み込まれたものだけで現王政が続く間のエネルギー問題は解決したと言えるだろう。
そして船には積み込めずまだまだ持て余した大量の鉱石を見るからにこの王国はエネルギー輸入国から輸出国と移り変わり、この国の繁栄は目に見えていた。
その時代の移り変わりを横目に大陸へと野望を抱く荒れくれ者たちは共に旅をした船を降り、戻る場所があろうものはちりぢりに、今回初めての渡航となる新冒険者たちはその職に就く者たちが集まる寄合所なるところに集められた。
そこでの説明は簡素なもの、大陸内での仕事に集中してもらうために最低限の宿舎食事はここに滞在する限りすべて無料で提供されるということ。医療費も実費はかからない、それと1週間に一度はこの寄合所に通い仕事を請け負い遠征、討伐クエストを請け負わなければならない。無論遠征中何らかの理由により隊とはぐれ帰還が間に合わずクエストを受けれなかったものは免除とされる。最初の1週目で食料供給の停止、4週目で本国に強制送還という取り決め。
これにおいてはケガの有無は関係なく、これ以上仕事ができない深手を負えば実質強制帰還ということらしい。
何分最初に大金を支払ている分仕事をこなせばそれなりに良い待遇は受けれるという話。
「――――ふぅん、まぁ、死にかけるようなことがあればそれはもう死んでるから気にしなくてもこれは本当に気にしなくてもいいよねぇ、ふぅん」
寄合所の店主がブラックジョークを披露して場は笑うに笑えず静まり返る。
クエストは大きく分けて2種類、【探索範囲の拡大遠征・防衛】、【重要拠点・生産拠点における課題解決】
そして臨時として王国研究室指令がたびたび発令され【ハント】と呼ばれる特定の何かを入手するクエストもありそれは早い者勝ちで報酬がべらぼうに高いと男が人差指と親指をくっつけて頭上にあげて見せた。
ジュラハード大陸はこの入り口である港が南に拠点として西に岩肌の目立つ鉱山が広がり、東に緑生い茂る山脈が広がっている。北には平地の道が続いており新たな生産拠点を確保するべく日々冒険者がしのぎを削っている。
どうやらこの大陸にやってきているのは冒険者だけではなく、探索により広がった地域に広がる生産拠点で労働に勤しむ別ルートから訪れた者も王国より派遣されているそうだ。彼らをあらゆる危険から守ることも仕事に含まれる。
現在目標とされているのは水源の確保で北に進んだ先にある湖に拠点を作ることとされているが周辺を住処とする獣が多数目撃されているためその対応で手間取り、新人冒険者はこれに当たるのが最適だと紹介された。
西の鉱山や東の山脈にはところどころで文明の跡地があり、そこには魔術による罠があるのだというと男は天井を指さして見せる。
そこには全身ひからびて骨と皮膚だけが残された人の遺体がつるされていた。
「――――下手するとああなるよ?」
男は強調するように一段と低い声で言葉を発したがすぐにニッコリと笑いかけると「行かなければいいだけだから大丈夫!」と新人冒険者たちを勇気づけるがそれは裏目にでただろう。
そこに並ぶ新人冒険者たちは冗談じゃないとさらにいっそうの険しい顔になる。
「――――親方!親方はいるか!緊急だ!【ハント】だ!鉱山の遺跡から魔物が現れた!」
「うるさいねぇ、今は新人たちの相手をしているところだ、大事なら直接――――」
「親方!大陸にいる猛者たちはもうすでに向かってるんだ。こいつはやべえよ、人を片っ端から殺して回ってやがる。しかもそいつがこっちに向かってきてるって言うんだ!!」
血相を変えてやってきた男は新人冒険者を相手にしていた男に掴みかかると戦うものはすぐに向かえと、戦わないものはこれより出航する船を守り、要人と積み荷を死守せよとのことその後筏で冒険者たちは沖へと向かい状況に合わせて回収をしていく手筈だと言うと伝えることは伝えたぞと念を押してすぐに走り出し寄合所から逃げていってしまった。
「――――冒険者諸君、これは王国が事前に取り決めていた最悪の事態における緊急【ハント】だ。この中で人智の極限を目指し、その頂に近づきしものと自負する者だけは私についてこい。その他の者は船着き場に役人がいるはずだ。そこでまた手筈を聞くといいだろう。――しかし貴様らも運が悪い。貴様らの初日を飾るのは王国が大陸に進出以来最大の災厄となるかもしれんな」
男は冒険者をかき分け寄合所の外を目指しながらも言葉を続けた。
「安心しろ、ここは強者が集まる港だ」