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6.魔力と気流

 乗組員含めおよそ1000人を乗せた大型魔導力客船は大きく、だだっ広く持て余した誰もいない船頭に少女はいた。


両手に抱えた宝珠を胸に抱え、静かに目を閉じている。抱えられた宝珠はゆっくりと、次第に強く光りを放ち始めた。



 「――――ッグ!」



 宝珠の光が一段と強くなり、その光が引いていくのと同時に彼女はその場に屈みこむ、頭を押さえ下唇を噛む様子は苦痛にもがいていた。


 少女に宝珠の使い方を教えた男は言っていた。


 まずは宝珠の記憶をたどり修練の道を知らなければならない、しかし、いきなりすべての道を見ようとしてもそれは大英雄がたどる道、とても見きれるものでなく、少しずつ、魔力を注ぎ、馴染ませそれらをもう一度体に、魂に戻していくのだと。


 だが少女は魔力のコントロールが不得意で最大限の魔力で最大限引き出せる魔力を吸い込んでしまった。想像以上の魔障酔いに立ち上がる意志があっても体がそれを拒み続けた。



 「――大丈夫ですか?」



 顔を歪め地面に伏す少女、それを見て声をかけない人は逆に少ないかもしれないが第一にその声を挙げたのは兜まで深くかぶり顔も見せない鎧の騎士。


 「赤い髪……?女?」


 髪を掻き毟り、片目で少女が覗くとやはりそこには船内だというのに着崩さずにいる鎧の騎士だ。しかし声は確かに女のものだった。少女は何とか彼女の腕を借り立ち上がった。その時に感じたのは何にも揺らぐことはない芯の強さ、常に鎧を着続けられるほどの彼女の剛健さが伝わる。


 「良かった、魔障酔いか?この船で女性が他にもいると聞いて探していたんだがまた変な場面で出くわしてしまったな。私はバルハラ、王国で剣闘士をやっていたものだ」


 彼女は男ばかりの中無用な争いや関わりを避けたくて鎧を着続け女である事を隠しているのだという。そして少女にもできれば身分を隠したほうが今後のためだと彼女は言った。


 やはり野蛮なものも多く、女が一人旅するには苦しい道のりになるらしい。


 「私はリナリー、あなたが案内人の言う剣闘士で勝ち続けて大陸へ渡ったという女騎士?」


 少女の名を聞いて彼女は少し兜を傾け素顔を見せると顔を横に振った。それは自分の姉さんだという。それは血は繋がっておらず、関わった時間も数年しかなかったが彼女にとっては目標であり、今まさに彼女はその目標である女性に会いに大陸へと渡るというのだ。


 「リナリーこそ大陸へは何故?あそこは金に目がくらむもの政治に利用されるもの、誰知らぬ企みを抱えるもの、とにかく普通である者が行く場所ではないと思うのだが……まぁもう船も出てしまっている事だ。ともに前を向いて進めるといいな」


 彼女は少女に渡航理由を尋ねた。が、その時に垣間見せる少女の常闇に沈むような瞳を見て自らの言葉で押し込めた。変わりにと彼女は少女に宝珠を取り出し一緒に使ってみようかと使い方を教えてくれた。


 彼女は自然体にも微動だにせずただ済み宝珠を片手で突き出すと魔力を身に纏う。


 それは少女がいままで意識していたものとは違った。彼女が今まで魔力として認識していたのは青色のようにも感じる空気の流れという感覚だったが彼女が纏うその魔力は赤く、まさに身体から湧き上がるように、燃え上がるように纏われていた。


 そしてその纏われた魔力が徐々に宝珠に吸い込まれ、すべてが吸い込まれると彼女は少女に顔を向ける。


 「――そうか、気流はみえているようだな」


 気流とは武の道を進む者にとっての源泉のようなものであり、魔導で言う魔力と同様のもの。魔力は直接魂から湧き上がる源泉であり、気流とは魂から一度身体を通し身体と共に行使する力。


 今まさにリナリーが魔障酔いしたのは大量の魔力を投入したこともさることながら、気流を操る宝珠に魔力を注ぎ込んでしまったことにも関係がある。


 どちらも一長一短で魔力は身体を介さない分体にかかる負荷が少なく、自在に操り天変地異をも操れるがそれに費やす修練は身体能力を脆弱化させ、それらを習得するにしても長く険しい道のりが待っている。多種多様な魔導を習熟させるには魔法記述ルーンへの理解も必然であり勉学にもかなりの時間が費やされる。人類で初めて人智を越えたとされる四元素の始祖エギルもそれを極めたのは齢100年を越えた時だという話だ。


 気流を究めることは魔導に比べて最初に時間と苦痛が待っている。一般的に人間の身体は産まれてから時間をかけて徐々に魂と身体が融合し、死に際となって完全な存在になるとされているがそれらを修練により加速させ、その後遺症は身体に苦痛となって降り注ぎ、毎夜切り刻まれる思いで過ごさなければならない時期がある。しかしそこを越えれば修練、努力を重ねれば重ねるだけ結果は積み重なり、努力の数が実を結ぶ道と言える。しかし、頭打ちも早く、人としての身体を介しているため、人間としての限界が武の道の限界と言われ、魔導のような天変地異、神の領域へと歩める道ではない。ある者は武を究め、姿かたちを神の姿に変えた者もはるか太古に存在したという話。


 少女は話を聞くや否や魔力を一度周囲に纏う、それは気流とは違うが、彼女に指先から馴染ませるとの言葉に従いそれらは次第に赤く染まりはじめた。そして、身体中がヒリヒリと、痺れるような感覚に襲われ魂との共鳴に身体が反応してきたかと思えば少女の両足が照り輝いた。


 赤く浮かび上がる魔法記述ルーンがこれまでになく、船全体を染め上げるように沸きあがりその光は天にまで届いた。


 「り、リナリー!これはいったい?」


 彼女も武の道ですら理解できない出来事だと狼狽えた。


 少女は絶え間なく湧き出る光に包まれもはや視界に収めていることが不可能だ。


 彼女は手で光を遮り、少女はなんとか光を抑えようと宝珠を握り締めもがく。その手段が正しかったのか光は今度、一点を目指し宝珠へと降り注いだ。光は赤が深くもはや黒く、宝珠はひび割れるように欠けはじめカケラが地面にこぼれゆく。


 そしてすべての光が宝珠に取り込まれた時、なんとか少女の姿を捉えたバルハラが目を見開く。


 その時バルハラは少女に宝珠を投げ捨てるように言うつもりだった。しかしその少女は宝珠から湧き上がる気流、いや、見たこともない獣に覆われて少女の意識はもうすでにそこに無いように見えたのだ。おそらくもう宝珠から気流が逆流し大戦士の記憶が流れ続けているのだ。


 




 ――長くそびえる金色の鬣に白く輝く一角の獣、それに抱かれる少女は宙を舞い、そしてその獣が宙にはじけるように消え去ると少女は床にたたきつけられた。


 

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