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4.魔法記述(ルーン)と宝珠

「リナリーさん、リナリーさん?」


 聞き覚えのある声が壁を跨ぎ聞こえてくる。その心当たりは一度少女の大陸行きを断ったあの受付の男だ。


その声に呼ばれ立ち上がる少女はささくれおびただしくところどころ削れた後のある木目の扉を開ける。


 「あ、リナリーさん!これから冒険者登録の手続きがありますから一緒に来ていただけますか?」


 男は目的の言葉を告げた後、少女が居座るその部屋が錆だらけの壁に覆われ、鉄の床に継ぎ接ぎのマットと毛布が置かれている状況に謝まった。それは今回の異例の対応で女性用の個室等は船に用意していなかったのだ。というのももともと用意されておらず客室は全員大広間でそれぞれが陣取るような形でそこに少女一人置き去りにするのは報告義務がある以上見過ごせず、場しのぎとはいえオンボロの個室でも少女にあてがわれていた。


 リナリーは何も言わず部屋を出ると男もそれに合わせ歩き出す。


 案内された場所は船の貨物室、そこには食料とは別に見るからに物騒な数々の武具が敷き詰められた部屋がある。どうやらここで登録等手続きを行うらしい。


 「ではリナリーさん。名前と故郷の名をここに、それと、王国での職業、前職で構いませんご記入ください。あと兵科として武道であるのか、魔導であるのか漠然とで構いませんので自分がどういった戦闘手段を取るのかご記入いただけると後の手続きが捗ります」


物騒な部屋で、場違いすぎるポツンと置かれた机と椅子に座らされた少女はペンを手に取る。




 名前 リナリー・ヴァルヘロッゾ


 故郷 山岳街ヴァルヘリード


 前職 紡績工員


 兵科 武道であり魔導


 戦闘手段 魔法記述ルーンを用いあらゆる効果を身体に付加させ行う近接戦闘




 少女が書き終えたのを見受けると男は回収して項目ごとに目を通し記入漏れ等ないか確認をし始めた。

 作業の合間合間に目にちらつく禍々しい少女の魔法記述ルーンに男は職務の一環として問いかけた。


「その魔法記述ルーンは見たことない術式ばかりですが師はいらっしゃるのですか?」


少女は答えようとはしない、だが長い沈黙の後に首を横に振った。


 「では自分でその魔法記述ルーンを掘り起こしたという事ですか?どういった効果があるとかは熟知されているんですよね?」  



 「――答えたくない」


 少女の静かにも断固とした拒む姿勢に男もこれ以上の追及はするべきではないと判断した。しかし、その血が滲み出たようなルーンはやはりどう見ても自らの身体を何日も、何年も、数百数千と切り刻まなければできないような代物、いったいどのような術式で、いったいなぜ彼女がこのような技法を選んだのか疑問がつきない。



 それに男は頭のすみに聞いた事があったのだ契約術式と自らの血を融合させより堅牢な悪魔との契約を交わす術があると、それはまさに誰かが言った悪魔の人形という言葉に重なる。


 まさかこの少女が悪魔と契約しているのだろうか、男の中で憶測は絶えることなく交錯する。


 そういえばと、彼女が渡鴉の大男につけられた頬の傷がもうすでに跡形もなく無くなっていることに彼は気づいた。


 だがその私情は振り払い自らの業務へと振り返る。


「それでは、リナリーさん。これから武器を選んでいただきます。それと防具も支給されますので身に合ったものを選ばれるといいでしょう。それともう一つ、大陸へと挑戦する冒険者の方へのはなむけとして王国から宝珠が用意されています。――そう、宝珠。宝珠があるんですよ・・・リナリーさん」



 男は再び彼女の両足に刻まれた魔法記述ルーンに目を落とした彼女が行った自らの身体に魔法記述ルーンを刻むのはもう百年も前の魔導の習慣であり、本気で魔導の極地をめざすものならば歴々たる大魔導士の記憶、術式が記憶された宝珠を手にしてその記憶を頼りに修行をするもの。


武を究めし者ですらその身のこなし、修練の記憶を頼りに宝珠は欠かせないものとなっている。


それなりの修行が必要ではあるが必要な魔力量と正しい宝珠への魔力供給能力、術式を一寸違わずなぞる技術を磨けば太古にくらべ各段に魔導の修練にかかる時間を短縮できる時代なのだ。


そしてそれらはいずれ行使し続けると宝珠なしでも術式を暗算するかのように唱えれるようになる。


武の道も同様なのだ。


それをさも差しさわりの内容に、最近できた技術の様に男は少女に説明した。


 「へぇ~……その宝珠を頼りに修練すればその宝珠に記憶された偉人・英雄たちの領域迄はたどり着けるということなんだ?」


リナリーは今までになく前のめりに興味を持った様子で宝珠の並ぶ三つずつ三段にわたる棚に歩み寄った。


 男はそれにあわせて説明を続ける




 一番左手前から、




 赤い宝珠の大戦士ヘラクレスの記憶


 青い宝珠の四元素の始祖エジルの記憶


 黄色の宝珠 神衛騎士ガッソの記憶


 緑の宝珠 神獣使いナーガの記憶


 白の宝珠 聖闘士モンクパルスの記憶


 黒の宝珠 死霊反逆者アンデットレジスタントジャック・ロバートの記憶


 光の宝珠 第八位界転生天使ユリウスの記憶


 紫の宝珠 悪魔契約者デビルチェインサババの記憶


 灰の宝珠 支配者ヒッツ・ラトラーの記憶 




 

 後者に行けば行くほど人智を越えた領域に足を踏み入れた者たちだと男は説明を続けた。ただし逆にいえば後者であればある程修練が困難であり、逆に手にしても扱いきれないものばかりだという。


 それに比べ最初にでてきた大戦士ヘラクレスの記憶は農民出身の剣士であり、才能以上に努力した記憶が残っているためそれをたどるのに適性がない者はあまりいないらしい、最もそれは王国直属の騎士団の話であり、王国騎士団は一様にこれらが配られその中でも大戦士ヘラクレスの記憶を半分も修練できれば兵団長クラス、それ以上できればもう騎士団のトップである将軍クラスという話。


どれにしても修練の壁が多少低くなっただけでその壁は未だに分厚く高いものということだ。


 だが男はそれでも少女には他のものを勧めた、大戦士ヘラクレスのように直接戦うのではなく遠距離から魔導を放つ始祖エジルの記憶や精霊を呼び出したり伝説と呼ばれるような獣と対話し使役する神獣使いナーガのようなものがいいのではないかと、それは相手が少女であるが故の打算いや単純な良心かもしれない。


 いくらあの大男を一撃で払いのけてしまったとしても、大陸に行けばまたそれは別、未知の世界にいきなり身を投げ出してそのまま死ぬことだって当たり前のようにある。だからこそ一度牽制し冷静になれる力、知恵を身に着けるべきだと判断したのだ。


これまでの無鉄砲なふるまいをする彼女には必ず必要な事。



 



 ――――しかし、彼女は赤い宝珠を手に取った。


 男は「話しを聞いていたのか?」と問うが少女はそれにこたえるように答えなかった。



 「……一歩一歩確実に歩みなさい」



 その言葉は自分に言い聞かせている言葉だ。


 





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