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2.少女リナリーの旅立ち

 時は気づけばあっという間に過ぎる物、上司との一件から何も変わることなく少女は雑巾を縫い続け、退職日はやってきた。



 彼女は最終日周囲の目をくぎ付けにして工場へとやってくる。


 その理由は一頭の馬を引き連れてやってきたのだ。



 普通の季節工は最終日、工場に隣接する寮の退室手続きを終えて体中に荷物を縛り付け抱えてやってくるものなのだがリナリーは手ぶらでやってきた。嫌、唯一持っていたのは、連れてきたのは馬という暴挙。


 上司は問おうとするがもはや馬については触れない。


 荷物について問うがリナリーは「捨てた」と吐き捨てた。


 聞いてみれば一週間分の服しか持ち合わせていなかったという。


そして今少女は着替えも気にせず身に着た服だけで出てきたというのだ。


 たしかに寮には布団も食事も一通りの生活必需品は用意されているがこれは異常だ、生活必需品は揃っているとはいえ娯楽を楽しむものなんて何一つない、なのに外出用のきれいな服も用意せず、工場と寮を行き来するだけで彼女はどんな3年間を過ごしてきたというのか。


 上司は言葉がつまり、本当にこのまま送り出していいものか、やはり自分が何か力になるべきではないのかと葛藤しながらも契約満了の書類を彼女に渡した。


 「リナリー、お前3年もいたのにあまり背が伸びなかったな……」


 

 最後の最期、そんな事しか言えないのかと自分の言動を戒めるが最後の給料袋を手渡されると彼女は足早に振り返り馬に飛び乗る。


 「――リナリー、その足はいったい!」


 「……お世話になりました。」



 上司が目にしたものは飛び跳ねたリナリーの両足に刻まれた魔法記述ルーンの紋様、魔導士が体に魔法記述ルーンを刻むのはよく話にも聞くものだし、実際に魔除けとして一般人も刻む者がいる事から存在は認知しているがリナリーの足はそれらとはまた一瞥したもの。


 一般的に魔法記述ルーンを刻むものは魔導の師である者に頼むもので、それらはその魔法記述ルーンに沿った魔草を抽出した色素を皮膚に刷り込むものなのだがリナリーのあしは赤く滲みがかった魔法記述が彫り込まれていた。


 それはまさに、自らの血で皮膚を染め上げた様。


 そして上司は首から下げられた彼女の懐に目を向ける。そこには今まで彼女がみすぼらしい生活を余儀なくされていた。


 いや、自ら望んでいたのであろう証がそこにはあった。



 王国最高通貨、メイダルム王国金貨が揺らめいていたのだ。



 「――リナリー、何かあったら、絶対戻ってくるんだぞ!必ずだ!絶対助ける!最後お前が頼る場所はここだからな!」



 彼の声は聞こえているのだろうか、それは届いてはいるのだろう、しかしそれは音としてだけで彼女の心には伝わってはいない、彼女の青い瞳は山を越えたその先に向かっている。



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