天使と死神
私の実家は町外れの小さな田舎の診療所をやっていたの。
ドクターはお父さん、ナースはお母さんだけの本当に小さな診療所。
朝から夕方までひっきりなしに来る患者さん
みんな最初に診療所入ってくる時は痛いや気分が悪いと言いながら入って来るのだけど
治療を受けて帰ってくときは皆笑顔で有り難うって言いながら帰るの。
いま思えば大きな設備も整っていないような診療所だったから軽い怪我や症状の大したことない人達しか診てないこともあったのかもしれないけど
小さい時の私には、そんな父と母が魔法のように次々病気や怪我を治していくように見えて
いつしか私の夢はそんな人を救える魔法を使う医療の仕事につきたいと願うようになったの。
そして年月は過ぎて成人した1889年の春
4年間通ってた医療専門学校を首席で今日、私は晴々しく卒業するのであった。
第一話
白衣の天使と白衣の死神
『シレーヌ、嘘でしょ?!なんでイギリスの…しかもわざわざド田舎の診療所なんかに就職するの?!首席卒業なんだからシレーヌなら国立医大とかもっと良いところ勤められるはずなのに!』
ここはアメリカニューヨーク屈指の医療専門学校。
今日はその専門学校の卒業式が終わりそして担任と生徒たちの別れを偲ぶ最後のホームルームが終わった教室の中である。
そんな教室の中に冒頭を語ったこの物語のヒロイン、シレーヌ・リナリアもまたその中にいた。
オレンジみかがった長いブロンドヘアー緩く巻いて白のカチューシャを頭につけている。髪と同じ色の長い睫毛でおおわれた緑色のエメラルドの瞳はおっとりとしていて眠くは無いのだろうが眠そうにも一見見えてしまう。
薄い桜色のワンピースに白のエプロンをつけて服装も80年代の初頭の少女らしいエプロンドレスを来ている。
『ありがとう、でも私の夢は医療が手薄の土地に赴いて少しでも貢献出来たらな…って夢だったから…ごめんね急な話で』
そんなシレーヌと一番の友達だった少女がシレーヌがイギリスの田舎の診療所に就職する話を聞いて思わず声をあげたのだ。
『そんなぁ…シレーヌとずっと一緒だと思ってたのに…せめて実家の後を継ぐとかじゃダメだったの…?』
友人の少女はガックリ肩を下ろす。
『実家の診療所はお兄ちゃん夫婦が継ぐことになったから…そっちはお兄ちゃんに任せようと思うの。だから私はもっと違う医療の過疎してる地区に赴いて困ってる人の役にたちたくて…でも…ちょっとさみし…』
言葉の途中でシレーヌはポロッ涙を溢した。それにつられて友人もまたポロッと涙を溢す。
『うぐ…ふぇ…ごめんねわがままいってぇ』
シレーヌはおもむろに立ち上がり友人と涙ながらき合う
『わかったよシレーヌ、イギリスに着いたら手紙頂戴ね』
『うぐ…ふえええん毎日手紙書くからね!』
そしてその5日後
涙ながらに手をふる家族と友人に見送られながらシレーヌのイギリスに行きの船は出航した。
麦わら帽子を被り薄いグレーの半袖のドレスにエプロン。荷物はあらかたイギリスに送ってあるため大きめのハンドバッグ一個だけで済んだ。
シレーヌが勤める診療所はイギリスの首都ロンドンの郊外にある診療所らしく。
馬車か車が無いと中心部まで丸一日かかってしまう田舎の診療所だそうだ。
向こうに着いたら住み込みで働くことになる診療所の院長が迎えに来てくれるようで、シレーヌは期待と不安で胸をいっぱいにして、麦わら帽子を抑えながら潮風を浴びるのであった。
それから丸5日間船に揺られ、そしてついにシレーヌはイギリスの土地に足を踏み入れるのであった。
船から降りて辺りを見渡す。バックを持つ別の片手にはアメリカにまだいた時に届いた院長からの手紙だ。
手紙には港から直ぐに『モルガの珈琲店』とかかれたカフェがあってそこに船が到着する時間に合わせて目印は分かりやすく白衣のコートを羽織って待っているよと書いている。
『あ、あった!』
『モルガの珈琲店』と書かれた小さなカフェを見つけるとシレーヌは声をあげる。そこは小さなカフェ過ぎて最初シレーヌは通り過ぎてしまっていたようだ。
引き返さなければますます無駄な時間を食うところだった。
シレーヌはカフェ店のドアノブに手をかけ押し戸をあける。中にはテーブル席が3席、カウンターが5席ほどしかない狭いカフェ数人の客が座っている
でカウンターの中にはマスターどあろう中年のベストを着て髭も髪の毛もきれいにポマードで整えられた英国紳士がコーヒーを注いでいる。
シレーヌは一先ず窓際のテーブル席に座りホットの紅茶を頼んで待つことにした。
それからしばらく、待てども待てども、白衣を着た人間は現れない。自分は待ち合わせ場所を間違えたのかと不安になってきた時だ。
カランカランとドアが空く音と同時に若い青年の声。
『待たせてごめんなさい、君がこの写真のシレーヌ、リナリアさんかな?』
『はい!は…きゃあああ!!』
シレーヌは自分の名前を呼ばれて顔をあげるやいなや悲鳴をあげ椅子から落ちる。
その声にカウンターにいた英国紳士のマスターは注いでいた熱々のコーヒー溢して熱いと飛び上がり、数人のカフェの中にいた男女もびっくりしてシレーヌの方を見ればシレーヌの目の前に立つ男を見たとたん彼らもまた悲鳴をあげ、カフェを飛び出した。
プラチナブロンドのセミロングの長い髪を首もとでひとつに結び穏やかそうな青い瞳は微笑んでいて眼鏡をかけている。
スラリと背が高くスタイルも器量も良く、かっこいいと呼ぶより美しい綺麗な青年がそこに立っているのだが、問題は彼の服装である。
黒のスラックスに青いシャツを入れて赤いネクタイを締めて。そして約束通りの白衣を羽織ってきたその白衣は。
真っ赤で血まみれである。片手には血まみれのハサミをもって両手は血まみれでとにかく血まみれなのだ。
『いやー…待たせてごめんなさい…実は…』
『ロンドン市警だ!!』
青年がその先を語ろうとした時、被せてドアがバンと開き何十人の軍警が雪崩れ込むように入ってきて青年を囲んだ。
『血まみれのハサミを持った不審者がいるという通報受けて来た!貴様を逮捕する!』
『あ、あのー…』
ガッシャンと青年はあっという間に手錠をかけられる。
間。
『いやー、僕もびっくりしちゃったよねぇ。いきなり目の前で人が馬車に引かれて、その場で応急処置しなくちゃいけない状況になってさ、想像以上に出血が酷くて、着ていた白衣で最初止血してたんだ。着替えも無かったしおかげで不審者扱いだよ。あはは』
窓際のテーブル席、シレーヌは座り直し青年もそのテーブル席に座ってコーヒーを飲みながら何事も無かったような緊張感が全く無いヘラヘラした笑い方をする。血まみれの白衣は流石に脱いで、血まみれだった手もマスターが持ってきてくれたおしぼりで拭いて血まみれのおしぼりをマスターに渡すとマスターは小さくひきつった笑いでそれを受け取っていた。
待ち合わせの目印が白衣だったとはいえ、わざわざそんな状態の白衣を着る必要もハサミを持つ必要も無いのでは…とシレーヌ疑問に思うも青年の緊張感の無いマイペースに流され彼のペースで話は続く。
青年が話している間シレーヌは黙ってその話を聞きながら再度青年見て考え事をしていた。
それにしても…最初は変な人と思ったが落ち着いて改めて見てみると、肌も白くて睫毛も長い若い20代後半か30前の英国紳士の雰囲気漂う本当に綺麗な青年である。
院長と聞いていたからてっきりシレーヌは中年の男性を想像していが、実際はこんな若くて素敵な人が院長だなて…シレーヌは少しドキドキしていた。
青年の名前はスヴェン、アントセン。専門は外科、整形外科の医師である。しかし話によると田舎だから街にまで出れない老人や子供も多くいて内科、小児科、結局全般的にやっている診療所だそうだ。




