はじまり
やぁ、いらっしゃい。
お客さんとは珍しい。どんな御用かな。
こんなところに来てしまうくらいだからね、さしずめ道にでも迷ったのだろう。
おや、違うのか、これは失礼。
しかし迷子ではないとなると……さてはおつかいだな。高松先生あたりに頼まれたんだろう。あの人は仕事をしないからね。
なんだい、おつかいでもないのか、とするといったい……
なに?入部希望?
なんとまあ、これは驚いた。我が将棋部が新入部員を迎えることになろうとは。
無論、大歓迎だ。ようこそ将棋部へ。
だがしかし、最初に言っておかなければならないこともあってね。
ご覧の通り、この部には部員が私一人しかいないのだよ。当然、団体戦にはでられない。団体戦は3人1チームだからね。
なるほど、たしかに君の言う通り、将棋は2人いればできる。こんな部でも道具だけは揃っている。なんなら雑誌も定期購読しているはずさ。
だが、まだ問題があってね。
うん。私はルールを知らないんだ。
もちろん、将棋のルールさ。ここは将棋部なんだからインディアンポーカーのルールを知っているかどうかなんて、関係ないだろう。
というわけで、せっかく入部してもらっても将棋は指せないんだ。すまないね………っ、
そうか……もう一度考えてみるか…。
それがいいと思うよ。やはり将棋は相手がいたほうが楽しいだろうからね。最近だとインターネットでもできるって話じゃないか。わざわざ部活に入ることもないかもしれないな。なんにせよだ。3年間ある高校生活、部活は大事だよ。よく考えて決めるといい。
うん。気をつけて帰るんだよ。
さようなら。
……ふぅ。