刺青の魔女の噂2
勇者「噂には聞いていたけど・・・いやあ賑やかなもんだね」
何をするにも情報が必要であろう、と勇者がまず目指したのは大きな港のある隣の国であった。海に沈みかけた夕日は美しく、それを隠すように次々と出ては入ってくる船の姿は壮大なものであった。港町特有の陽気な雰囲気はやはり酒場に集約されるようで、そこかしこから酔っぱらいの歌や大声に喧嘩の音が聞こえてくる。
さて、どこにまず向かったものかと路地裏に入ったところ、怪しい男と目があった。その男は片方の目は黒い眼帯で覆われていて、見慣れない杖のような金属製の大きな棒を肩に担いでいた。そして何より目立つのはその巨躯であった。
男性「そこのでっかい旦那、ひとつ俺に酒でも奢ってくれないかね」
勇者「君の方がよっぽど大きいと思うんだけどもね。生憎だけど持ち合わせが少ないのさ。何しろ討伐者の任務にあずかっちゃったからねえ。無駄遣いはできないんだ」
男性「なんだって!?へえ、討伐者だなんて本当にいるんですなあ。旦那が大ボラふきで一杯食わされたってんなら怒りやすがねえ」
勇者「まあ、そりゃこんな突拍子もない話聞かされりゃそんな反応が普通だろうねえ。そういうわけで何か耳寄りな情報はないかな?」
男性「切り替えの早いことで。そうですなあ、ちょうどギルドに寄ったばかりでしていい話もあるっちゃあるんですがねえ」
勇者「なんだいそれは?」
男性「ここじゃちょっと、その、ねえ?わかるでしょう??」
勇者「・・・まったく、君には参ったよ。一杯だけだし、しょうもない話ならただじゃおかないよ?」
男性「へへへ、話のわかるお方で。んじゃあっしに付いて来てください。良い店があるんですよ」
男性「ここですぜ」
勇者「・・・なかなかに怪しい店を知っているんだねえ。あんまりな値段を請求されそうな雰囲気だ」
男性「まあまあ、そう言いなさんなって。こういう世界じゃ下手なことして客が逃げるのが一番恐いんだ。だから下手に客が多い店なんかよりよっぽど安心ですぜ。一番強いやつをくれ!」
勇者「客がいなさすぎるのもどうかとは思うんだけどねえ。じゃあ僕は一番安いやつで。それで、どんな情報があるんだい?」
男性「つれないねえ旦那、いきなり本題ときますか。まあ、約束は守りやすよ。さてこの情報は今日発表されたばかりで入りたてホヤホヤってやつですぜ」
勇者「新しい情報か。それで?」
男性「なんでも魔女の討伐依頼だとかいう話で」
勇者「魔女・・・か。確かに興味深いね」
男性「でしょう!?それに、この依頼の報奨金ときたらやたら高い!時間が経てば経つほどライバルも増えるってことでしょうなあ」
勇者「その分、以来の信頼度も高いってわけだねえ。君みたいになかなか優秀なハンターにまず一報がいくことからもそう判断できる」
男性「ととと、さすがにバレていやしたか」
勇者「そりゃそうさ。僕の体を見てためらいなく話しかけられる人間なんてそういない。それに、君は歩くときに足音を立てないからね。試すのはもう十分だろ?」
男性「うーむ、ますます気に入った!じゃあここからが真の本題ってやつだ。率直に言おう。俺とこの依頼組まないか?」
勇者「わざわざ報奨金を減らすっていうのかい?そりゃまた何故?」
男性「それがどうもこの依頼一筋縄で行かないような気がするんでねえ・・・。俺の心情はとにかく生きること!楽ならそれに越したことはねえんでな」
勇者「ふーん?まあ僕にはデメリットも特にないさ。何も手がかりがなかったところだしね。いいよ、一緒に行こう。ただし僕の取り分はちゃんともらうからな」
男性「よし!契約成立だ!!前祝いも兼ねて取り敢えず今日は飲もうとしよう!!」
勇者「奢るのは最初の一杯だけだからな!」
魔女の討伐依頼。白銀の髪に謎の紋章の刻まれた額を持つ、石の魔女。その魔女が支配する街から逃げ延びた人物が発起人。魔女の討伐、及び街の開放がされれば全住民から莫大な報奨金が得られる。その街は魔女の呪いか濃霧に満ちている。魔女は生気を吸い取る魔法を使い、街を乗っ取ったようだ。毎日のように生贄が魔女へと捧げられ、街はもう限界であるという。