表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

5 おわび行脚


ほんのご愛敬だろ


「俺がいながら

見合いだなんて

もうしばらくの

辛抱だってば

お袋だって

じき折れる」


一言

冗談言っただけ

そんなに目くじら

立てるなよ


人生最後の

見合いだっていうなら

いざ知らず


1回ぐらい

ご破算になったところで

そこまで

血相変えなくたって


わかってるってば


ちょっかい出したのは

この俺だ

魔が差したんだ

悪かった


ホテルのロビー

飛び出すなり

むくれて歩く

あんたを追って

俺はひたすら

ソウルの街じゅう

かれこれ半日

おわびの行脚


これっぽっちで

へそ曲げて

この不景気のご時世に

うちやめるって?


馬鹿げてるにも

ほどがある


わかったってば

こうしよう


お詫びを兼ねて

給料アップ

ええい おまけだ

正社員昇格


採用直後に

こんな厚遇

ふつう絶対ありえない

スタッフたちには

内緒だぞ


でもさ

俺が少々

ちょっかい出して

ぶち壊れるような

見合いなら

遅かれ早かれ

ダメになるって


とりあえず

あの手この手で

歓心買おうと

してみたものの


あんたという

パティシエを

失うのが惜しいわりには

なだめてんだか

火に油 注いでんだか


もちろん

俺のおわび行脚は

効果なんか

まったくゼロで

あんたの機嫌は

悪化の一途で


だけど

そんなことは

どうでもよかった


懐かしい

イブのホテルの

あのロビー


目と鼻の先のブースで

8度目の

見合い相手に

内心うんざり

しきってた俺


偶然見かけた

あんたの見合いは

渡りに船

格好の暇つぶし


ついつい図に乗り

調子に乗って

演技に熱も入りすぎ

挙げ句の果てが

このザマだけど


どこぞのアホな令嬢に

顔ひきつって

息が詰まって

死ぬぐらいなら


五月晴れの街ん中

あてなんかない

あんた任せの

おわび行脚


俺は断然

こっちを選ぶね


空は高くて

並木の緑は

まぶしくて

あんたの挙動は

奇想天外

おまけに発言は

愉快痛快


俺が一言

まぜっ返すたんびに

ふり返っては

突っかかる

あんたの仏頂面

拝みながら


俺はすこぶる

ご機嫌だった


ラテ代

俺に払わせといて

当てつけがましく

自分の切符しか

買わずに乗った

ロープウェー


「見合いごときに

何でそこまで

目の色変える?」と

乗るなり俺は

冷やかした


「果てしない

大海原の人生だから

舟だって

1人じゃ心細いけど

2人で行けば怖くない

だから 

どうせなら

2人で行きたい


それに

1人より2人で

漕ぐほうが

どう考えたって

はるかに速い


だから

早く相棒を

見つけたい」


こともなげに

あんたは言った


30そこらの独身女が

悟り開いた

坊さんよろしく


酸いも甘いも

噛み分けた

偉そうな珍説

ぶちあげて


だけど

何でだろう

妙にすとんと

胃の腑に落ちた


珍しく

この俺が

茶々入れもせず

鼻で笑いもしなかった


ロープウェー降りるまで

あんたの珍説

頭の中で

何度も唱えた


ゲームセンターで

分捕った

でっかいでっかい

“ブタぐるみ”


後生大事に

小脇に抱えて

日暮れの屋台で

安酒あおって

あんたは延々

説教垂れた


99.9%は

このワンマンショー

見たさが理由で


それでも

0.1%は

オジャンになった

さっきの見合いの

罪滅ぼしに


神妙に

あんたの説教

聞いた俺


変てこりんといえば

実に

変てこりんな図


「見合い

ぶち壊した詫びだ

俺が相手を

探してやるから

理想のタイプ

言ってみな」


酔ったまぎれに

水を向けたら


「キスが上手な男」


そう来たか

うらやましいご身分だ


宵の口から

街の屋台の

焼酎ごときで

クダ巻いて


だけど

意外にもそれは

話の枕


あんたは

うつろに笑んで

つけ足した


「彼です」って

親や姉たちに

堂々と紹介出来る人

「彼女です」って

親兄弟や友達に

堂々と紹介してくれる人


俺はたまらず

「それっぽっち?」


大層な返事を

期待していた

わけでもないが

とにかく内心

ずっこけた


見かけに似合わず

ずいぶんとまた

単純というか

純情というか

あまりに見事な

肩透かし

上げ足とる気も

消えうせた


シラフのときすら

どっから見たって

絵に描いたみたいに

一本気なあんたが


人目も恥じらいも

あればこそ

今にも

酔いつぶれかかってなお

そこまで

力説するからには


世の中

そんな簡単なこと

嫌がる男もいるんだな

まんざら嘘でも

なさそうだ


それにしたって

酒ぐせ悪いにも

ほどがある


足腰立たない

酔っぱらい

おぶってやったのが

運のつき


握ったブタぐるみは

バチと化し

俺の頭は

逃げない木魚


お経よろしく

拍子とりとり

イブの男を

こきおろした


俺は

そいつじゃないってば


言うだけ無駄か

殴りたきゃ殴れ


どっちみち

飲ませた俺が

馬鹿だった


タクシー乗り場が

遠かった


ほんの一瞬

イブの男に

同情も湧いた

これじゃ愛想も

尽き果てる


舌打ちしたって

始まらないけど

相手は女


泥みたいに

眠りこけてちゃ

まさか道ばたに

置いても帰れず


結局 俺は

まるまる一晩

ベッドを

提供させられた


わかってるって

酔っ払いには

罪はない


シラフのうちに

あんたの住所

聞いとかなかった

俺がうかつで

馬鹿だった


弁は立つ

けんかっ早い

酒ぐせは最悪


俺が雇った

パティシエは

ソウルじゅう探したって

お目になんか

かかれないほど


三拍子そろった

逸材だった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ