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第一章〜Fullmoon・Light〜(I)

今日もあの時と同じ様に雷鳴が轟き、激しく音を立てて降っている雨が地面を叩きつけている。

今日は予定では満月になるはずだったのだが……。

吸血鬼と呼ばれる者達は月に一度、満月の晩に(おさ)の家に集まり集会を開く。

主に人数の確認や、新しく誕生した吸血鬼の顔見せをするのだが――今日は違っていた。


「この中で、秘密を隠している者は居ませんか?」


「その前に一つお尋ねしたい。何故、貴女がこの集会を仕切っているのですか?混血のローズ嬢(・・・・・・・)?」


普段ならこの集会をまとめるのはローズの祖父であるエドワードの役目だ。

しかし、彼は今動ける状態ではない。

あの日の毒のせいで体を動かすことが出来ないのだ。


「カオス卿、その疑問はもっともですが……祖父は今、体を動かせる状態ではないのです。」


「と、おっしゃいますと?」


「何者かに毒を盛られ体を動かせないのです。」


集会に集まった者たちが皆、響動(どよ)めく。

長の存在はそれほど重要なのだ。

それはもちろんローズ自身にとっても。


「ほぅ?それで混血(・・)の貴女が集会を仕切り、犯人を捜そうという訳ですね?」


「……。」


「では、こんな集会は無用です。どうか皆様方、お引取りを。」


その場に居た吸血鬼達が一斉に席を立つ。


「そんな!!長が何者かに盛られた毒に侵され倒れたのですよ!?」


「その言い分はもっともですけどね、お互いを疑う事は裏切りに近い行為なのですよ。せめて混血でも(・・・・)吸血鬼らしい振舞いや考えを身に付けたらいかがです?それで長の跡を継ぐなど悪い冗談にしか聞こえませんよ、ローズ嬢。」


「分かっています。でも――」


「失礼します。」


結局、集会は5分ともたなかった。集会を開いた大広間にはローズと、黒いフードを被った者だけが残された。


「気にする事ないわ、ローズ。あんな人の言うことなんて。」


「リウム……」


黒いフードを外し、リウムは微笑んだ。

彼女の年齢は人間で言うと20代前半と言ったところだろうか。

髪は銀色でエメラルドグリーンの瞳を持ち、神秘的な雰囲気を放っていた。


そんなリウムを見詰め、ローズは溜息をついた。


「私は、混血だから。」


「ローズ!!」


ローズは人間と吸血鬼の“混血”である。そして長の地位を継ぐ、正当な継承者だ。

しかし、吸血鬼の大半は人間を嫌っている。

吸血鬼から見れば人間は自分達の飢えを満たす“食糧”でしかない。ただされだけの存在なのだ。

そのために自分の血筋に“食糧”である人間が入ることを忌み嫌う。

もちろん全ての吸血鬼がその様な考えを持っている訳ではないのだが――


「ローズ、自分を責めてはいけないわ。私だって混血よ。」」


「でも貴女は魔女(・・)との混血じゃない!!」


リウムは魔女と人間の混血である。

人間との混血とは違い、魔術的な面で優れている為に人間や、その混血のように純粋な吸血鬼から嫌われる事は無い。

そもそも魔女と言うものは単独で行動するため、家のある場所を知られているものは少なく、また普段の生活も謎に包まれている。

つまり、集会の日以外は外部との接触はゼロに等しいのである。

同じ混血であっても周りの態度が全く違うリウムに対し、ローズは苛立ちを隠せない様子だった。紅い瞳は潤み、唇は震えている。


「リウム、貴女は吸血鬼の中で生きていけなくても魔女として生きていける。でも私は、吸血鬼の中にも人間の中にも居場所が無いの!!」


「魔女だって元を辿れば人間よ?第一――」


「失礼します。」


扉が開き、ティーカップを持ったメイドが入ってきた。

ティーカップを2人の目の前に置く。


「第一、カオス卿の一言で悩むなんて馬鹿馬鹿しいわよ?そう思わない?」


「ごめんなさい、それもそうね。」


2人共、置いてあるティーカップに手を伸ばす。


「ローズティーなのね。美味しそうだわ。」


リウムの一言にメイドは軽く頭を下げた。

そして、ローズがティーカップに口をつけようとしたその時だった――


カシャーン!!!


リウムがティーカップを床に落とした。


「あら。ルア、すぐに代わりのお茶を持ってきて頂戴。」


「ローズ、その必要は無いわ。そうでょ、お嬢さん?」


リウムは微笑を絶やさずにメイドの方を向いた。


「魔女の目は全てを見通すわ。カップの中に入っている毒に気付かないとでも思ったのかしら?」


「ルア!まさか貴女が!?」


「それはこの子を捕えて尋問すれば良い事だわ。誰の差金か大体見当は付いてるけどね。」


ルアは悔しそうに唇を咬んだ。


「貴女さえ、貴女達さえ居なければ!」


「お喋りは後にして頂戴。」


そう言うとリウムは手で大きく十字を切った。そのまま十字は銀色に輝く光となってルアに迫る。

吸血鬼は十字架に弱い。

それを逆手に取った魔法がこの“十字の束縛(クロス・リストゥレイン)”である。

この魔法は純粋な吸血鬼にのみ効く魔法である。

当然ルアにも効くはずなのだが――


パンッ!!


当たったはずの十字は何故か消滅し、光の粒となってしまった。


「どうして“十字の束縛(クロス・リストゥレイン)”が効かないの?当たったはずなのに。」


リウムの横に居たローズが呟く。

確かに当たったはずなのだが……。

リウムはルアのしていたネックレスの宝石に気付き、驚愕の表情を浮かべた。


「何故、何故貴女が“禁断の果実(プロウディファン・ベリー)”を持っているの?それは……」


「お喋りは後にしてと言ったわよね?」


ルアは不敵に微笑み、驚くべき跳躍力で2人の頭上を飛び越え、窓を割り、逃走した。

そしてそのまま、森の暗闇の中へ消えていった。


「お嬢様、何事ですか!?」


窓の割れた音を聞きつけ、執事のコーフィンが部屋に飛び込んできた。

ローズは目に涙を浮かべながらコーフィンに事情を説明した。


「お嬢様、すいません。私が気付かなかったばかりに。」


コーフィンは申し訳無さそうに深々と頭を下げた。

その横でリウムは割れた硝子をじっと見詰め、目を細めた。


「ねぇ、ローズ。色々と話したい事があるの。場所を変えてもいいかしら?」


「分かったわ。コーフィン、私の部屋に紅茶を。」


「承りました」


3人は広間を後にした。

広間には何時もの静寂が戻り、冷たい空気を漂わせていた。

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