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Rotary

コインランドリー 洗濯機系ショート3

作者: 羽生河四ノ

千葉の佐倉のしゃぼんをベースにしています。

コインランドリーが好きで暇さえあればよく行く。最近家の近所にいいコインランドリーが出来たのだ。

他人からは「何が楽しいのか?」と聞かれるけど、私の短い人生行路の経験上、こういう手合いは最初から理解する気なんて無い。ただそれを聞いて、そしてまるで狂った人間の話のようにその場を凌ぐ手立てとして他人に面白おかしく話したいだけなのだ。

だから、私はそれを聞かれても詳しく答えたりしない。理由も毎回変えている。「コインランドリーで生まれたから」とか「実家がコインランドリーだから」とか「昔妹とコインランドリーで生き別れたから」とか「記憶喪失がコインランドリーで直ったから」とか「死んだ両親を思い出すから」とか色々だ。ちなみに両親は健在だ。そしてこれだけ嘘をついているにもかかわらず、私は別段に狼少年扱いされたりもしない。それを考えるとやっぱり特に重要なんかじゃないんだという気持ちになる。特に興味があるとかじゃないのだ。むしろそういう理由のほうが、バラ珍みたいで喜ばれるのかもしれない。

大体コインランドリーが好きな理由なんて自分でもよく分からない。ただ、落ち着くのは確かにある。あとシャボンのにおいとかも好きだ。照明が明るいのもいいと思える理由のひとつだ。私はそこに行く為にわざわざ洗濯物を一定量溜め、1番大きな洗濯機を利用してコインをランドリーする。その間どこかに行くこともしない。私はそのコインランドリーで洗濯が終わる様を見届ける。そういう義務があるとすら感じている。その際、近くのコンビニでコーヒーを買いそれを飲みながら回る洗濯機を眺める。タバコが吸いたくなったらタバコも吸うし、座って待ちながら本を読んだりもする。それで時たま回る洗濯物を眺める。段落が二十個終わったら回る洗濯物を眺める。段落が二十個終わったら回る洗濯物を眺める。その繰り返し。

その際、かなり大きな幸福感が沸く。むろん幸せというのがどういうものかは私には分からない。もしそれが決まっているとしたら、私のソレは正規のものとは違う可能性もある。ただ、その時沸くその感情を私は幸せと仮定しているし、それが沸くことで私はうれしい気持ちになってくる。自分の口角が持ち上がるのがはっきりと分かる。だから私はそれのことを幸福感としている。

家にいて洗濯機を回していてもそうは感じない。家で洗濯機を眺めていても同じ感情は沸かない。口角だって別に持ち上がらない。コインランドリーだからいいのだ。コインランドリーだから幸せなのだ。コインランドリーだから持ち上がるのだ。

ある日、会社でまた「コインランドリーで何が楽しい?」という質問を受けた。私は面倒だったので「ジャンプとマガジンとサンデーが読めるから」という適当な答えを返答した。その日の会社の帰り道のことだ。僕が家に帰る際「あの答えは少し弱かったな・・・」などとどうでもいいことで僕が少しへこんで歩いていると、前から老女と若い女性が一緒に歩いてきた。

「あの・・・すいません・・・」

老女は僕を見て声を発した。しかも若干感極まっているみたいで僕には気持ち悪く思えた。刺される心配をしてしまう。

「なんですか・・・?」帰りたいのになんだ?

「あのね・・・、私が本当のあなたの母さんなんだよ・・・」そしてそう言ったとたん堰を切ったように泣き出してしまった。

は・・・?この老婆は何を言っているのだろう?

「突然すいません」

隣にいた若い女性が老婆の背をさすりながらしゃべりだした。

「私たちは高瀬というものです。あなたは現在秋口という姓ですけど、本当は高瀬なんです。この人が母です。私はあなたの妹になります。母はずっと後悔していました。生まれて間もないあなたをコインランドリーに置き去りにしてしまって・・・」

その辺から目の前の二人が何を言っても私には何も聞こえなくなってしまった。

そうか・・・妹がコインランドリーに捨てられたんではなく、私だったのか・・・。

そうか・・・私ってマジでバラ珍だったのか・・・。

コインランドリーにねえ・・・。

へえ・・・。

そう・・・。


いいコインランドリーなんです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぐふっ∀〝死んだ両親を思い出す〟って、感動で胸がじぃんとなる系だと思いきや、両親生きてるんですかw! 面白い。艸(草)w ふむふむ。平和な日常の一コマを切り取ったような、ほのぼの感。コイ…
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