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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エルフじゃないもんっ!

作者: 大宮&鏑木

 人間が『シルワ』と呼ぶ森に入って少ししたところに集落があった。

 

特別大きくも無いその集落は定期的に盗賊に襲われていた。

 集落の場所を変えればいいのではないのかと思うかもしれないが、シルワ森には奥に行けば自分達より強い生き物の住処が、そしてこのあたりには他の集落があるので移ろうにも場所がなかった。

 他の集落で共に暮らそうとしても食料はまともに手に入らず、家畜のような扱いを受けながら飢え死ぬだろう。だが、集落を奪おうにも盗賊に襲われ、常に他の集落より人数で劣る彼らでは到底無理だ。

 そうして襲われ続けるのを甘受していたその集落がまた盗賊に襲われてから1ヶ月が過ぎた頃、


「ォギャアアアァァァ」


1人の男の子が生まれた。


 その男の子は周りの者達と容姿が違っていた。

 色素の薄い髪、透き通るような肌、整った顔。耳のみは周りと同じように長かったがそれ以外は何もかもが違った。

 そんな男の子はその異端さから即殺されそうなものだが『耳が長い=同種族』という考えを持つ彼らはそれをしなかった。




 それから3ヶ月が過ぎ、赤ん坊だった彼は1人で狩りに出かけるほどに成長していた。

・・・その集落にとって1人で狩りに出かけることが一般的だったわけではない。ただその見た目から周りに忌避されていただけだ。

 整った容姿であれば周りから囲まれそうなものだが、残念ながら周りと違うということは同年代から避けられる原因にしかならなかった。さらに大人たちは自分の力で生きていけないのならそれも自然の摂理だと思っているので助けなど求められる訳も無かった。

 もちろん1人で出来る狩りなど高が知れている。罠を作るなどと言う知恵が無い彼は同世代の中で最も小さかった。 

 その日は上手く狩りが成功し兎にも似た小動物ではあるが、3日ぶりに肉に有りつけた彼を待っていたのは、


地獄と化した集落だった。










 彼らは冒険者である。


 薬草を採取し、魔物を狩り、依頼者の護衛を主な仕事とする彼らは男2人に女2人と言う珍しいパーティであった。

 男女混合で、さらに男女比が同じというパーティでは諍いが多いと言う理由で解散する例が多い。

そんな中でこのパーティは7年と言う長い時間を共にしている。

・・・だが常に仲がいいというわけではないようだ。


「なんでこんな依頼受けたの!」

「うるせぇ、報酬が良かったんだよ!」

「だからってこの依頼じゃなくてもいいじゃない!」

「受けちまったものはしょうがないだろ!」

「・・・落ち着けよ2人とも、言い争っている暇があるなら早く終わらせようぜ」

「そうよ私だってこんな所いたくないし・・・」


 全員で3日3晩話し合って(言い争って)決めたパーティ名『スパロウ』の面々は森の中で今まさに話し合っていた(言い争っていた)

 彼らが受けた依頼は『ゴブリンの集落の管理』で、つまりはゴブリンの駆除であった。

 何故管理などと若干遠まわしな言い方をしているのかというと、『シルワ森にあるゴブリンの集落を回り、数が多ければ人里に被害が出なくなる程度に調整する』のが本来の内容である為だ。

 では何故ゴブリンを駆逐しないか?それはゴブリンが雑食だからだ。

 もはや悪食といっても過言で無い彼らは『森の掃除屋』であった。他の魔物の糞すらも食べると言われている彼らは弱肉強食のピラミッドの重要な土台だった。・・・ゴブリンのいない森は死ぬといわれるほどに。

しかし彼らは恐ろしいまでのスピードで繁殖を繰り返し、あっという間に数を増やす。・・・ゴブリンを放置した森は死ぬといわれるほどに。


 ゴブリンは人に襲い掛かる。

 まともな戦闘経験のない村人では対応できず、森に薬草などを採取しに来た娘が襲われることもある。

そしてゴブリンは他種族でも構わず犯し、孕ませる。それゆえに人、特に女性には嫌われているゴブリンだ。

そんなものに積極的に関わろうとする者がいるだろうか?


「嫌よ、ゴブリンなんか!あんな気持ち悪い・・・」

「でもよ、銀貨3枚だぞ?これだけで1ヶ月分の報酬が手に入るんだぜ?」

「その代わり1週間森で野宿だけどな」

「いつ襲われるかもわからない森に1週間も居たくないよ・・・」

「イサベルは何があってもあたしが守るからね!」

「そんな事言って、アンナが真っ先にやられるかもな」

「黙りなさい、カルロ!その口開けなくしてやるわよ!」

「おお、怖い怖い。なあそう思わないかゲオルク?」

「・・・浅いといっても森の中だぞ、油断はするな」

「もしボブゴブリンがいたらどうしよう・・・」

「あの森を滅ぼすって言われているやつか」


 弱者であるゴブリンが何匹いようと森を滅ぼせるレベルには満たさないが稀に現れるのだ、突然変異が。知能や筋力などある一点の能力が異常に発達した個体が。

 まさにゴブリンの上位種といってもいいほど通常のゴブリンと能力に差がある変異種はそのいずれも脅威につながりかねない可能性を持つ。

 寿命が3年と言われているゴブリンだが、それは幼少期の栄養状態に大きく左右される。そして変異種はその能力から栄養豊富な食料を食べ、最低10年は生きると言われている。

 長生きするほどに知能は高くなり、狡猾になっていくゴブリンは、5年生きると『ボブゴブリン』と呼ばれるようになる。『ボブゴブリン』はゴブリンに比べ背丈が大きく、筋力も上昇している。

 ゴブリンでさえ成人した人間の半分の身長しかないのに大人より少し劣る程度の筋力を持つ。そんな種族の上位種ともなるとその力で同種族を纏め上げ、他種族に襲い掛かるようになる。

そしてその結果、


魔物の軍が出来上がる。


 『ボブゴブリン』に率いられた魔物の軍に滅ぼされた都市の話は有名だ。それゆえボブゴブリンが現れたと報告があれば王国の軍が出動されることになっている。そして討伐が行われた後に森は焼き払われる。

・・・それぐらいのレベルなのだ、『ボブゴブリン』は。


「『管理』をしなかった森は変異種が生まれやすいからな、しっかりと回ろう」

「だいたい10匹残せばいいんだっけ?」

「いいじゃん1つぐらい集落滅ぼしたって」

「駄目だ、空いた縄張りを吸収した集落はゴブリンが増えやすくなる。だからこその『管理』なのだ」

「へぃへぃ真面目にやりますよって」


 そうして順調にゴブリンの集落の『管理』をしていった彼らだったが、最後の集落では今までと違ったことが起こった。


「これで最後っと、何匹か逃げてったけどこんなもんだよな?」

「ああ。これでこの依頼も終了だ」

「やった~。これでやっとこの森からおさらば出来る」

「だれも怪我が無くて、よかった」


――カサッ


 喜びに浸っていた彼らを現実に引き戻したのは茂みが揺れる音だった。

瞬時に戦闘体勢に入った彼らは茂みから出てきた『モノ』に目を見開いた。


「っエルフだと・・・!」

「シルワ森にエルフは、いない・・・よな?」


 エルフは通常、空気中に漂っている『魔素』と呼ばれる物質の多いところに住んでいる。『魔素』は魔法を扱う生物にとって欠かせないものであり、特にエルフはそれを非常に好む。さらにいえばシルワ森の『魔素』はそれほど多くない。

・・・だとすれば、


「こいつ、奴隷だったのか?」


 それが一番納得できる。というよりそれ以外でエルフがこんなところにいるはずがない。

 予想外の接触だが初めて『エルフ』という生き物にあった2人の女性は・・・、


「可愛い~」

「何この子すごく綺麗なんだけど」


とても興奮していた。

 だがその反応に対し、『エルフ』と思われる子どもは、


――ペタン


腰を抜かすほどに怯えていた。

 女性陣はその反応にますます興奮するのだが、男性陣は自分達の格好を見て、


「おい、血まみれだぞ」

「これでは怯えられてもしょうがないな」


思いのほか冷静だった。・・・まあ、近くに思わず引いてしまうほどに興奮した人達がいれば冷静にならざる負えないだろう。

そして、その『引いてしまうほどに』興奮した2人に


「ちょっと冷静になれよ」

「エルフが怯えているぞ」


と注意するぐらいには大人だった。


 ゲオルクはようやく興奮が収まってきた2人に血を拭って、エルフから何か話を聞いてきてくれないかと頼むとカルロと向かい合って、


「お前はどう思う?」


と聞いてみた。

当然何の事かは察しているカルロは


「だいたいお前さんと同じだろうが・・・奴隷商が捕らえたエルフを街に運んでいたところをゴブリンの襲撃で奪われたってとこだろうな」


 普段は軽口ばかりでアンナと諍いばかりしているがいざと言うときに頼りになるカルロをゲオルクは信頼していた。


「ああ、俺も同じだが、いくつか疑問がある」


そこでどんな反応をするかカルロを見たが、顎で続きを促しただけだった。


(・・・つまりはあいつも同じってことか)


そう判断したゲオルクは先を続けた。


「まず、奴隷商がエルフを捕らえたという事だが、稀にしか人間社会に現れないというエルフの、しかも子どもがだ。捕らえられるような状況がわからん。」

「遊んでいたが人里近くに下りてきてしまい、偶々それが奴隷商に見つかった。ってところじゃないのか?」

「なるほど、納得はしないがわかった。ならエルフが住むと言われている山から遠いこの付近までエルフを連れてきた理由は?」

「確か噂だがここらの貴族の1人がエルフ愛好家というのを聞いたことがある」

「奴隷紋の首輪も付けずにか?」

「それは・・・付けようとしたがそのまえに襲われたとか、奪われるくらいならと奴隷紋を解除した後に連れ去られたとか、途中で何らかの衝撃を受けてはずれたとか・・・」


 次第に尻窄まっていくカルロ。自分でも説得力が無いことを自覚しているのだろう。


「わかった。奴隷紋についてはもういい。じゃあ最後だ」

「わかってるよ。何故命よりも大切な商品を運ぶ際、護衛がいたはずなのに奪われたのか?だろ」

「ああ、又は何故護衛を付けなかったのか?だな」

「もうあれでいいだろ『極秘だったから自分以外にエルフの存在を知られたくなかった』、で」

「なんだ面倒臭くなったのか、もう少し真面目にできる時間を延ばしてくれ」

「あああっ!!もうこれ以上考えても答えは出ねぇよ!今は目の前にあるあいつを見ようぜ!?」


 ぶちきれたカルロ。その声に驚いたのか『エルフ』がビクッと肩を震わせた。

もうじきカルロが叫びだすと感じていた女性二人はまた怯えだした『エルフ』を見て文句を言った。


「何やってんのカルロ!また怯えちゃったじゃない!」

「大丈夫だからね~、よしよし。・・・そうだよ折角落ち着いてきてくれたのに」


 2人に非難されたカルロは、


「す、すまん。・・・それより何か話せたか?」


と彼にしては素直に謝り、そして強引に話題を持ち出した。

2人はまだ何か呟いていたが、


「ううん、この子共通語がわからないようなの」

「っていうかまだ一言も喋ってないよ」


と報告した。

 ゲオルクはそうか、と呟きとりあえず『エルフ』に尋ねた。


「お前、名前は何と言う?」


『エルフ』は意味がわかっていないのか首をかしげ、


「グギャ~?」


と言った。

 そんな『エルフ』を見てゲオルクは頬を緩ませ、また


「そうか」


と返した。

 カルロだけがふざけた様に


「そうか、お前は『グギャー』というのか」


と言っていたが女性2人に睨まれまた、


「すまん」


と謝っていた。










 『ゴブリンの集落』に最後に帰ってきた見た目麗しいゴブリンは目の前の光景が理解できなかった。

・・・集落が血に染まり、辺りに耳だけがなくなっている仲間の死体を見れば、誰だって理解できなくなるだろう。彼がゴブリンであるならなおさら。

 そして全身にこれでもかと返り血を浴びた、自分より遥かに大きい生き物がいれば動けなくなるのも仕方が無かった。


(ころされる)


 彼は自分を見て興奮し始めた2人を見てそう思った。


(にげなくちゃ)


そう直感した彼だが、その思いに反して身体の力は抜け、腰を抜かしてしまった。

ますます騒ぎ出す2人。彼は死を覚悟した。

・・・だが神は彼を見捨てなかった。

 騒いでいる2人よりさらに厳つい顔をした2人が何かを言った後、2人は騒ぐのを止めた。

そして全身の返り血を拭い始め、ある程度落ちたところで彼に何か語り始めた。・・・笑顔で、だ。

彼に仲間が笑いかける時は大抵ニタニタと嫌らしいものだったので、2人の笑顔が始めはどんな意味を持つ顔なのかわからなかったが、雰囲気からそれが敵意があるものではないことがわかった。

・・・だからと言ってすぐに警戒しなくなるほど馬鹿ではなかったが、やわらかい雰囲気を持つ2人に次第に怯えなくなっていた。


 そこからが更に訳がわからなくなってきた。

突然抱きかかえられ、森から出たかと思うと今度は彼の常識からすると有り得ないくらいの大きさの街に連れていかれた。

 また4人が固まって話し合いをしている。

彼らの話し合いには大声が基本だ。

 彼の脳裏にフッと『喧嘩するほど仲がいい』という言葉が浮かんだ。


(きっとあのよにんはなかよしなんだろう)


彼はそう思い、彼らの話し合いが終わるのを待っていた。

・・・だが彼は知らない。





この話し合いが彼の為であることを。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが読みたくなるお話ですね。 可愛らしさに一点特化したホブゴブリンとは・・・ 女性達の反応を見るに、たくさん子孫を残しそうな・・・
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