新しい鎧と伝説の剣
フィエンヌがゼムスデーモンを退けてから五日間、悪魔が出現することはなかった。そして六日目、ファマドは自宅でお茶をいれていて、テーブルを挟んで椅子に座ったレモスルドとフェエンヌは黙ってそれを受け取った。
「君達は相変わらず手を出しすぎるね。ルール違反とは言わないけど」
「別にいいだろ、どうせ決着をつけるのは俺じゃない」
レモスルドはそう言うと、お茶を一杯飲む。反対にフィエンヌはお茶も飲まず、天井を見上げて特に何も言わない。その様子を見ながらファマドは二人の向かい側の椅子に座る。
「まあ君達に何を言っても仕方がないか。それで、君達はパイロフィストのあの二人が気になっているようだけど、そっちはどうなんだい?」
「俺の方は予想通り。やっぱりあいつはセンスがあるな、実戦で感覚をつかんだら精霊の力とやらに馴染むのは早かったぞ」
「なるほどね。そっちのほうはどうかな?」
ファマドがフィエンヌに話を振ると、フィエンヌはやっと口を開く。
「面白いものが見られるだろう。少々派手すぎるが、あいつらはそれに見合うだけの装備を用意するそうだ」
「それは面白そうだね」
「それより、お前のところのキーツというのは大丈夫なのか? 戦いに向いているようにも見えないが」
「それなら心配はいらないよ、彼らの戦力があればね。今頃は色々準備も整っているところだろうし」
そしてその頃、パイロフィスト本部では国と組織に関わる主要な人物が会議室に集まっていた。その中で外交部長であるバーブがパイロフィスト団長、ストッフェルに耳打ちをしている。
「…そうですか、それでは王国の方とは引き続き交渉を続けてください。下手に手を出されると困りますからね」
「わかりました」
バーブはそう言ってから自分の席に戻ると、ちょうどそのタイミングでノーデルシア王国女王、ヤエが室内に入ってきた。バーブはすぐにそこに向かうと、ストッフェルの隣の席にヤエを案内する。その着席を確認すると、副団長のフォルブランが立ち上がった。
「女王陛下、わざわざ御足労ありがとうございます。早速ですが、この五日間で我々が用意をした悪魔対策を披露します」
そう言ってフォルブランが手で合図を出すと、部屋の扉が開かれ、重い足音が響いた。会議室にいた者達の視線が一斉にそこに向かうと、足音の主であるアテリイは一度足を止める。
その姿は普段のものとはまるで違い、基本こそはファントムアーマーであったが、その上に重厚な装甲を身にまとっていて、兜らしいものをを脇に抱えている。なによりも目立つのは、身の丈を超えるほどの大剣を担いでいることと、真紅のマントを身にまとっていることだった。
「ご覧の通り、標準の装備とは違う対悪魔用の装備です。マーガレット部長、説明を」
フォルブランから話を振られ、マーガレットが立ち上がると、アテリイの前まで歩いていく。
「先日現れたゼムスデーモンという悪魔は強大な力を有していました。それこそ我々の標準の装備では太刀打ちできないほどに…」
そこでマーガレットはアテリイの肩、今は装甲に覆われているそこに手を置いた。
「ですが、この対悪魔用装備は魔力容量は従来の五倍、最大出力も三倍になっています。さらに、この大剣はかつて勇者が王国の騎士に与えたものを改造したもので、極めて強力な魔道具となりました」
バーブだけは剣の説明の部分で顔をしかめたが、マーガレットは特にそれに構うことはない。
「技術的な説明は省きますが、これだけの装備と王都を守ってきたアテリイの力があれば、あの強力な悪魔にも必ず対抗できます」
マーガレットはそこで言葉を切り、自信に満ちた表情で室内を見まわした。それにたいしてストッフェルは軽くうなずいてからヤエに顔を向ける。
「私はアテリイに任せようと思います。陛下、最後までこの戦いを我々に任せてもらえますか?」
その言葉にヤエは重々しくうなずくと、立ち上がった。
「パイロフィストには数百年に及ぶ歴史があります。その間様々な危機もありましたが、パイロフィストはいつも脅威に向かって最前線で立ち続けてきました」
ヤエは一度言葉を切り、鎧をまとって立つアテリイを見てから再び口を開く。
「今回の戦いは歴史上でもまれに見る激しいものになるでしょうが、私はパイロフィストの力を信じます。そして、後顧の憂いがないよう、我々も全力を尽くしましょう」
そしてヤエは静かに椅子に座った。会議室にはしばらくの間沈黙が流れ、数秒後、ニッケルが立ち上がってそれを終わらせた。
「陛下、ありがとうございます。アテリイ隊長はすぐに現場の指揮についてください、マーガレット部長はそのサポートをお願いします」
「全力を尽くします」
アテリイは静かに、だが力強く言うと、一礼してからマントをひるがえして部屋から出ていった。マーガレットもその後を追って退室し、すぐにその横に並ぶ。
「調子はどう?」
「大丈夫です。今すぐ悪魔が出てきても問題ありません」
「そう、その剣は扱いは大丈夫?」
「大丈夫です。しかし、こんな貴重なものを改造して良かったのでしょうか」
「そういえば、バーブは機嫌悪そうだったわね。でもいいのよ、この短時間で一から武器を作るのは難しいし、その剣は今でも十分に使えるものなんだから。大体私達は博物館の管理人じゃないのよ」
「そうですね。では、私は待機に入ります」
「自分で動けないのは色々大変でしょうけど、あまり張りつめすぎないようにね。それと、限界まで力を出すのはできるだけ控えるのよ」
マーガレットがアテリイの手を軽く叩くと、アテリイはそれに微笑を返す。
「隊員達を信じていますから、何も問題はありませんよ」
その返事にマーガレットも微笑を浮かべると、そのままその場から立ち去って行った。アテリイはそれを見送ってから、本部の正門に足を向けた。
そして外に出ると、そこにはアテリイの小隊のメンバー全員、アライアル、レウスとトーラ、シガッドにレギとマグス、そしてキーツと狼が集まっていた。アテリイはその全員を見まわすと、大剣を目の前の地面に突き立てると、柄に両手を置いた。
「よく集まってくれた。私はここで待機することになるので、悪魔が現れた時にはまず各自で対応してもらうことになる。班は三つにわけ、それぞれ封印用のタンクの近くに配置する」
そしてアテリイは視線を動かしていく。
「アライアル、ベネディック、そしてレウス君、それぞれの班はその三人に任せる。アライアルの第一班は街の東方面、ベネディックの第二班は第三公園周辺、レウス君の第三班は西だ。班の人員分けは前に言った通りで構わないな?」
「俺は構わない。行くぞ、超能力者共」
アライアルはシガッド達に向かって手を振ると、すぐにその場から離れていった。それに続いて、ベネディックの班、マルハス、ヤルメル、クリストール、ジョシンがアテリイの前に出た。
「ジョシン、お前の役目は封印だ。前には出るなよ。クリストールも負傷の後遺症はないとは言っても、昨日まで安静だったのだから無理はするな」
「はい!」
左手を完全に固定したジョシンと、すでに無傷に見えるクリストールはいい返事を返した。
「では隊長、小隊の指揮は預かります」
「頼む」
ベネディック達もその場を離れ、アテリイは最後に残ったレウス、トーラ、キーツと狼に体を向ける。
「キーツ君、君は封印をものにしたが、それだけだ。前に出てはいけない」
「わかっています」
そう言ってキーツはレウスとトーラに頭を下げる。
「レウスさん、トーラさん、よろしくお願いします」
「当然! 任せておきなさいって!」
トーラが力強く宣言し、レウスが黙ってうなずくと、三人と一匹は歩き出した。




