狼の導き
アライアルからの悪魔と遭遇したという連絡に、アテリイはキーツ達を呼んでいた。
「アライアル達が悪魔と遭遇した。レウス君はあの師匠がいれば問題ないと言っていたが、今のところ一体だろうから、これはいい機会かもしれない」
「つまり、封印を実際に使ってみろってことですか?」
ジョシンがそう聞くと、アテリイは軽くうなずく。
「そうだ。私も同行するから、戦力的には十分だろう。キーツ君、いけるかな?」
「さすがにあのタンクはまだ使えませんけど、空のマジックカートリッジが用意できれば実験には十分です。ただ、相手に合わせて現地で調整する必要がありますけど」
「よし、それならクリストールはキーツ君の護衛、ジョシンは私がサポートをするから、封印に集中だ」
「了解。しかし、アライアル隊長なら、到着までに片づけているかもしれませんよ」
「そうなっていたほうがいいが、難しいだろうな。すぐに準備をして本部正面で集合だ」
そこでそれぞれ準備にとりかかり始めたが、そこでそれまでおとなしくしていた狼がキーツに駆け寄り、ズボンの裾を口で引っ張った。
「どうしたんだい?」
キーツは腰を落として狼と向かい合う。それで狼はズボンの裾を放したが、それでもキーツをどこかに連れていきたいのか、後ろに回ってキーツの背中を押す。キーツはそれを手で押さえてジョシンに顔を向けた。
「どうも僕たちをどこかに連れて行きたがっているみたいです」
「どこかにって、ひょっとして悪魔のところかもな。前も悪魔に向かっていったことがあったんだろう?」
「はい、確かにそうでした」
キーツがうなずくと、狼はそれに答えるように軽く吠えた。
「…こいつに任せてみてもいいかもしれないな。よし、俺達は先に行こう」
そう言ってジョシンはアテリイに連絡を入れる。
「隊長、どうも狼が連れていきたいところがあるようなので、俺達はそっちに向かいます。目的地は同じかもしれませんが」
「そうか、それならアライアルのところは私一人で向かおう。すぐに片づけてお前達と合流することにする。お前達はヤルメルかマルハスどちらか近くの二人に援護を頼め。何かがあっても無理はするなよ」
「了解。隊長も気を付けてください」
「心配するな」
そこで通信は終わり、ジョシンはアエチディードに目を向けた。
「あんたも来るだろ」
「そうね、何があるか楽しみだし、ついていってあげるわよ」
「よし、それじゃクリストール、お前は車の準備をしといてくれ。俺はキーツと一緒に空のカートリッジを持ってくる」
「わかりました」
クリストールはそう言って外に向かい、アエチディードもそれについていった。それからしばらくして、四人と一匹は本部の前に集まっていた。
「それじゃ頼むよ」
キーツが狼の頭を軽く撫でてから車に乗り込むと、狼は先行して走り出した。その速度は徐々に上がっていき、ハンドルを握るジョシンが追いかけるのに苦労するほどだった。
「これは違う場所に向かってるな。それにしてもあいつ足速いって」
「そうですね、一体どこに向かってるんでしょうか」
「これじゃアライアル隊長のいる方向とは正反対だ。クリストール、こっちだとマルハスとヤルメルどっちが近いか連絡をとっておいてくれ」
「はい」
後部座席のクリストールはすぐに地図を広げて連絡を取り始め、隣のアエチディードはそれを無言で覗き込んでいる。それから数十分後、街の外れにあるそれなりの広さの公園に到着すると、狼は足を止めた。
「やっと着いたのか。お、ちょっと待ってくれ、隊長からだ」
「ジョシン、そちらの様子はどうだ?」
「第三公園に到着しました。隊長のほうはどうですか?」
「それが、今は手が出せない状況だ。ロベイル共和国で確認された悪魔の作ったドームにアラアル達は取り込まれているらしい。だが心配はするな、お前達はそのままそこを調べてくれ」
「了解しました。何か見つけたらすぐに報告します」
通信が終わると、ジョシンは顔を後ろに向ける。
「聞いての通りだ、俺達はここを調べるぞ」
それから四人が車を降りると、狼はそれを確認するように一度振り返り、ゆっくりと歩き出した。
「クリストール、応援のほうはどうだ?」
「これからですが、少し時間がかかりそうです」
「それならいい。キーツ、それからもう一人もあまり離れるなよ」
「はい」
キーツは返事をしてマジックカートリッジの入った袋を肩に背負う。アエチディードのほうは特に反応は返さなかったが、それでも言葉には従ってジョシンの後ろについて歩き出した。
「こちらクリストールです」
「マルハスだ。結局あの狼にどこに連れて行かれたんだ?」
「第三公園です。これから調査にかかりますが、何があるのかは予想もつきません」
「そうか、気をつけろよ。俺達もすぐにそっちに行く」
「お願いします」
クリストールは通信を切り、周囲を警戒しながら一行の最後を歩く。先頭を歩く狼はペースを変えずに進み、公園の中心にある直径二十メートルほどの小さな池の前に到着すると足を止めた。
「ここなのかい?」
キーツがその隣に立って聞くと、狼は同意のようにキーツを見上げた。そ
の横にジョシンも立って池を見る。
「ここらしいな。しかし、変わった様子は…」
その言葉の通り、池に変わった様子は見られず、市民の姿も見られた。
「先輩、とりあえず人を避難させましょう」
クリストールの提案にジョシンがうなずこうとした時、突然狼が吠えた。それと同時に池の中心が泡立ち始める。ジョシンはそれを見つけと反射的に地面に両手をつく。
「プロテクション! モードドーム!」
ジョシンの手から光の線が池を囲うように伸びていき、それが円となると、池を覆う巨大な青い半透明のドームが一瞬で形成された。
「キーツは下がれ! クリストールは周囲に避難を呼びかけ! アエチディード、お前は自分の身とキーツのことくらいは守れるな!?」
ジョシンは素早く指示を出すと立ち上がり、腰から二本の曲刀を抜き放つ。その隣では狼が姿勢を低くし、唸り声を上げていた。ジョシンはそれを横目で見ると、軽く笑う。
「お前は心配いらないか」
その間にも池の泡立ちは激しくなっていて、すでに池の半分は沸騰してるかのような有様だった。いつの間にかジョシンの隣にまで来ていたアエチディードは、その光景を見ても特に慌てた様子もなく、落ち着き払っている。
「一体何が起こるのかしらね」
「さあな、あまりいいことは起きそうにない」
そして、池の泡立ちはついに全体に広がり、次の瞬間それが消失した。だが、そこにあるはずの池の底はなく、暗いというよりも、光を全て吸収してしまっているような空間が広がっていた。
「…なんだ?」
ジョシンはその光景に息を飲み、思わず一歩踏み出した。その視線の先、池の中心だった場所が揺らぎ始め、空間に裂け目ができ始めていた。
「まさか邪魔者がいるとはな」
頭上から声が響き、ジョシンが顔を上げると、そこにはビジルデーモンの姿があった。
「こいつは大物が出てきたな…」
ジョシンはそうつぶやくとキーツに視線を送り、ホルダーのタブレットを意識する。
「キーツ、チャンスがあったらやってみるぞ。カートリッジのほうの調整はすぐにできるか?」
「はい。あの悪魔だと恐らく体のごく一部しか封印はできないと思いますけど、すぐにやります」
「よし、頼んだぞ」
ジョシンは二本の曲刀を構え、キーツはマジックカートリッジを取り出して調整を始めた。




