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異端の継承者  作者: bunz0u
第一章
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対策会議

 パイロフィスト本部内の大会議室、そこにはパイロフィストに所属している、それなりの立場の人物と書記達が集まっていた。


 その中の一人、財務部長である恰幅のいい中年、ニッケルが最初に口を開いた。


「さて、みなさんお忙しいところ集まって頂いてありがとうございます。本日は最近この王都を騒がせている謎の人物と、おそらくその背後にいるであろう何らかの組織、さらに違法な魔道具を製造、流通させている組織に関することが議題になります」


 そこで一度言葉を切り、ニッケルはアテリイに視線を向けた。


「まずは謎の男ですな。ではアテリイ君、報告はすでに手元にあるわけですが、それに付け加えることがありますかな?」


 それにアテリイは立ち上がった。


「はい。例の男とは直接戦いましたが、報告書にある通り、行動の動機は不明で、魔法が効力を発揮しませんでした。そして、恐らく魔法以外の力を使い、手を触れずに物を動かす能力を持っているということです」

「魔法以外でそんな力なんて、興味深いわね」


 アテリイの発言に、初老の女性、技術部長のマーガレットが首をかしげた。


「魔法でないとすれば、精霊の力や他にいくつかあるわけだけども、どれとも違ったのよね? まあ、精霊の加護を受けた人なんても百年以上も確認されてないし、それ以外も可能性はほとんどなさそうだけどね」

「私の経験では見たことがないものでした。それは私の部下の報告にもある通りです」

「手を触れずに、家を一軒持ち上げてしまうほどの魔法以外の力、興味深いわね。是非調べてみたいわ」

「そうのんきな事を言っている場合ではありません」


 外交部長である中年の男、バーブが座ったまま口を開いた。


「王立学院にも不審者の侵入を許した今、人々の間には不安が広がり始めています。我々がどうにかできなければ難しいことになりますよ」

「いやいや、そんなことはありませんよ」


 ニッケルはバーブの言葉を否定する。


「我々には数百年の歴史がありますからな。それに、今のところ謎の男の一味はそれほど大きな被害を出したわけでもない。むしろ問題なのは違法な魔道具のほうでしょう。アテリイ君が制圧した強盗のようなものが大量に現れたら、そのほうが厄介ですよ」

「そちらのほうはベネディック副隊長が動いているということですが?」


 バーブが話を振ると、ベネディックは立ち上がった。


「はい、すでにあちらも動き出しています。アテリイ隊長がかけあってくれましたから、マジェリン部長がやる気になってくれました。そう時間はかからないと思われます」

「それなら大丈夫でしょうかね」


 バーブはうなずき、そこでマーガレットが立ち上がり、身を乗り出した。


「ところでアテリイ。謎の男の件に関しては、王女様とそれからキーツっていう少年がかかわっているようだけども」

「はい。あのファマドさんが面倒を見ている学生です」

「飛び級で大学に編入した俊英、確かアテリイ君の夫の教え子でもありましたな」


 そこでニッケルが口を挟み、アテリイの顔を見る。


「そうです、かなり優秀な学生だと聞いています。今も王女様と別室で待ってもらっていますが」

「それならすぐに行かないといけないわね。噂は聞いてるし、是非会ってみたいと思ってたのよ。いいかしら?」


 マーガレットはそう言うと、止めようとしたバーブの言葉も聞かずに会議室を出て行ってしまった。


「まったく、あの技術馬鹿が」

「まあまあ、それがマーガレット部長の役目ですから」


 悪態をつくバーブをニッケルがたしなめ、手を叩いた。


「では、とりあえず現状の体勢を維持することにしましょうか。現在は団長も不在なわけですし、ここは我々の踏ん張りどころですな。アテリイ君にベネディック君、人手が足りなくて大変でしょうけど、しっかり頼みますよ」

「了解です」


 アテリイとベネディックは返事をすると、退室していった。そして部屋に残ったニッケルとバーブは顔を見合わせる。


「色々難しい状況ですな」


 ニッケルの一言にバーブは顔をしかめる。


「他人事ではないんですよ。我々は特に忙しくなる」

「ふむ、お互い頑張るしかありませんな」


 そして残った二人とその書記も会議室を出て行った。一方、マーガレットはキーツがいる部屋のドアをいきなり開けた。それからキーツの姿を認めると、大股で近づいて手を差し出した。


「あなたがキーツ君ね。私はパイロフィスト技術部長のマーガレット、よろしくね」


 キーツは少し戸惑いながらも差し出された手を握り返した。


「よろしくお願いします」

「あなたは優秀な学生さんだと聞いてるわ。何を研究してるのかしら?」

「魔道具の制御に関することです。効率性と細かい制御を考えているんですけど、なかなかうまくいきません」

「それは興味深いわね、途中でもいいから論文があれば見せてもらえるかしら」

「え、見てもらえるんですか?」

「もちろんよ。それじゃ明日にでも持ってきてくれる?」


 そこまで言って、やっとマーガレットはレミに気がついたような顔をした。


「あら、ごめんなさい王女様」

「かまわないわ。あなたが協力すればキーツの研究の足しにもなるでしょうからね」

「さすがね」


 マーガレットは笑みを浮かべた。


 一方、アテリイとベネディックは隊の事務室でそれぞれの席についていた。


「こちらも少し考えなおさないといけないな」

「確かにそうですね、我々だけでは人手が足りません。ニッケル部長も無理を言ってくれます」

「あの人のことだ、なにか考えがあるのだろう。とにかく、今は私達だけでなんとかするしかない」

「そうですね、私としてはむしろ謎の男のほうに人数を割くべきかとも思いますが」


 ベネディックの言葉にアテリイはうなずく。


「それは同感だ。あの周囲には何か、大きなことが起きそうな気がする」

「こちらは王国と連携しますから、私一人でも大丈夫です」

「そうか、頼んだぞ」

「はい、早速取りかかります」


 ベネディックは立ち上がり、部屋から出て行った。それを見送ったアテリイは机の上の魔道具を起動させた。


「ジョシン以外はすぐに本部に集合だ」

「了解」


 すぐに三つの返事があり、さらにジョシンからも返事があった。


「俺も行きますよ、休みと言ってもやることないんで」

「わかった、ミーティングだけだから出てきてくれ」


 それから通信を切ると、アテリイは立ち上がって窓の前に立った。


「…どうにも、ただじゃすまない気がするな」

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