力の使い方
アエチディードは何事もなかったかのように一人で家でくつろいでいたが、そこに訪れる者があった。
「あら、どうしたの」
ドアを開けた先にいるのはインゲルベガだった。
「悪魔と戦ったらしいな」
「ええ。それより中に入りなさい」
アエチディードはインゲルベガを中に迎え入れ、居間に案内して座らせると、お茶の用意を始めた。インゲルベガはテーブルに肘をついてその様子を眺める。
「まるで人間だな」
「そうかしら」
そう言いながらアエチディードはテーブルの上にお茶を二つ置き、その向かい側に座った。
「それで、何の用かしら」
「悪魔と接触してみた感想を聞きにきた」
「ああ、別に私はほとんど戦ってないわよ。ちょっとつかまりそうになったから、抵抗はしたけど」
「どうだったんだ」
「どうということもなかったわよ。戦ったわけでもないから」
そこでアエチディードはお茶を一口飲んだ。
「悪魔には力が通用したんだろう?」
「そうね、別のことをやってたからはっきりとはわからないけど、攻撃すれば通用したと思うわよ」
「それでもパイロフィストの連中は慎重なままか」
「そうらしいわね、今日も何か集まっているようだから、新しい話があるんじゃないかしら」
「ほう」
そう言ってからインゲルベガもお茶を手に取り、一気に飲み込んだ。
「人間が入れる茶と同じ味だな」
「慣れるとおいしいっていうこともわかってくるわね。ああ、そう言えば悪魔と接触した感想と言えばね」
そこでアエチディードはお茶を一口飲み、一つ息をついてから先を続ける。
「まあ、私をつかまえようとしたのはアロールフを乗っ取った奴じゃなかったから、片手間でも抵抗できたわよ」
「大量の巨大な岩を運ぶのは片手間とは言えないだろう。それで、本格的に人間と手を組むべきと思うか?」
「それもいいんじゃないかしら、強さは十分にあると思うわよ」
「そうか。エリオンダーラはどこにいるんだ」
「知らないわね。関わってる超能力者というのは色々活躍しているようだけど」
「ここの家の主はどうだ」
アエチディードはその主というのがすぐにはわからなかったようだが、数秒してそれがファマドのことだと気がついた。
「ああ、今はパイロフィストに行っているらしいわよ。以前からずっと協力しているらしいから、特に変わったことでもないわね」
「そうなのか」
そこで会話は途切れるが、両者の間には特に気まずい雰囲気が流れることもなく、そのまま時間は経過していった。
そうして数十分後、アエチディードがお茶を飲み干した頃、ドアが開いた。
「あれ、インゲルベガさんも来てたんですか」
入ってきたのはキーツと狼で、キーツは両手に袋を下げていた。
「あら、早かったのね」
「いえ、これからまたすぐに出るんですけど、せっかくだから買物も済ませてきたんです。でもお二人がいてくれてちょうどよかったです」
そう言いながらキーツは袋を台所に置いてくると、すぐに戻ってきた。
「私達に何か用があるのかしら?」
「はい、そうです。実験に協力してもらおうと思いまして」
「協力ね、別にいいわよ」
それからアエチディードがインゲルベガに視線を向けると、インゲルベガは軽くうなずく。
「二人でもいいの?」
「そうしてもらえると助かります。悪魔対策のために実用化を急がないといけないものがあるので。すぐに出られますか?」
「問題ないわよ」
それからアエチディードがお茶に使ったカップを片付けてから、三人と一匹は外に出た。
「お、二人もいたのか」
外で待っていたジョシンはそれだけ言うと、すぐに車に向かう。
「迎えまでいたのか」
「私達は重要な存在なのだということよ」
二人の魔族はそう言いながら車の後部座席に座り、キーツは狼と一緒に助手席に座った。
「言っておくけどな、俺はキーツの護衛だぞ」
それだけ言うとジョシンは車を発進させる。本部までの道中、特に会話らしい会話も何事も変わったこともなく、一行は無事に目的地に到着した。
そのまま訓練場に到着すると、アエチディードは巨大なタンクを見てから、それに手を触れてからキーツに視線を向ける。
「さて、これから何をすればいいのかしら?」
「まずはこれの説明からします。これは悪魔を封印するために特別に作ったタンクなんですが、これに閉じ込めるというのは簡単な話ではありません。そのためにはジョシンさんに力を貸してもらいます」
話を振られたジョシンはそこで緑色のタブレットを顔の横まで持ち上げる
。
「ま、俺がこれを使って悪魔と魔力を混ぜ合わせて、そこのタンクに封じ込めるように操作するわけだ。とりあえず他人の魔力を制御することはできるようになったから、今度は魔族で試してみようっていうことだ」
「アエチディードさん達は自分の分身を作り出せますよね。今回は訓練のためにそれを利用させて欲しいんです」
「そういうことなのね。私はかまわないけど」
そう言ったアエチディードは涼しい顔をしているインゲルベガと、それに複雑な表情を向けるクリストールを見る。
「あなた達は大丈夫?」
「平気だ。その人間はどうか知らないが」
「私も問題ありません」
クリストールの張り詰めた様子に、ジョシンはため息をついた。
「クリストール、お前の腕試しというか、再戦ならまた今度にしてくれよ」
「わかってます」
クリストールとインゲルベガが後ろに下がり、アエチディードは軽く手を叩く。すると、それと同じ姿がその隣に忽然と現れた。
「分身は動かしたほうがいいのかしら?」
「いえ、まだその段階ではないので、動かさないでください。ジョシンさん、大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかやってみる」
そう言ったジョシンは緑のタブレットを分身に向けて突き出した。
「いくぞ、封印端末起動」
その声と同時にタブレットが光り、その表面に模様が浮かび上がった。ジョシンはその模様を手で動かしていく。
「位置座標入力、固定」
すると、アエチディードの分身の足元に円状に光が発生する。
「空間座標入力、固定」
足元の光から柱が立ち上がり、分身の頭まで伸びた。
「プロテクション、モードジェイル!」
青い障壁が光の柱を包み込むように出現し、それは格子状になって光の柱を拘束する。
「魔力変換開始」
言葉と同時に光の柱を拘束した青い格子が緑に染まっていき、その色は光の柱をも染めていった。そこでキーツはタンク正面に埋め込まれた緑の板に手を置く。
「今です!」
「よし! 封印!」
ジョシンがタブレットを突き出すと、そこに光の柱が吸い寄せられるように伸びていく。その勢いは凄まじく、受け止めたジョシンは踏ん張るが、その体は後方に押されていく。
「分身でここまで力があるのかよ!」
それでもジョシンは踏ん張ろうとしたが、耐え切れずに後方に飛ばされてしまった。受け止められなかった光はそのまま訓練場の壁に突き刺さり、派手な爆発を起こす。
「ジョシンさん!」
キーツは慌てて倒れたジョシンに駆け寄り、助け起こした。
「大丈夫ですか?」
「ああ、でも力をコントロールしきれなかった」
「そのタブレットだけでは駄目みたいですね。まだまだ改良の余地は数え切れません」
キーツはため息をつき、地面に転がった緑のタブレットを拾い上げた。




