ひとまず危機が去って
アロンデーモンが巨大な岩を作り出したことによって、街はかなりの被害を受けていた。ストッフェルはアライアルを伴い、その破壊の傷跡が生々しい街の視察をしていた。
「被害は予想以上でしたが、死者がでなかったのは幸いでしたね。負傷者も私が対応できる範囲で助かりました」
「おいおい、じいさんができなかったら他に誰もできないだろ。それに、治療からろくに眠りもしないで視察なんて物好きだよな」
「私は戦闘では役に立ちませんからね、こうしたことで手を抜くわけにはいきません。悪魔への対処はどうでした?」
「とりあえずはなんとかなる。とは言っても、あの魔族の力を借りたわけだから、そうも言えないよな。でも、心配はいらない。これ以上の攻撃が来たって俺がなんとかしてやるよ」
ストッフェルはそれに微笑を浮かべる。
「期待していますよ。しかし、悪魔達を退けたという力はなんだったのでしょうね」
「そんなことができる奴は一人しか思いつかないな」
「アクシャという女性ですか。そうだとしたら、なぜ姿を現さないのでしょうか」
「俺はあんま知り合いってわけじゃないし、わからないな。昔からの知り合いならわかるんじゃないか」
「聖剣の継承者ですか。彼女とはゆっくり話したいところですが、なかなか時間が取れないのが残念です」
そう言ったストッフェルは立ち止まり、倒壊した建物を見上げる。
「とりあえず、今は街の復興が最重要ですね。国のほうとも力を合わせませんと」
一方その頃、パイロフィスト本部ではフォルブランとアテリイの小隊のメンバー、さらにレウスとトーラがブリーフィングルームに集まっていた。
「今回はなんとか悪魔を退けることができましたが、我々の力だけというわけにはいきませんでした。街への被害も出てしまったので、これは失敗と言えます」
フォルブランはそこまで言うと一度言葉を切り、アテリイに視線を向ける。それを受けたアテリイは口を開いた。
「確かにそうでした。私も悪魔を抑えることができませんでしたから、何か強力な手段が必要だと考えます。すぐにできることと言ったら、マジックカートリッジの出力を上げることでしょうか」
「戦闘の継続時間は短くなりますが、今回の戦闘を考えたら、短期決戦をしかけるべきですね。しかし、全員がそうするわけにもいきません。アテリイ、あなたの考えは?」
「とりあえず、私とベネディックだけにしておくべきです。ヤルメルとマルハスは援護を主体とすべきですし、ジョシンとクリストールはキーツ君の手伝いと護衛がありますから」
フォルブランはその発言を受け、その場の全員を見回すが、誰も異存はないらしいというのを読み取った。それから、トーラとレウスに優しげな視線を交互に向ける。
「最後になりましたが、トーラさんにレウスさん、あなた方はパイロフィストの所属でもないというのに、素晴らしい働きを示してくれています。待遇はもちろんですが、それ以外の面でもできるだけ報いることができるようにしますので、これからもよろしくお願いします」
「もちろん!」
トーラは胸を張って宣言し、レウスは静かにうなずいた。
「では、解散です。それぞれ自分の仕事に戻ってください」
その言葉で各自解散していくが、アテリイはその場に残り、しばらくするとファマドが入ってきた。
「ご無沙汰しています、ファマドさん」
「そうだねえ、久しぶり。君は相変わらずで安心したよ」
「はい。ファマドさんにお尋ねしたいことは沢山ありますが、まずは超能力者達を率いているエリオンダーラという魔族のことを教えてもらいたいのです」
「ああ、彼ね」
ファマドはそこで一度言葉を切ると、何かを思いだすような仕草をしてから口を開く。
「彼は君達の初代団長達と戦ったこともある魔族でね、敗北してから色々考えたらしくて、人間の新しい可能性をずっと探していたんだよ。でも彼は秘密主義でねえ、僕もあまり詳しいことは知らないな」
そこでアテリイが口をはさむ。
「しかしファマドさん、あなたなら推測はできているのではありませんか?」
「まあ、そうだね。あの超能力というのは特定の人間が持つ特別な力だ。でも、その力を持っている人間は極めて少ないから、何百年あってもたった三人しか実戦レベルには達していないわけだね。だけど、それだけに超能力にはまだ見ぬ可能性っていうものがある。悪魔にも知られていないはずだし、ひょっとすると…」
「悪魔に対する切札になるかもしれないということですか?」
フォルブランの返しに、ファマドは首を横に振る。
「そうかもしれないっていうだけだよ。可能性ならキーツ君が今やっている研究のほうがずっと大きいからね」
「それに、アクシャ殿かもしれない攻撃もありました」
ファマドとアテリイの言うことにフォルブランは腕を組んで、数秒間の間沈黙した。
「…キーツ君の研究が完成するのが最重要ですね。彼の仮説が正しければ悪魔を封印することができるわけですから。ただ、そのためには悪魔を確実に制圧しなくてはいけません。ファマドさん、そのために結界はないんですか?」
「いやあ、僕の知識ではあらかじめ使えるものはないかな、悪魔は基本的に実体もないしね。でも実体化した状態で、そこに拘束のための結界術を使えれば可能性はあると思うよ。もちろん、ずっと封じるようなものは無理だし、そのためには結界用の道具が必要になるだろうけど…」
「そういうことでしたら、ファマドさんにはその道具の用意をお願いします」
フォルブランがそう言うと、ファマドはため息をついた。
「直接的な戦闘に関わることじゃないしね、それならかまわないよ。ただ、戦闘中に結界を張るのは大変だよ」
「それは私が担当します。問題はありません」
ファマドは難しい顔をしていたが、フォルブランは自信や気負いは一切なく、ごく当たり前にそう告げていた。それを見たファマドは微笑を浮かべる。
「それなら、すぐに取りかかろうか。君に教えておけば、隊員達にもしっかり伝えられるだろうしね」
それからフォルブランはアテリイに顔を向けた。
「アテリイ、悪いが付き合ってもらいますよ」
「わかりました。そういうことでしたらすぐに始めましょう」
「あなたには出力を上げたマジックカートリッジに慣れるための訓練にもなるようにします。ベネディックと一緒にすぐにマーガレットのところに行ってファントムアーマーの調整をしてきてください」
「了解。ベネディックは参加しなくてもいいのですか?」
「交代でやってもらいます。きついでしょうが今はこらえてください」
「いえ、副団長ほどではありませんから」
アテリイはそう言うと早足で部屋から出て行った。それを見送ったファマドはフォルブランを横目で見ながら軽く息を吐き出す。
「全く、君達を見ていると退屈しない。こき使われるのも悪い気はしないよ」




