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異端の継承者  作者: bunz0u
第三章
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破壊

「この岩を街の外まで持って行けば終わりになるのかしら」


 アエチディードは気楽な調子でそう言いながら、巨大な岩を完璧に保持していた。移動は自分の前を飛ぶアテリイの肩に手を置いて引っ張らせている。


「少なくとも、目の前の危機は終わるな。もう少し急いでも平気か?」

「私は平気だけど、下の車はついてこられるのかしら」

「少し遅れても私がなんとかする」


 アテリイはそう言って、下のヤルメルに連絡を入れる。


「こちらは先行する。できるだけ急いでついてきてくれ」

「了解。できるだけ引き離されないようにします」


 短い通信を終えると、アテリイは肩越しにアエチディードの顔を見る。


「速度を上げるぞ。岩を落とさないように気をつけろ」

「駄目なら言うから、自由にやってくれていいわよ」

「よし、行くぞ」


 アテリイは速度を上げ、アエチディードも特に何も言わずにしっかりと岩を保持しながらそれに引っ張られていった。


 そうして二人がそろそろ街外れという地点まで到達すると、アエチディードがアテリイの肩を強く握った。


「何か来るわよ」

「わかってる、お前は退避しろ。三つ数えたら離れるぞ」

「そうね」

「…三、二、一」


 そこでアエチディードはアテリイの肩から手を離した。


「ゼロ」


 アエチディードは下降し、アテリイは体を上空に向けると、両手を上空に向けて突き出す。


「モードブリザード! サイクロン!」


 アテリイの両手から竜巻が発生し、それが空を切り裂いていく。だが、そこから逃れる影が見えると、アテリイはすぐにその魔法を中断して剣を抜く。


「モードライトニング! スラッシュ!」


 雷の刃が伸び、影を切り裂いた。それからアテリイは体勢を立て直し、油断なく剣を構える。


「姿を現せ!」


 そうしてアテリイは周囲を見回すが、その目は何もとらえらることはできない。その状況からアテリイはすぐにアエチディードのところに下降を始めるが、それより早くアエチディードの頭上に一つの影が現れた。


「伏せろ!」


 アテリイは叫ぶと同時に剣を影に向かって投げつける。その剣は影を貫くが、その影はかまわずアエチディードの背中には飛びつく。


「とらえたぞ」


 抑揚のない声が響き、ぼろぼろに腐っている様子の女の体がアエチディードにとりついていた。


「イエイズデーモン、だったかしら」


 アエチディードは地面に膝をつきながらも、余裕を失わない様子でつぶやく。


「そうだ、お前の体をもらう」


 そして、イエイズデーモンの体がムカデのようなものに変化し、アエチディードにまとわりついた。そのままさらに締め上げようとするが、その動きが止まる。


「この程度なら、止められるわね」


 アエチディードの体には薄い闇が張り付き、イエイズデーモンの締め付けを阻んでいた。そこにアテリイの手が伸び、イエイズデーモンの胴体をつかむ。


「手荒くなるぞ!」


 アテリイはアエチディードの体を蹴り、その勢いを利用してイエイズデーモンを引きはがし、空に向かって放り投げた。アテリイはそこに右の拳を向けようとするが、それよりも早くアロンデーモンが姿を現すと、イエイズデーモンを受け止めて地面に降り立っていた。


「ずいぶん醜い連中ね」


 アエチディードはその悪魔二体を見て嫌悪感を顔に出す。アテリイは地面に刺さった剣を抜くと、その前に立った。


「確かにそうだな。それより、余分な力を使って大丈夫なのか?」

「あの程度なら問題ないわよ。でも、ここで岩を落としてほしくないならこれ以上はやめてもらいたいけど」

「わかった、下がっていてくれ」


 そこにアロンデーモンがイエイズデーモンを投げつけてきた。アテリイはそれに正面から剣を叩きつけるが、ムカデのような体はそれをすり抜けてアエチディードに向かおうとする。


 だが、アテリイは剣を握っていない左手でその胴体をつかむと、剣を逆手に持ち替えて胴の半ばからそれを切断した。


 次の瞬間、アテリイに向かってアロンデーモンから鋭い岩の槍が放たれた。アテリイはそれを剣の腹で受けるが、耐え切れずに剣が折れてしまう。


「くっ!」


 アテリイは左手でつかんでいたイエイズデーモンをそこに叩きつけ、さらに右手を岩の槍の先端にあてる。


「バースト!」


 右手から爆発が起こって岩の槍の先端が砕け、さらにその勢いで軌道が斜め下にずれた。岩の槍は地面に突き立ち、イエイズデーモンもぼろぼろになって空中を漂う。


 しかし、そこにアロンデーモンが突進し、アテリイに向かって両手を突き出した。アテリイは折れた剣でそれを受けようとするが、アロンデーモンの手はそれを砕き、アテリイを殴り飛ばした。


 アテリイは障壁を展開はしたが、その衝撃で後方に吹き飛ばされて建物に突っ込んだ。アロンデーモンは勢いを殺さずにそのままアエチディードに向かおうとするが、そこに突風が襲いかかる。


「クソッタレ悪魔あ!」


 叫びと同時にその突風に乗って、トーラがアロンデーモンの上をとった。その振り上げられた聖剣は激しく渦巻く炎をまとっている。


「必殺! 精霊剣!」


 聖剣が振り下ろされ、アロンデーモンの体は一瞬で燃やし尽くされた。そしてトーラは空中を漂うイエイズデーモンを視界に捉える。


「そっちも逃がすか!」


 トーラはすぐに地面を蹴るが、その前に突然サイタスデーモンが現れる。


「邪魔!」


 聖剣の一振りでそれは砕けるが、その砕けた破片がそれぞれすぐに元の形になり、周囲を埋め尽くす。あまりの数にトーラの勢いは阻まれ、一度着地することになった。


「ったく、うじゃうじゃと!」


 そう吐き捨て、トーラは再び地面を蹴ろうとするが、それよりも早くその目の前にビジルデーモンが現れ、トーラに向けて炎を浴びせようとした。


「モードアイス!」


 そこにヤルメルの発動した氷の壁が立ち塞がり、ビジルデーモンの炎は遮られる。だが、そこに向けて無数のサイタスデーモンが降下して攻撃を加えてきた。その攻撃は炎と共に確実に氷の壁を削っていく。


「合図したらこの壁を解除して!」


 それでもトーラは慌てずに言うと、剣を下段後方に構える。


「わかった!」


 ヤルメルはそう答え、氷の壁に力を注いでなんとか持ちこたえさせる。そのわずかに稼いだ時間でトーラの剣に周囲の空気が凝縮していく。


「そこだ! ハアァァァッ!」


 合図によって氷の壁が崩れ、気合と共に剣が振り上げれられると、そこから発した烈風が炎ごとサイタスデーモンとビジルデーモンを上空に押し返した。


 次の瞬間、後方から飛来した何かが一体のサイタスデーモンを貫き、爆発させた。


「え?」


 トーラとヤルメルは同時に声を出した。そして、二人がその貫いた何かを確認するより早く、それはその場を縦横無尽に飛びまわり、次々にサイタスデーモンを爆発させていった。


「…これは、危険だ」


 ビジルデーモンはそうつぶやき、そこから離脱しようと動くが、その右足を何かが貫き、爆散させる。それでもビジルデーモンはなんとか上昇すると、その姿を空に消した。


 もちろん悪魔達を貫いていたもはそれでも止まらず、残ったサイタスデーモンとイエイズデーモンを消し去ると、いつの間にかそれらと同じようにその場から消えていた。


「あれは、一体…」


 トーラは呆気にとられていたが、それでも危機が去ったことだけはわかった。

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