防衛
空中に浮かぶ岩を一つでも下に落とさせるわけにはいかない。もしかするとアロンデーモンを倒せば、岩は崩壊して被害を防げる可能性もあるが、その確証はなく、空中に連れてこられ、足場を相手に制御されてる状態ではそれは難しい。そして、岩を破壊するにしても、アロンデーモンが全てを破壊するまで待つことは考えられない。
「とにかく少しでも数を減らすぞ! 隊長達もすぐに来る!」
レウスの思考はマルハスの言葉で遮られた。
「そうですね」
二人は動き出そうとしたが、そこで岩が一つ弾けとんだ。
「壊しがいがあるものがあるものが沢山あるな」
シガッドはそう言うと、アロンデーモンに視線を向ける。
「つまらないことをする奴がどんなものかと思えば、ネズミか」
その直後、アロンデーモンの上から何かが落ちてきたが、それは空振りに終わる。
「ちっ! 気づいてやがったか」
マグスが岩の一つに着地して悪態をついた。
「マグス、レギ、そんなネズミよりもお前達は岩を壊しやすいようにしろ」
「わかった。やるぞ、レギ」
「はいはい」
いつの間にかシガッドの下に来ていたレギがそう返事をすると、マグスが足元の岩に手を置く。
「いくぜ!」
声と同時に岩に無数の細かい穴が開いた。そこからマグスが離れると、すぐにシガッドがそこに拳を叩き込んで粉砕する。
「俺達もやるぞ!」
そう言ったマルハスは槍を岩に突き立てる。すると、岩に内部から亀裂が走り、そこから炎が噴出した。
「モードバースト! 弾けろ!」
そう叫んでから岩を蹴って離れて三秒後、それは内部から弾け飛んで粉々になった。マルハスは違う岩に着地すると、そこでも同じように槍を岩に突き立てる。
レウスはそれを見て、同じように自分の足元の岩に剣を突き刺すと、そこから岩の内部に向けて炎を放った。その炎は岩を内部から蒸発させていき、手ごたえを感じたレウスはある段階で一気に力を加える。爆発的な炎は岩の内部に充満し、レウスがその場を離れると同時にその全てを蒸発させた。
その光景を見ていたアロンデーモンは、軽く右手を動かす。
「…いくつか落としてみるか」
言葉と同時に、レウスの背後に浮いていた五つの岩が糸が切れたように落ち始めた。
「甘いな」
それに気がついたシガッドがすぐに移動し、右腕を振るうと岩の落下が止まった。そして、そこにマルハスとレウスが飛び移っていく。
「足りないか」
それとは離れた場所でやはり五つの岩が落下を始めた。今度はシガッドも間に合わず、岩は街に向かって落ちていく。
だが、次の瞬間にはその岩を下方から伸びた一条の雷が一気に撃ち抜き、粉々に粉砕していた。そして、その雷はさらに上空に上り、弾ける。
「重要な会議の途中だと言うのに、とんだ邪魔が入りましたね」
雷が弾けた場所に、全身に雷をまとわせたフォルブランが姿を現していた。
「副団長!」
マルハスは安心したような表情を浮かべ、フォルブランはそれを一瞥してから背中の大剣を抜いた。
「マルハス、あなた達は引き続き岩の破壊を。下にはアテリイとアライアルも待機していますから、落ちたものは無視してかまいません」
それからフォルブランは周囲を見回し、大剣を両手で構える。
「モード、アクセル!」
その一言と同時にフォルブランは雷となると一瞬で一番遠くの岩に到達し、それを一撃で粉々にした。さらにそこから五つの岩を連続で破壊する。
「さすが副団長。下には隊長たちもいるんなら、こりゃ楽勝かもな」
マルハスはそう言いながらも緊張は緩めずに自分でも岩を破壊していく。レウスやシガッド達も順調に岩を破壊していくが、その数が五十を越えたところでアロンデーモンが動いた。
「これ以上は無駄か」
残りの岩が一斉に降下を開始した。
「どうしますか副団長!」
「これだけの数を空中にあるうちに破壊するのは無理ですね。仕方ありませんが」
そこでフォルブランは通信を開いた。
「アテリイ、岩が落ち始めましたが、それは彼女に任せなさい。あなたはその護衛を。アライアルはそのまま待機です」
「了解しました」
アテリイからは短い返事だけが返ってきたが、フォルブランはどこか満足そうな様子で通信を切ると、マルハスとレウスに視線を向けた。
「降りますよ。そっちの三人も退避しなさい」
シガッド達にも一言告げると、すぐにフォルブランは下に向かって落下していった。それを見たシガッドはレギとマグスに手で合図を送り、二人は先に地面に降りていった。
「レウス、退くぞ」
マルハスはレウスのいる岩に飛び移り、その腕を取ると下に飛び降りた。そうしてその場にはアロンデーモンだけが残る。
「もう用はなくなったな」
そう言うと、アロンデーモンはその場から姿を消した。それと同時に岩の落下速度はさらに増していく。
その岩達が街まであと数十秒という距離に到達した瞬間、その岩全てを闇が包み込み、動きを止めさせた。
「思ったより少ないわね」
それをなした人物、魔族であるアエチディードは屋根の上に立ち、空を見回していた。
「とりあえず、これを街の外に持っていかないといけないわけね」
そう言いながらアエチディードは自分の体を宙に浮かす。だが、その背後に突然空間の歪みが発生した。
「やらせるか!」
だが、その歪みにはアテリイが拳を叩き込み、その中にいた者を空高く弾き飛ばした。アテリイはそのままアエチディードと背中合わせになるように動く。
「油断するな、お前達魔族は悪魔に狙われているんだ」
「アロールフのようなへまはしないつもりだけど」
「相手が相手だ、油断はするな。それで、あの岩を全部街の外に移動させられるのか?」
「邪魔が入らなければ大丈夫よ、でも早速来たようね」
アエチディードの言葉に反応するようにして、トーラが遭遇したサイタスデーモンの人形が五十体ほど姿を現していた。
「アライアル!」
「わかってるって! モードミラージュ!」
通信用の魔道具から声が響き、サイタスデーモンに応じるようにしてアライアルの分身が同じ数だけ出現していた。そしてその分身はサイタスデーモンを全て捕まえる。
「爆ぜろ! バースト!」
アライアルの言葉がその場に響くと同時に、その分身が一斉に爆発していた。それによって人形は全て砕け散った。
「よし! 早くそのでかぶつを外に運んでくれよ!」
「わかってるわよ、うるさい人間ね」
アエチディードは移動を開始し、アテリイもそれに寄り添うようにして動き出した。
「…魔族、あの体さえ手に入れば…」
はるか上空に浮かぶ影が、アエチディードの動きを舐めるようにして追っていた。




