対悪魔体勢
ストッフェルは本部に戻ってから、長いこと留守にしていた自分の部屋で、テリイとビジルデーモンの戦いの後始末の処理に追われていた。
「帰って早々こうした仕事が待っているとは思いませんでしたよ」
「申し訳ありません団長」
「いえ、いいんですよアテリイ。あなたの働きのおかげで物以外の被害はなかったわけですから」
そう言ってからストッフェルは立ち上がる。
「しかし、問題はこれからです。モードブレイブを使わなかったとは言え、相手を無力化できなかった。それについてはどう考えますか?」
「報告からすると、悪魔は明らかに成長しています。今回はあまり手の内を見せずにすみましたが、次はどうなるかわかりません」
「それほどだと考えますか。例の少年の作っているものと、技術部が開発しているものが完成しないと厄介なことになりそうですね」
「団長はまだキーツ君には?」
「会っていません。これが一段落したらじっくり話をしようと思っていますよ」
「では、楽しみのために余計なことは言わないようにしておきます。私は副団長が待っているのでこれで失礼します」
ストッフェルはそれにうなずき、アテリイは静かに部屋を出て行った。それを見送ったストッフェルは腕を腰の後ろで組んで一息つくと、机の上の魔道具を起動した。
「こちらはパイロフィスト団長のストッフェルです、聞こえますか?」
「はい、聞こえております」
「ご無沙汰ですね、デバルトさん。女王陛下は?」
「少々お待ちを」
「…団長、お久しぶりです」
数秒してからヤエの声が響いた。
「挨拶が送れて申し訳ありませんでした。昨日には到着していたのですが、色々立て込んでいたもので」
「それはお互い様ですね」
かすかな笑いのような気配がして、ヤエは先を続ける。
「この連絡は悪魔に関することですね」
「そうです。悪魔の力は未知数ですから、被害を減らすためにはしっかりと協力しあう必要があるでしょう」
「そうなのでしょうね。できるだけ早めに会議を開かないといけませんか」
「そちらの手配は任せてもよろしいでしょうか?」
「こうした時くらいは、王としての権威を使っても悪いことはないのでしょうね。明日にでもできるように手配しましょう」
「ありがとうございます。明日、お会いしましょう」
「ええ、楽しみにしています」
そこで通信は終わり、ストッフェルは少し室内を歩いてから仕方なく椅子に座り、目の前の仕事の仕上げにかかった。
一方、アテリイはブリーフィングルームに来ていた。そこにはフォルブランにアライアル、ベネディック、それからニッケルの姿があった。アテリイの到着にフォルブランが口を開く。
「アテリイ、現在の配置の状況はどうですか?」
「ヤルメルは聖剣の継承者の少女、トーラと、マルハスは魔剣使いのレウスと一緒に行動させています。ジョシンとクリストールは本日からキーツ君の実験に協力することになっています」
「聖剣の継承者と魔剣使いには近いうちに会わないといけませんね。それと、悪魔を封印するための装置は実戦投入はまだ先になるわけですか」
フォルブランはそこで言葉を切り、ホワイトボードに近寄り、そこに実働部隊の隊員の名前とトーラとレウスの名前を書き込んでいった。
「現在、我々の戦力はこれだけあるわけですね。通常よりは充実してますが、敵のことを考えると楽観はできません。何か意見はありますか?」
フォルブランの言葉に最初に反応したのはアライアルだった。
「とにかく、悪魔が出てきたら潰せば問題ないんだよな。この街にしか出てこないんなら、何も問題はないぜ」
「悪魔がこの王都に出現する理由がわかるまでは、断言することは難しいでしょう。何かその目的について考えは?」
フォルブランがその場の全員を見回すと、そこでニッケルが口を開く。
「報告によりますと、悪魔はこの世界で活動するための肉体を求めているようですね。特に魔族の体とは相性がいいようなので、それを追ってきたとも考えられます。それ以外にも、議場のような人の多い場所に現れてもいますね。動きが見られなかった空白の期間は、なにがあったのかは予想するほかありませんが」
「道に迷ってたとかな。それで人の匂いにつられたとかか? 何しろ悪魔が出てきたのは勇者の時代以来だろ」
ベネディックはアライアルの言葉に賛同する。
「アライアル隊長の言うことには一理あります。それに、ニッケル部長がおっしゃったように、自らと近い存在である魔族を目標にしているということであれば、行動の説明もつくと考えます」
「そうなりますと、空白の期間はこの王都を観察していたのかもしれませんね。それ以外ですと、活動するための肉体の確保といったことろでしょうか、これは行方不明者を調べると何か収穫があるかもしれません」
ニッケルの意見にフォルブランはうなずき、ホワイトボードにそのことを書き足した。
「ニッケル部長のことですから、ある程度は調べていますか?」
「バーブ部長に働いてもらいました。傭兵を中心として、最近の所在がつかめない者達です」
そう言ってニッケルは手に持っていたファイルを開き、三枚ほどにまとめられた紙をフォルブランに差し出す。
「…多いですね。全部でなくとも、確認されている悪魔が肉体を確保しているのは間違いないことですか。そうなると、議場に現れたのは、ただの示威行動とも考えられますか…」
それからフォルブランは紙をホワイトボードに貼り付けると、両手を腰の後ろで組んで背筋を伸ばす。
「とにかく、今は悪魔が現れたら即座に対応し、被害を出さないようにして撃退するしかありません。アテリイ、アライアル、あなた達二人はできるだけ切り札は使わないようにしてください」
「了解しました」
「はいはい、了解」
アテリイとアライアルの返事でその会議は終わり、全員がそれぞれの仕事に戻っていった。フォルブランはそこから訓練場に足を向ける。
訓練場では人が生活できそうなほどの巨大なタンクが置かれ、その前で何か話し合っているキーツとジョシンに、その横に立つクリストールの姿があった。
「これ、どうすればいいんだ?」
ジョシンはタブレット型の緑の板を手にとって首をひねっている。
「それはエレメントストーンを使った魔道具になっています。悪魔の力を記憶して、それに魔力を混ぜ合わせるのが目的ですね」
「魔力と悪魔の力を混ぜる? そうするとそのタンクに悪魔を封印できるのか?」
「少なくとも制御可能になると考えられます。とりあえずは魔力だけで成功させるところからですね」
「なるほど。初めてのことだし、うまくやれるかどうかな」
そう言うと、ジョシンはクリストールの肩を叩いた。
「とりあえず、お前の得意なあれを使ってみてくれ」
「わかりました。ストーンスキン」
クリストールは右手を突き出すと、そこに魔法を使って岩のガントレットを作り出した。
「原理としては、これを魔力に変換してそっちのタンクに収めるわけだよな」
「はい。実戦では相手の動きを止める必要があるので大変だとは思いますけど…」
「それは俺の得意なところだし、なんとかするさ。まずはこれに慣れなきゃな。あーっと、まずは対象の力をこの魔道具に流すんだよな…」
フォルブランはそこまでの光景を見ると、何も言わずにその場を後にした。




