衝突と探りあい
アテリイ達が議場内部に突入し、戦闘が開始されたのはわかったが、ベネディックは動かずに隊員達と連絡をとりあって様子を見ているだけだった。
「ベネディック副隊長、状況はどうなっているのか聞かせてもらえる?」
ベネディックが振り返ると、女王であるヤエは初老の侍従、デバルトだけを従えていた。
「現在隊長のアテリイが交戦中ですが、増援もこちらに向かっています。しかし陛下、あの建物はしばらくの間使い物にならなくなると思われます」
「それくらいは仕方がないのでしょうね。増援というのはあなた達の隊の誰が来るのですか?」
「隊員の一名と聖剣の継承者です」
「それは心強いことですね。余計な横槍が入らないように、私も注意しておきましょう」
「ご協力、感謝します」
ベネディックが頭を下げると同時に、議場付近から炎の渦が立ち上り、屋根を吹き飛ばしていた。
「陛下、新しく作り直すことを考えたほうが良いかもしれません」
「そうらしいですね。もう少し下がるのも必要でしょう」
そう言ってヤエはその場から去っていき、指示を出し始めた。
一方、戦闘継続中のアテリイとビジルデーモンは互いに動かず、相手の出方をうかがっていた。両者とも動きはしなくとも、いつでも攻撃を繰り出せるようにしているのは明らかで、エルシアはそれを静かに見守っている。
そして、最初に動いたのはアテリイだった。剣を両手で下段に構えると、姿勢を低くする。
「…モード、ブリザード」
ガントレットが光り、そこから剣に光りが集中していった。その光りは明らかに強力な力を持ち、今にもビジルデーモンに向かって放たれようとしている。
「かなりの力だな。この建物ごと破壊する気か」
その問いにアテリイはより一層の力を込める。
「この程度、安いものだ!」
アテリイは力強く踏み込みながら剣を振り上げた。
「ストーム!」
次の瞬間、剣の軌道から発生した吹雪がビジルデーモンに襲いかかっていた。ビジルデーモンはそれを避けようとせず、嵐に飲み込まれてしまう。
数十秒後、その吹雪が収まる頃には建物の壁も天井も吹き飛び、その場はちょっとした広場のようになっていた。
しかし、ビジルデーモンの姿は全く変わらずにその場にあった。
「かなりの威力だったな」
まるでダメージがないように見えるビジルデーモンだったが、アテリイはそれを予想していたのか動じた様子は見せない。
「さて、これで私はやりやすくなった」
その言葉の通り、周囲の壁や天井は跡形もなくなっていて、今までよりもはるかに動きやすい空間が出来上がっていた。
「いくぞ、モードライトニング!」
アテリイの右手に握った剣が雷をまとい、そのままそれをぶら下げたまま、無造作にビジルデーモンに向かって一歩踏み出す。ビジルデーモンはその様子に多少警戒感を覚えたのか、アテリイから目を離さず、その場から動こうとしない。
「どうした? 慎重だな」
そう言ったアテリイはさらにもう一歩踏み出し、剣を腰の高さまで持ち上げ、切っ先をビジルデーモンに向けた。
「これから私が使う技はそれなりの威力があるぞ。邪魔な壁や天井もないから、しっかりと届く」
「…なぜ教える」
「悪魔との戦いは始まったばかりだ。お前達のことを色々と知る必要がある。こうした駆け引きも含めてな」
そこからアテリイは一気に加速して間合いを詰め、剣を水平に振るった。ビジルデーモンはそれを垂直に跳んで避けると、手のひらを下に向け、アテリイに向かって炎を放射した。
「スラスト!」
そこでアテリイは防御の姿勢はとらず、剣をするどく振り上げた。その雷をまとった剣は振り上げられると同時に輝きを強くし、長大な雷の刃を形成する。
その一撃は炎を爆散させながらビジルデーモンに向かって伸びていき、その左肩を貫いた。ビジルデーモンはすぐに体をひねって雷の刃から逃れるが、その代償に左肩は大きく抉られる。
そして、ビジルデーモンが体勢を立て直す前に、アテリイは剣を地面に突き立てて左の拳を握り、そこに炎をまとわせた。
「モードメテオ!」
アテリイは左手をビジルデーモンに向けて突き出し、肘のあたりに右手をそえた。その左の拳は炎だけでなく、岩までもまとっている。
「キャノン!」
声と同時にアテリイの左手から燃え盛る岩が放たれた。その岩はすぐに人間の胴ほどのサイズに膨れ上がり、さらに加速をしてビジルデーモンに命中すると派手に爆発した。
それから爆煙が広がり、岩の破片が落ちる音だけが響いていたが、その煙の中から左腕が完全に消し飛び、左足も腰のあたりから無くなっていたビジルデーモンが姿を現す。
「この体がここまで壊れるか」
口を開くと、体のぼろぼろさとは正反対の平静な声が響いた。
「今の攻撃でまだそんな口がきけるか」
予想の範疇だったのか、アテリイも口調は落ち着いていた。それから地面に突き立てておいた剣を引き抜いた。
「退くか、それともまだやるか。お前に決めさせてやろう」
「ほう。ならば、今は退こう。この体の耐久度もしっかり確かめることができた」
そう言うと、ビジルデーモンは高度を上げていく。そこでアテリイはおもむろに口を開いた。
「お前と一緒に消えた人間を覚えているな? 彼女はどうした」
その言葉にビジルデーモンは動きを止めた。
「…あれか。どこかに消えた」
それだけ言うとそのまま上昇していき、空に消えていった。アテリイはそれを確認すると、剣を鞘に収め、一息つく。そこにエルシアが駆け寄ってきた。
「アテリイ様、お怪我は」
「ああ、心配はいらない。しかし、派手にやってしまったな。これは団長が帰って早々、迷惑をかけることになりそうだ」
「いえ、犠牲者は出なかったのですから、そのようなことは」
「そうだな。とりあえず戻るとしよう」
「はい」
二人はその場を離れると、ベネディックやヤエが待っている場所に戻った。
「ベネディック、異常はなかったか?」
「ヤルメル達が悪魔に遭遇したようですが、被害はなく撃退できたとのことです。それ以外はおかしな動きはありませんでした」
「そうか、それより」
アテリイはすでに建物としての用を成さなくなっている背後の状況を親指で指した。
「悪いがここの後始末を頼む。私は補給もある」
「わかりました。ここは私が担当しますので、隊長は本部で団長に報告をお願いします」
「ああ、頼んだ」
そこでちょうどヤルメルの車が到着し、トーラが外に飛び出してくる。だが、あきらかに事が終わった様子を見て地団駄を踏んだ。
「ったく! あの悪魔のせいで間に合わなかったじゃないの!」




