新装備のお試し
トーラはパイロフィスト本部でマーガレットにつかまっていた。
「トーラちゃん、ちょうどよかったわ。あなた用の装備がやっと出来上がったのよ」
そう言ったマーガレットはトーラの腕をとると、返事を待たずに歩き出した。
「いや、装備とか別に」
「駄目よ、敵が敵なんだから万全の装備を整えないと」
マーガレットはそう言ってトーラを自分の研究室に引っ張っていくと、勢いよくドアを開けて中に足を踏み入れた。
「さあ、これがあなたのものよ!」
マーガレットが指差す先には、パイロフィストのファントムアーマーに似ているが、上下にセパレートになっていて体を覆う面積も少ない、より軽そうな鎧があった。
「材質は基本的にパイロフィストで採用してるファントムアーマーと同じだけど、強度は上げてあって、動きやすさと軽さを重視してる設計ね。でも、一番の特徴はこの新開発の装備!」
そう言ってマーガレットは手の平サイズの板状のものを手に取った。
「これはキーツ君のエレメントストーンの研究から派生したものなのだけど、魔法の合成発動を可能にしたものなの。高度なことはできないけど、今までの魔道具はここまで自動化はできなかったから、これはかなり革新的なのよ!」
一気にまくし立てたマーガレットにトーラは少し引いていた。
「えっと、あたしに使えるってこと?」
「そうよ! これはエレメントタブレットっていうんだけど、腕に装備して使うのよ。一見普通の板だけどこの鎧に装着すると…」
マーガレットがエレメントタブレットを鎧の腕の部分に装着し、なにやらいじくるとその表面にいくつかのボタンのような模様が五つ浮かび上がった。
「こうして五種類の魔法の発動が触るだけで出来るの。全部障壁系で、実際の盾をイメージした効果範囲で使いやすいのよ」
そう言うとマーガレットは手を叩く。
「じゃあ、早速着けてみましょうか。こっちこっち」
マーガレットは装備一式を持って研究室を出て行ってしまった。トーラは仕方なくその後を追って訓練場に入ると、すぐにその装備を着けさせられた。
「どう?」
「まあ、変な感じはしないし、軽くて動きやすいと思うけど」
トーラは左腕の内側に装着されたエレメントタブレットを覗き込んだ。
「これはどうやって使うの?」
「それなら、まずは真ん中に触れてみてちょうだい。腕は盾を構える感じでね」
「…真ん中ね」
トーラが左腕を持ち上げ、エレメントタブレットの一番左側に表示された盾のような模様を押した。すると、持ち上げた腕、エレメントタブレットの装着位置を中心として、腕の前面に盾状の魔法の障壁が展開された。
「へえ」
感心したような声を出し、トーラが左腕を動かしてみると、障壁もしっかりとその動きに追随する。
「それじゃ、他の機能を説明するわね。真ん中の左右に二つずつ模様が並んでいるけど、まず左側の二つは上下で魔法障壁に火と氷を付加したもの、右側は雷と、それから多重展開ね。あと、止めるのは、同じところに触れればできるわ」
「ふうん、確かにそういう感じの模様になってるのね。それじゃ」
トーラはまずは左側上段の火の模様に触れた。直後、盾状の障壁の正面、中心から炎が発生して盾の前面を覆った。
「そうすれば一応攻撃にも使えるわよ。基本はもちろん防御の効率を上げるものだけどね」
「じゃあ、多重展開っていうのはなに?」
「それは前方広範囲に三重の障壁を展開するの。魔力の消費は激しいけど、かなりの防御力よ。あと、それだけは発動したら位置が固定だから注意してね」
マーガレットの説明にうなずきながら、トーラは一通りエレメントタブレットの機能を試し、それに納得したようだった。
「気に入った?」
「まあ、これなら使ってもいいけどね」
トーラの満更でもない様子にマーガレットも満足そうだった。それから二人が訓練場を出ようとすると、そこにアライアルが入ってきて、トーラの装備を見て口を開く。
「作ってたやつが出来上がってたのか」
「あら、アライアル。仕事は?」
「休憩だからちょっと体を動かそうと思ったんだよ」
「それならちょうどいいわ、トーラちゃんの新装備の実験台になってちょうだい」
「…わかった。それで、どうすればいいんだよ」
マーガレットはそこでトーラに耳打ちをして、トーラがうなずくと満面の笑顔をアライアルに向ける。
「とりあえず加減して魔法を単発で使ってくれるかしら。そこからは様子を見ながらペースを上げていってもらえるといいわね」
「わかった」
トーラとアライアルは訓練場の中心に歩き、十歩ほどの距離で対峙した。
「いくぞ」
アライアルは一声かけてから、わかりやすいように右手を顔の高さまで持ち上げて、拳サイズの火の玉を作り出した。それはゆっくりとした速度で放たれ、トーラは落ち着いた様子でエレメントタブレットに触れた。
そして、トーラの左手からは炎の盾が発生し、小さな火の玉をその炎に取り込んでいた。
「なるほど、魔道具だけでここまでできるのか。じゃあ、速度上げていくぞ!」
それからアライアルは氷、雷、火の三種類の魔法を混ぜて放ち始めた。その速度は徐々に上がっていくが、トーラもエレメントタブレットの操作に慣れていき、聖剣を抜くことなくそのペースについていっている。
それを三分ほど続けてから、アライアルは一度魔法を放つのを止め、トーラも障壁の発生を止めた。
「実験はもう終わりでいいだろ?」
「そう? トーラちゃんはこれでいいの?」
マーガレットの問いに、トーラは首を横に振った。
「もうちょっとやってみたいから、一本だけ相手してよ」
アライアルはそれに両手のガントレットを打ち合わせた。
「ちょうどいい、俺もそれくらいやりたかったんだ」
「しょうがないわね、二人とも怪我はしないようにするのよ」
マーガレットがそう言って手を叩くと、トーラは腰の剣に右手をかけ、アライアルは姿勢を低くした。次の瞬間、アライアルが床を蹴って突進したが、トーラはそれを横にステップしていなしながら、剣を抜いた。
アライアルは振り向きながら氷の礫を放つが、トーラはそれに対して魔法の障壁を発生させて弾いてみせる。アライアルは立て続けに同じ魔法を放つが、トーラは盾を展開したまま床を蹴ってアライアルとの距離を詰めた。
「モードミラージュ!」
アライアルの体が光り、それが収まると五人に分身していた。トーラはそれを気にせず一番近くの一人を切りつけるが、それは手ごたえなく霧散してしまう。
だが、トーラは動きを止めずにさらにもう一人のアライアルを切り捨てた。
「軽くって言っただろ!」
トーラの動きの切れに三人のアライアルは非難の声を上げながら、上に飛んだ。そして、そこから火の玉、氷の礫、雷の塊を三人で作り出し、一斉にトーラに向けて放る。トーラは動じずに、左腕を上に向けてからエレメントタブレットを作動させた。
魔法の余波でトーラの姿が見えなくなり、三人のアライアルは床に下りるが、その一人の正面にトーラが突進して剣を突きつけていた。
「参った」
アライアルは両手を挙げ、二体の分身を消す。トーラも剣を鞘に収めると、背を向けて、まだ発動中の多重展開した障壁の下を通ってマーガレットのほうに近づいていった。
「トーラちゃんは飲み込みが早いわね。もう使いこなしてるじゃない」
「まあね。これくらい軽いから」
「それより、なんで俺のミラージュの本体がわかるんだよ」
後れてきたアライアルの問いには、トーラは首を横に振った。
「なんとなく。そんだけ」




