そしてノーデルシア王国へ
悪魔との戦いから三日、クラール達は後始末に大忙し、一方キーツ達はノーデルシア王国に戻るための準備をしていた。そんな中で、アライアルだけはふらふらしながらその両方の様子を見ていた。
「アライアル、お前はこれからどうするつもりだ?」
そうしてふらふらしているアライアルは食堂に来たところでクラールにつかまっていた。
「ああ、おっさんか…」
「どうした、お前らしくもない!」
クラールは気合が抜けた様子のアライアルの背中を強く叩き、笑顔を見せる。
「そりゃ、あれだけのものを見せられたらな。あっという間に二体の悪魔を倒して、一番手強そうなのと一緒に消えた。消えなかった二体も戦いが終わったら抜け殻、俺としたことが完全にあの戦いにはおいていかれたんだ」
「わしもその戦いを見たかったものだな」
「直接見てないからそんな調子でいられるんだ。勇者っていうのは、あのアクシャっていう奴みたいなのだったんだろうなと思ったくらいだぜ」
「なるほど、それでお前はそのアクシャ殿が気にかけていたキーツ君のことが気になっているのだな!」
クラールはまた背中を叩こうとしたが、アライアルはそれを軽くかわす。
「見た目は普通だよな」
「だが、あの少年は頭がいいぞ。マーガレットがすぐに欲しいというくらいだ!」
「あのおばさんがね…」
「そろそろお前も決断したらどうだ? 団長とアテリイにはわしから言っておくぞ」
アライアルはそれに返事をせずに、お茶の入ったカップを手に取った。
「俺にあいつらについていけっていうのか?」
「そうだ。久しぶりにアテリイに会うのもいいだろう」
お茶を一口飲んでから、アライアルは自分の首筋を叩いた。
「仕方ない、ここはおっさんの言うとおりにしとくぜ。気は進まないけどな」
アライアルはそれからお茶を一気に飲み干し、カップをクラールに投げた。クラールはそれを受け取ると満面の笑みを浮かべる。
「そうか! まあ、お前は自由に動いたほうがいいだろうからな!」
「それより、悪魔に取り付かれてた奴の身元はわかったのか?」
「それなら一応はわかった。女のほうはそれなりに名の売れた傭兵だったようだ。だが、悪魔につながるようなことは見つかっていない。生きてればもっと色々わかっただろうがな」
「まあ、どうせ大したことはわからなかったろうよ」
アライアルはクラールの肩を叩くと、背を向けて食堂から立ち去った。
「アナスタさん、本当にお世話になりました」
「残念だけど、マーガレット部長のところに行くなら問題ない」
キーツの別れの挨拶にもアナスタはいつもの調子を崩していなかった。
「はい、悪魔に対抗するための魔道具のための研究をしたいと思います」
「君ならできると思う。頑張って」
アナスタは手を差し出し、キーツはそれを握り返した。
「ありがとうございます」
そしてキーツは資料を詰めたカバンを手に取ると、試験室を出ようとした
が、そこにアライアルが姿を現す。
「ここにいたのか、少し話がある」
「はい、なんでしょうか」
「俺もお前達に同行することにした。道中、色々話を聞かせてくれ」
「わかりました」
「ああ、頼む。それと、よろしくな」
それだけ言うとアライアルはすぐにその場から去って行った。それを見送ったアナスタは軽く肩をすくめる。
「あれは演技、自分のことを知らない君に格好良く見せようとしてるだけ。実際はお調子者だから緊張する必要はない」
キーツは多少反応に困ったが、とりあえずうなずいて試験室から出て行った。
次にアライアルが訪れた場所は、訓練場だった。そこでは、レウスがシガッドと素手で組手をしていた。トーラはそれを壁に寄りかかって見ていて、アライアルに気がつくが、すぐに目をそらした。
レウスとシガッドもアライアルに気がつき、一度動きを止める。
「出発も近いのに頑張るな」
アライアルがそう言うと、レウスとシガッドは積まれたタオルをそれぞれ手に取ってから、それに顔を向けた。
「悪魔を相手にするにはまだ足りない」
シガッドはそう言い、レウスもうなずいた。
「真面目だな、それで三人で訓練をしていたわけか」
「別に、あたしは見てただけ」
トーラはそう言ってアライアルに近づくと、その目を見る。
「でも、あんたの相手ならしてあげてもいいけど、どうする?」
「いや、俺はお前達に同行することにしたから、その挨拶に来ただけだ」
「同行? ふうん、アクシャと比べると頼りないけど、いないよりましかもね」
あからさまに挑発的な発言をするトーラに、アライアルは苦笑いを浮かべた。
「そう突っかからないでくれ、これから一緒に本部まで行くんだから」
「別に、あんたがアクシャよりも弱いのは間違いないし、あたしが面倒みなきゃいけないなと思ってるだけ。どれくらい手がかかるか確かめたかったけど、まあ、別にいいや」
トーラはアライアルに興味を失った様子で、さっさと訓練場から出て行ってしまった。アライアルはそれを黙って見送ったが、そこにレウスが声をかける。
「せっかくだから、俺の相手をしてくれないか」
「わかった、ちょっと体を動かさせてもらうとしよう」
アライアルはレウスの申し出にうなずいたが、そこでシガッドが不思議そうな表情を浮かべた。
「お前達は知り合いらしいが、いつ知り合ったんだ?」
「アライアルさんは俺が修行していた場所の近くの村に住んでいたんですよ、たまに一緒に剣を振り回してました」
「そうか、それなら久しぶりに遊ぶといい」
シガッドはレウスの背を軽く叩き、アライアルもそれを見て訓練場の中心に歩き出した。
そして翌日の早朝、アクシャが抜け、アライアルが加わった一行は街の外れで大型の車両に荷物を積み込んでいた。
「荷物が多いな」
アライアルは車両に大きなケースを積み込むキーツに声をかける。
「はい、実験のデータや試料もありますし、アナスタさんに譲っていただいた器具なんかもありますから」
「そうかって、おっと」
アライアルの足の間をすり抜け、狼が車に乗り込んでいった。
「ほら、さっさと出発するわよ」
トーラも車に乗り込むと出発の催促をし、それからしばらくして一行は出発した。
その光景を上空から見ていたアエチディードとインゲルベガは二人とも腕を組んでいた。
「戦いには手を貸したようだが、それからは何もしてないな。これからどうする」
インゲルベガが聞くと、アエチディードは首をかしげるだけで何も答えない。だが、そこにもう一つの人影、エリオンダーラが現れた。
「あの者達と同じ目的地にお前達が会っておくべき者がいる」
「それは誰かしら?」
「古い魔族だ。会えばお前達が知りたいことがわかるだろう」
「それがあの王都にいるのか」
インゲルベガの問いにエリオンダーラはうなずいた。
「それなら、早く会いに行くのがいいわね」
そう言ったアエチディードはすぐに移動を開始し、残る二人もそれに続いた。




