悪魔の脅威
「まさかここまでとは…」
レウスが攻撃、エトラが守りという形でビジルデーモンと戦っていたが、エトラはすでにかなり消耗し、その横では剣を構えるレウスも傷ついている。
「再生能力もかなり上がってます、深い傷でも一瞬で再生してますね」
ビジルデーモンはその二人を見下ろしていたが、そこから攻撃は加えず、ゆっくりと地面に降り立った。
「お前達のおかげでこの体にも慣れてきた」
そして、左右の手に氷と炎をまとわせる。レウスは剣を正面中段に構えると、半歩左に動き、エトラに視線で合図をした。エトラはうなずくと、右に一歩踏み出し、剣を下段に構える。
「モードアイス!」
剣が振り上げられると、その軌道から氷の刃がビジルデーモンに向かって飛んだ。ビジルデーモンは一歩も動かずに、左手の氷でそれを打ち砕いた。
レウスは地面を蹴り、そのままビジルデーモンの右手に回り込むように走りこむ。だが、ビジルデーモンはそれには反応せず、エトラから続けて放たれる氷の刃を左手だけで防ぎ続けている。
そしてレウスがちょうどその斜め後方に到達した瞬間、炎をまとった右手が後方に振るわれた。炎は空中を高速で真っ直ぐ進み、レウスを貫こうとする。
「っ!」
レウスは急制動をかけると同時に、剣を斜めに振り上げた。青い刃が赤い炎を切り裂き、その先端を霧散させた。それでも炎は伸びてくるが、そのままレウスは前に走り、炎を切り散らしながら進んでいく。
「ここだ!」
エトラは振り上げていた剣を地面に突き立てると、手のひらを胸の前で打ち合わせた。
「ジャベリン!」
エトラの周囲に十本の氷の槍が形成され、それが連続でビジルデーモンに向かって撃ち出された。最初の一本は氷の刃と同じように打ち砕かれたが、その衝撃はビジルデーモンの腕をわずかに弾いた。
そうして残りの八本が次々と飛来し、ビジルデーモンの腕が完全に弾かれると、最後の一本がその胴体に突き刺さった。衝撃で体が後方に流れると、そこにレウスが走りこむ。
魔剣は青い炎をまとい、ビジルデーモンの胴を薙ぎ払うようにして振るわれた。その一撃はビジルデーモンを真っ二つに切り裂き、その傷口から青い炎が広がって両方の半身を焼き尽くそうとする。
しかし、一瞬で炎が吹き飛ぶと、次の瞬間には両方の半身は足りない部分を再生していた。
「分裂!?」
エトラは驚きながらも剣を手に取り、攻撃を続行しようとしたが、それよりも早く片方のビジルデーモンが再生分裂した体を空に向かって放り投げた。
それが頂点に達した瞬間、背後の空間が歪むと、その体は空中にとどまったまま、激しくバラバラに手足を動かし始めた。
レウスとエトラはそれに危険を感じるが、二人が動く前にビジルデーモンは地面を右足で踏みつけ、そこから炎が広がる。
レウスは素早く下がってそこから逃れたが、その直後、広がった炎がビジルデーモンを中心として火柱を形成し、空中の分裂した体も隠されてしまった。
「なんだ?」
大きく跳躍しながら移動するアライアルは、目指す場所に立つ火柱に何とも言えない嫌な予感を覚えた。それを首を振って振り払うと、下を見て次の着地点を探そうとする。そこで、最高速度で走るパイロフィストの車両が目に入った。
「目的地は同じか、まあ俺が先行だ」
アライアルはそれだけつぶやくと、合流は考えずに火柱の元に急ぐことにした。
そして、アライアルが目にした車両の中でも火柱は見えていて、トーラがハンドルを握るアナスタの座席の背を叩いていた。
「あれ、急がないとまずいんじゃないの!?」
隣に狼と一緒に座るキーツはとりあえずその手をつかんで止めた。
「トーラさん、落ち着いてください。レウスさん達ならきっと大丈夫ですよ」
「そう、もうすぐだから」
そこまで言うとアナスタは上空に何か見つけたようだった。
「それに、先に到着する隊員がいるみたい」
アナスタはとにかく急ぐために車の速度を維持した。
その頃、レウスとエトラの目の前の火柱は徐々に細くなり始めていた。とりあえず合流した二人は、並んでそれを見上げながらも警戒は怠っていない。
「これはなんでしょうか? 気配も消えています」
「わかりません。でも、逃げたわけではないと思いますよ」
「そうですね、応援が間に合ってくれればいいのですが…」
エトラの言葉に、レウスは空を見上げ、それから振り返った。
「どうやら来たみたいですよ」
エトラもつられて振り向くと、空から人間が落ちてくるのが見えた。
それはすぐに二人の近くに着地すると、火柱を見ながら早足で近づいてくる。
「状況は?」
その問いにエトラは火柱を見上げて答える。
「魔族と同化した悪魔と戦闘になりました。ダメージを与えたと思われますが、そこで分裂してから火柱を発生させて動きがありません」
「そうか」
うなずいたアライアルは火柱からレウスに視線を移すと、その顔をじっと見た。そして何かを思い出したような表情を互いに浮かべたが、そこで火柱が揺らめく。アライアルを中心として三人はすぐに散開した。
「さあ、何が出てくる…」
アライアルは何が起こってもいいように覚悟を決め、消えていく火柱を見つめる。そして、火柱が消えると、地面に立つビジルデーモンの姿があった。
「あいつは?」
「ビジルデーモンです」
「もう一体はどこだ」
「ここだ」
エトラの返事よりも早く声が響く。そして、ビジルデーモンと同じ姿形だったが、全身に灰色の毛を生やしているのが違った。その気配にアライアルは舌打ちをする。
「アロンデーモン、あれでも大したダメージは無しかよ」
「いいや、あれは効果があった。だから、お前はここで消しておこう」
「言ってくれるな。下は頼むぞ、エトラ、レウス!」
「はい!」
エトラは淀みのない返事をし、レウスは自分の名が呼ばれたことに少し驚いたようだが、ビジルデーモンに向かって剣を構えた。
そして、そこから少し離れた場所に車両が急停止し、すぐにトーラとキーツに狼が外に出てくる。
「ここにいて!」
二人と一匹を置いて、トーラは聖剣を抜いてすぐに走り始めた。狼も走り出そうとしたが、キーツはその首に腕をまわして動きを止める。
「落ち着いて、今はまだ駄目だよ」
その言葉に狼は落ち着きを取り戻し、後ろに下がってキーツの腕から頭を抜いた。アナスタはその横に立って、腕を組み空を見上げた。
「あれ? 何か空から…」
キーツも釣られて空を見上げると、二人の人間が組み合ったまま落ちてくるのが見えた。それはそのままキーツ達のすぐ近くに墜落する。
「シガッドさん!?」
キーツは障壁で飛んでくる瓦礫を防ぎ、その落ちてきた二人のうちの一人がシガッドであるのを確認した。もう一人の女はすぐにその場から飛び退く。
少し遅れて立ち上がったシガッドは、周囲の状況を確認してからキーツに目を向けた。
「悪魔が三体ということでいいのか?」
「はい、そうです」
「そうか」
シガッドはそれだけ言って、自分の相手であるイエイズデーモンに視線を向けた。そのイエイズデーモンは二体の悪魔を見てから、シガッドに向き合う。
「終わらせる」
それに対し、シガッドは無言で右手を前に突き出した。




