パイロフィスト遊撃隊長
街を目の前にして、両手にごついガントレットを装着し、赤いファントムアーマーをまとった若い男、パイロフィスト遊撃隊長であるアライアルは馬から降り、その首筋を軽く叩いた。
「よく頑張ったな、この辺りで待ってろ」
それから空を見上げると、煙が上がっているのを確認した。それ以外にも妙な気配を感じたが、まずは煙の場所を見据える。
「おっさんは派手にやってるな。じゃあ、急ぐとするか」
アライアルは姿勢を低くすると、足元の爆発と同時に一気に空に向かって飛び出していった。そして、上空から目的地の目星をつけると、今度は空中で手と足から爆発を起こし、軌道を修正する。
「さあ、始めるか!」
アライアルは両手のガントレットを打ち合わせると、そのまま煙が立ち昇っている場所に向けて降下していった。
そして、クラールとハイガルの姿を認めると、もう一度爆発を起こして軌道修正をしながら加速し、それに対する悪魔に向かって降下する。
「砕けろ!」
右のガントレットがアロンデーモンの脳天を打ち砕き、そのままその体を地面が陥没する勢いで叩きつけた。アライアルはそこからすぐに後方に跳び、クラール達の前に立つ。そのまま振り返らずに、右手首を軽く振った。
「おっさん、苦戦してるな」
「アライアル! 早かったな!」
「そりゃ、飛ばしてきたからな」
そう言っている間に、陥没した場所から頭の形が変形したアロンデーモンが立ち上がった。その頭は見る間に直っていく。それを見てアライアルは首を軽く回した。
「おっさん達はそこら辺の連中を守ってやりな。こいつの相手は俺一人でやる」
それにハイガルが何か言おうとしたが、クラールがそれを手を上げて遮った。
「お前に任せよう。だが、悪魔の出現はここだけではない。出し惜しみはいかんぞ!」
「わかったよ!」
アライアルは地面を蹴ると、アロンデーモンの顔面をもう一度殴りつけようとした。だが、アロンデーモンは上空に勢いよく飛び上がってそれをかわす。アライアルはそれを追わず、上空で静止したアロンデーモンに向かって右手を突き出し、手のひらを上に向けると手招きをした。
「今度は俺が受けてやるよ、それとも最初ので怖気ついたか?」
「それほどの力があるのか」
会話とは言えない言葉のやりとりから、アロンデーモンが一瞬で自らの周囲に、頭ほどのサイズの火の玉を少なくとも百個は生み出した。その全てがアライアルに向かって撃ち出される。
それはアライアルに収束し、派手な爆発でその姿を一瞬で飲み込んだ。
「おいおい、どこを狙ってるんだよ」
声はアロンデーモンの背後から響いた。もちろん振り向こうとしたが、それより早く、上からも声が響く。
「どうした? とろい動きだな」
そこでアロンデーモンは自分の周囲に無数の気配が現れたのに気がついた。素早く見回すと、周囲のあらゆる場所に存在するアライアルの姿が目に入る。全部で三十人はいるアライアルは一斉に首筋を右手で撫でた。
「さて、お前には選択肢がある。無駄に俺を攻撃してみるか、それともおとなしく俺の攻撃を受けてみるかだ。まあ、どっちにしろお前は終わりだけどな」
そして、無数のアライアルが一斉に動き出した。アロンデーモンはその一つを火の玉で迎撃したが、それはその体を突き抜け、アロンデーモンの近くまで到達すると、そこで爆発をする。
「残念、はずれだ」
アライアル達は笑うが、爆発を振り払ったアロンデーモンは、周囲のアライアル全てに火の玉を放つ。その狙いは正確で、アライアル達は全て爆発に巻き込まれた。
「学習能力のない奴だな」
だが、爆発が収まると、今度は一瞬で五十人のアライアルがアロンデーモンを包囲するように出現していた。
障壁を張って周囲への被害を抑えていたハイガルは、その光景に思わず息を呑んだ。
「これがあの人の力ですか…」
クラールはそれに深くうなずく。
「わしの見たところ、あの男はパイロフィストで一番最強に近いな。それに、以前よりも腕を上げている」
「それなら、すぐに終わりそうですね」
「ここだけならばな」
クラールはそう言うと、戦いの余波を抑えるべくハイガルと共に配置についた。それを横目で確認したアライアルのうちの一人はにやりと笑う。
「さて、遊びは終わりにするか。モードミラージュ! 全開だ!」
そして、五十人のアライアルはさらに倍増すると、一斉にアロンデーモンに向かった。
アロンデーモンは近づいてくるアライアルを迎え撃つが、アライアル達はその攻撃を互いを盾にしたりしながら、巧みに距離を詰め、そのうちの一人がアロンデーモンに組み付いた。
瞬間、その体が爆発し、アロンデーモンにダメージを与える。そうしてできた隙に、全方位から二十人のアライアルが一気に飛びかかる。そのうちの何人かは撃ち落されるが、半数はアロンデーモンに到達して爆発を起こした。
その状態でアライアルの大群はまだ半分残っていて、アロンデーモンはすでにぼろぼろだった。
「休みはないぞ」
そう言ったアライアル達が一斉に右手をアロンデーモンに向けると、そこに雷が発生する。
「ライトニング!」
全方位から放たれた雷がアロンデーモンに直撃した。それは直前に展開された赤い壁によって防がれたが、負荷に耐え切れなかったのか、それはすぐに崩壊する。
「モードファントム! クロウ!」
頭上から声が響き、アロンデーモンはそれに対応しようと体の向きを変えたが、それはすでに遅く、両腕から光の爪を発生させたアライアルがそれを振るったところだった。
その光の爪はアロンデーモンを鮮やかに切り裂き、着地したアライアルは立ち上がって右手の人差し指を立てた。
「仕上げだ」
今の攻撃を加えたアライアル以外の全てがアロンデーモンに突撃し、連続で爆発を起こす。数十秒後、それが収まると、そこには何もなくなっていた。
アライアルはそれを見てからさらに周囲を見回し、アロンデーモンがすでに近くには存在しないのを確認した。それからクラールの元に歩いていく。
「おっさん、久しぶりだな」
「うむ! だが、話は後だ。あと二体悪魔の出現が確認されている」
「そりゃ驚いた、伝説の存在がそんなに沢山出てきてたとはな。誰が対応してるんだよ?」
それに答えたのは、ハイガルだった。
「隊員一名に、魔剣使いのレウスさん、それから超能力者のシガッドさんが戦闘に入っているようです」
「…色々面白そうじゃないか、俺はどこに向かえばいい?」
「アライアル隊長はレウスさん達の救援をお願いします。どうやら魔族を悪魔が乗っ取っているようなので、極めて危険だと思われます」
「わかった、場所は?」
ハイガルから連絡が入った場所を聞いたアライアルはすぐに地面を蹴って飛び出して行った。それを見送ったクラールはとりあえず太刀を収めて腕を組む。
「わしはもう一つの場所に向かう。ハイガルよ、ここは任せるぞ」
「わかりました。しかし隊長、すでに消耗しているんですから、ウィレオンと合流してから向かってください」
「わかった、心配するな」
一方、建物を跳び越えて移動するアライアルは何か引っかかるような表情を浮かべていた。
「魔剣使いって、どこかで聞いた覚えがあるな…」




