魔族と悪魔
アロールフは遥か上空から街を見下ろしていた。
「魔剣使いはあそこか」
そうつぶやくと、その背後の空間に小さな歪みが生じる。
「なんだ、この俺に何か用か?」
次の瞬間、アロールフの周囲が遮断され、 直接頭に響くような声が響いた。
「力が欲しいか」
「力なら持っているぞ、そういうお前は悪魔だな」
「ビジルデーモン、契約すれば力を与える」
「契約だと? 悪魔はそうして力を与えるのか」
そこで沈黙が流れ、アロールフはそれを同意とみなした。
「おもしろい、敵を知るのも重要なことだな。代償はなんだ?」
「存在だ」
「ほう、それは戦いだな。いいだろう、契約してやる」
「成立」
その言葉と同時に、蛇のような姿のビジルデーモンがアロールフの前に現れた。そして、その姿はアロールフの体に吸い込まれるようにして消える。
「うぐっ!」
アロールフは自らの存在ごと食われるような感覚にうめき声を上げた。そして、その顔に鱗のようなものが浮き出す。
「…なるほど、これが存在が代償ということか」
そうつぶやきながらも、アロールフはなんとかビジルデーモンの侵食を食い止めようと、周囲に炎を放った。その炎は空間を遮断していたドームを破ったが、それでも状況は変わらない。
「ここまでとはな、あいつが敵と見て手をうつわけだ!」
そう言うと、今度は自らの全身を炎で包んだ。それは全身を鱗ごと焼き、それがなんとかアロールフの意識を保たせる。しかし、それは長くは続かなかった。
炎は消え、姿だけは再生されて変わらなかったが、明らかに別の存在となったアロールフの姿がそこにはあった。
「さっき見ていたのはあれか」
そうつぶやくと、一気に急降下し、着地と同時に地面に大穴を開けた。そして、その視線はすぐに立ち止まったレウスに向けられる。
エトラはすぐに剣を抜き、レウスは杖を持ったまま穴の中に立つものに視線を注いだ。
「あいつか? いや、違うな」
「どういうことですか!?」
「俺が戦った魔族の姿をしてますけど、たぶん中身は違います」
「かなり危険な存在に見えますね」
「同感です」
警戒する二人に対し、落ちてきたものはゆっくりと首を回し、後ろに跳んで自分が開けた穴の淵に立った。
「お前は何者だ?」
レウスの問いにアロールフの姿をしたものはぎこちなく口を開く。
「ビジルデーモン」
「…悪魔か」
エトラはつぶやき、レウスに顔を向ける。それを受けてレウスは杖を両手で握った。
「まずは俺がなんとかします。連絡を入れておいてください」
レウスのガントレットが黒い霧となり杖を包み、それが一気に燃え上がった。それが収まると、レウスの手の中にあるのは、青い刀身を持つガランダルド・ブレイズだった。
ビジルデーモンは軽く地面を蹴り、ゆっくりと浮き上がった。そして、自らが作り出した穴の中心まで到達すると、そこで静止する。それと同時にレウスは地面を蹴った。
その体は放たれた矢のように一直線に進み、握った刀身からは青い炎が噴出する。そのまま剣はビジルデーモンの胸元に真っ直ぐ突き出された。
ビジルデーモンはそれに対して無造作に右手を前に出し、レウスの剣を受ける。両者がぶつかった瞬間、青い剣は両手を貫くが、それは刀身の先端で止まって体には届かず、青い炎が周囲に飛び散った。
「壁は作ったはず、こうもやすやすと貫くか…」
そうつぶやいてから右手を振るってレウスを地面に叩きつけようとしたが、その前に剣から炎が噴出すと、その手を一瞬で焼き尽くした。そして、レウスは地面に叩きつけられることなく、しっかりと着地をしてガランダルドを構えた。
「レウスさん! 隊長達も悪魔と遭遇したようです。ですが、状況はこちらのほうが悪そうです」
エトラの言葉を聞き、レウスはわずかにうなずいた。
「応援が来ますが、それまでは私達でなんとかするしかありません」
「わかりました。援護を頼みます」
レウスとエトラはそれぞれの剣を構え、ビジルデーモンに集中した。
一方、クラール達はアロンデーモンに対し、ハイガルとクラールが牽制をして、魔道具を持った傭兵達が後方から攻撃を加えるという状況だった。
「早くこいつを片付けてエトラの援護に向かわねばな!」
「それはトーラさん達に期待しましょう。ここは我々で早いところなんとかしませんと」
「そうだな!」
クラールは気合を込めて太刀を構えたが、そこに通信が入り、すぐに魔道具を起動する。
「なんだ!?」
「おっさん、そっちはどんな具合だ?」
「おお! もう到着したのか?」
「もう少しだ。でも、俺一人だけどな」
「なんだと! いや、それよりも今は悪魔が出ている!」
「悪魔ってあれか、伝説の。そりゃ面白い、すぐ行くから場所がわかるように派手にやってろよ!」
そこで通信は一方的に切られた。
「隊長、今の通信は」
「奴だ、隊は放っておいて一人で向かってきてるらしい」
「あの人らしいですね」
「すぐ近くまで来ているらしいぞ」
「それならば、派手に攻撃をして目印を作りましょう」
そう言ってハイガルは空中のアロンデーモンに手を突き出す。
「モードファイア!」
声と同時にハイガルの周囲に八本の炎の矢が発生し、一斉に標的目がけて発射された。それは確実にアロンデーモンをとらえ、ほぼ同時に着弾し、空に巨大な火の玉を作り出す。
「いい目印だな!」
クラールは感嘆したように手を打ち、自身の太刀を空に向かって突き上げた。
「奴をここまで引きずりおろせ! 一斉攻撃だ!」
その号令に応じて傭兵達もそれぞれの魔道具から、空に向かって魔法を撃つ。しばらくそうして攻撃が続いたが、クラールが太刀を下げると、その攻撃は止んだ。
「気を抜くな! 悪魔はこの程度では倒れんはずだ!」
その言葉の直後、攻撃にさらされていた場所から何かが凄まじい勢いで地面に落ち、土煙を派手に巻き上げた。クラールはすぐに前に出ると、太刀を立てて用心深く構える。
そして土煙が落ち着いてきた瞬間、その中から一直線にアロンデーモンが飛び出してきた。
「斬魔刀! 剛!」
クラールはそれに対し、落ち着いて鋭く太刀を叩きつける。結果、勢いの凄まじさに後方に弾き飛ばされるが、アロンデーモンも押し切ることはできずに後方に飛んだ。
「その力、やはり欲しいな」
「たわけが! 貴様にくれてやるものなど、この地上に一欠けらもありはしない!」
クラールとハイガルは疲れは全く見せず、アロンデーモンに立ち向かう姿を見せていた。




