切り裂く光
レウスとシガッドは行政府に向かっていたが、まだ到着していなかった。その原因は目の前にいる傭兵風の女、らしきものだった。
「エトラさん、あれがなんだか知ってますか」
レウスはちょうど姿を現したエトラに、目の前にいるものについてたずねたが、エトラは首を横に振る。
「姿は私も知っている傭兵ですけど、わかりません。一つ言えるのは、あれはもう人間ではないということですね」
「そうだな、魔族とも違う」
シガッドもうなずき、背後の抉れた地面を見る。
「だが、友好的でないのは間違いないぞ。それに、かなりの力を持っている」
「倒すしかないでしょう。街への被害も無視できないですからね」
レウスはそう言うと、杖をガランダルドに変化させた。
「そうですね、応援が期待できる状況でもないようですから、ここは私達でなんとかしましょう」
エトラは剣を抜き、軽く構えた。それを見たシガッドは軽く首を回してみせ、二人の前に出る。
「あれの相手は俺がやろう。お前達は先に行け」
それにレウスとエトラは顔を見合わせるが、その瞬間シガッドの手が動き、目の前にいたものが吹き飛んだ。それを見た二人は武器を収めると、すぐに行政府に向かって走り出した。
「それでいい」
横目でそれを見送りながらシガッドはつぶやいたが、そこに吹き飛ばされたものが弾丸のように飛びかかってきた。シガッドは全く慌てず、右手を前に突き出すと、そこからの衝撃波でそれを止めてみせる。
「魔法とは違う」
止められたものは衝撃を受けたにも関わらず、平然とそう言ってからそのものは後ろに飛んでシガッドと距離を取った。
「話せるのか。それならお前が何者か、それを教えてもらおう」
「イエイズデーモン、それが名」
「悪魔か、初めて見るな。その女を乗っ取っているのか」
シガッドの言葉が終わるより早く、イエイズデーモンは上空に飛び上がっていた。シガッドもそれを追って飛ぶ。両者は空中で相対すると、動きを止めた。
「始めるか」
そう言うとシガッドはイエイズデーモンに突進した。それと同時にイエイズデーモンも動き、両者は空中で激突する。その瞬間、衝撃が周囲に走り、両者はそのまま上昇していった。
一方、キーツ達はドームを破る準備を完了していた。キーツは狼と一緒に少し後ろに下がり魔道具で会話をし、ハイガルはトーラと一緒にドームの前に立っていた。
「突入はトーラさんにお願いします。私は援護にまわりますので」
それにトーラはうなずいた。
「えーっと、了解。あの隊長さんを助ければいいわけね」
「はい、敵の戦力は不明ですから。とにかくまずは撹乱、私の援護で隊長とトーラさん、あの狼とキーツさんは一度離脱です」
「まあ、この私にかかればこれくらい軽いから、任せといてよ」
そう言って自分の胸を叩くと、トーラはキーツ達の方に歩いていった。それを見送ったハイガルにアナスタが歩み寄ってきた。
「大丈夫?」
「彼女なら問題ないでしょう。緊張はしているようですが、しっかりと自分を保っています。私も全力で援護をしますから、大丈夫ですよ」
「それで、キーツ君は誰と話してるの」
「アクシャさんです。キーツさんと話があるということなので、ああしてもらってるんですが、あの人だけは全くわかりませんね」
アナスタはそれに無言でうなずいて同意した。
キーツは当然その会話は知らずに、アクシャとの会話を続けていた。
「それにしても、悪魔の領域に足を踏み入れるとは、少年も災難だねえ」
「僕は付き添いみたいなものですよ、実際に突入するのはトーラさんです」
「ま、それなら心配ないか。それよりも、狼の首輪を外しておきなよ。それはもういらない」
「わかりました。ところで、アクシャさんは今どこにいるんですか?」
「遠くないところだよ。ピンチには駆けつけるから安心しておきな、それじゃ、そっちはよろしく」
そこで通信は終わり、キーツは狼の首輪をすぐに外した。
それから数分後、ドームの前にはキーツと狼、そして聖剣を抜いたトーラがその隣に立っていた。アナスタは機材に張り付き、ハイガルは近くの建物の屋上で待機している。
「いつでも大丈夫よ」
トーラの言葉に、キーツは地面に膝をついて狼の首に手を置く。
「頼むよ」
それに答えるように狼は一つ吠えると、その全身の毛が光り始めた。キーツがそこから離れると、狼は地面を蹴ってドームに飛びかかる。
そして牙がそこに突き立てられると、一気に光が広がり、ドームが崩壊していく。間髪入れずにトーラがそこに飛び込んでいった。
次の瞬間、衝撃と閃光が周囲に走り、キーツは思わず目をつぶる。それでもなんとかすぐに目を開けて前を見ると、そこにあったのは建物ではなく、ただの荒地だった。
その中心には、傷だらけだがしっかりと立っているハイガルの姿と、今飛び込んでいったトーラの姿だけが見えた。
トーラはすぐにハイガルの側まで行くと、周囲を警戒する。しかし、気配は何も感じられず、すぐにハイガルに声をかけた。
「大丈夫?」
ハイガルの鎧はかなり傷つき、顔を自らの血で濡らしていたが、意識はしっかりとしているようで、トーラに視線を向ける。
「うむ、問題なしだ! だが気をつけろ、悪魔はまだ近くにいる」
調子の変わらないハイガルの様子にトーラは安心したような表情を見せた。それからすぐに二人はその場から退き、脅威はないと判断して建物から降りてきたハイガルと合流する。
「隊長、その怪我は」
「心配するな、致命傷は受けていない。それより状況はどうだ!?」
「現在のところ、問題はありません」
ハイガルは答えるが、そこにエトラからの連絡が入った。
「…エトラが悪魔らしきものに遭遇したようです。シガッドさんが対応して二人でここに向かっているとのことですが」
「エトラがそう判断したのなら間違いあるまい。それよりも、わしは三体の悪魔と遭遇したのだ、連中はまだ近くにいるはずだぞ」
ハイガルはうなずくと、手を上げてアナスタを呼び寄せる。
「悪魔の位置の観測は出来ますか?」
「それは無理、データが足りなすぎる」
アナスタのため息にハイガルもつられた。
「そのご心配は必要ありませんよ」
そこに傭兵と一緒に来た中年の男の声が響く。声のした方にその場の者達
が顔を向けると、その男は宙に浮いていた。
「天啓を受け二十年、ついにこの時がやってきました! アロンデーモン様、わが身を捧げます!」
宣言するような言葉が終わった瞬間、男の体を虚無としか言いようものが包んだ。数秒後、その虚無が体に飲み込まれると、そこには姿は変わらないが、それ以外の全てが異様に変わっている何かがいた。
「やはり、受け入れられると違うな」
その声と雰囲気にクラールが最初に反応する。
「アロンデーモンだな! 他の二体はどうした!?」
それに答えはなく、アロンデーモンは右腕を上げた。それが振り下ろされると、そこから雷が走り、クラール達に襲いかかる。
「モード! サンダー!」
ハイガルが後方から雷を放ち、空中でぶつかり合った二つの雷が強烈な光と爆音を発した。




