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異端の継承者  作者: bunz0u
第二章
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急転する状況

 ロベイル共和国行政府の会議室では朝から激論が繰り広げられていた。その内容は主に最近のパイロフィストの行動についてだった。


 要点は三つ、現在のパイロフィストの行動は無用な混乱を起こす可能性があること、しかし、それを止めようにもパイロフィストが直接に手を下しているわけではないので、正式に抗議を申し入れるのも難しい。


 そして、密造魔道具関連の工場などを潰してまわっている二人組みが問題だった。そういったところを叩くのは悪いことではないが、後ろめたいことがない人間であっても、行政府の周囲にたった二人でそこまでのことができるような実力を持つ者がうろついているのは問題だった。


 もちろん、後ろめたいことがあると、その不安は無限にふくらむ。公式ではなくとも、パイロフィストが後ろ盾になっているのは明らかで、正体の定かでない二人は市民の間では街を浄化する英雄と言われ始めるほどの人気を得てきている。


 そうしたわけで、会議はこの事態を好意的にとらえる者達と、そうではない者達で真っ二つに割れ、その結果の激論だった。


 だが、その激論はある人物の登場で終止符をうたれる。


「皆さん、朝から大変お疲れ様です」


 一声で静寂をもたらしたのは、ハイガルとその後ろにゆったりかつ堂々と立つクラールだった。ハイガルは反論が来る前に軽く手を上げてそれを制する。


「おっしゃりたいことは色々あるかと思いますが、今は我々の話を聞いて頂きたい。今この街には大きな危機が迫っています」


 ハイガルはそこで一度言葉を切り、周囲を見回してから続きを話そうとしたが、それよりも早く、その場の天井付近に地鳴りのような音と同時に空間の歪みが発生した。


「全員伏せろ!」


 クラールがすぐに反応し、叫びながら抜刀する。ハイガルもすぐにその場にいた人物達を守るために障壁を展開した。


「そのままだ、全員動くな」


 クラールは油断なく太刀を構えたまま、ゆっくりと足を進めていく。その間にハイガルは部屋の中から人を退去させていった。それが終わる前に、クラールは部屋中央の机を蹴り倒し、空間を確保する。


 しかし次の瞬間、歪みが一気に広がり、そこから何かが伸びた。それはクラールも反応できない速度で障壁を破り、部屋から出ようとしていた一人を捕らえた。クラールはそれを切りつけたが、まるで空を切るかのような感覚で意味をなさなかった。


 捕まった一人はそのまま歪みに引きずられていったが、それより早くハイガルが放った雷の矢がその歪みに到達する。


 だが、その一撃も歪みを通りぬけてしまい、壁を破壊しただけだった。その直後、捕まった者は歪みに完璧に飲み込まれてしまった。


「斬魔刀! 剛!」


 クラールの振り上げられた太刀が歪みに届く寸前、それは不可視の壁に阻まれるような感覚と同時に衝撃が広がり太刀は止められていた。


「ハイガル! すぐに退いて隊員達に連絡だ! 指揮はお前がとれ!」

「了解しました、お気をつけて!」


 ハイガルは少しの逡巡も見せずに素早く避難を完了させ、その場から退いていった。それを確認したクラールは一度後ろに下がり、歪みと対する。


「その中に居るんだろう! 何者かは知らんが姿を現せ、わしは逃げも隠れもせんぞ!」


 数秒後、歪みが大きく広がり、その中心から腕が一本突き出てきた。それに続いて頭か体が出てくるかと思ったが、その前に歪みが弾け、同時に室内に光が満ちた。


 その光が収まった時、クラールの目の前にはかろうじて人間とわかる何か、歪みに引き込まれたであろう人間だったものの姿があった。


「貴様、悪魔か?」


 それに返事はなかったが、歴戦の戦士であるクラールでも感じたことのない異様な雰囲気だけがその場に満ちていった。


 それでも姿を現した何かは体をぎこちなく動かしているだけで隙だらに見えたが、クラールは動かずに様子をうかがっている。数秒後、目の前の何かが膨れ上がり、弾けた。


「…ふん、手近な生物ではこの程度か」


 奇妙な響きの声と同時に、人のような何かだったものは、人間の子ども程度のサイズになっていた。クラールはその姿とは裏腹の放たれる圧力の強さを全身で感じていた。


「もう一度聞く、貴様は悪魔か?」

「アロンデーモン、貴様じゃあない」

「ほう…」


 クラールは軽く息を吐き出すと太刀を下段に構え、次の瞬間には床を蹴っていた。一瞬でクラールの太刀はアロンデーモンの体を逆袈裟に切り裂く。そのまま真っ二つになった上半身と下半身はその場に崩れ落ちるかのように見えた。


「お前は力が強い」


 真っ二つになった二つの体はクラールの背後に移動して一つになった。だが、クラールはすでにその目の前に到達している。


「斬魔刀! 散!」


 そして、アロンデーモンの体は微塵切りにされたが、クラールはそこで止まらずに、太刀に炎をまとわせた。


「焼き尽くす! モードメテオ!」


 炎をまとった太刀が凄まじい速度で振り下ろされると、会議室には爆炎が広がり、派手に建物を吹き飛ばすことになった。


 一方、外に出たハイガルはすぐに隊員達と連絡をとっていた。


「行政府に正体不明の歪みが発生しました。全員ただちにこれから私が指示する場所に移動してください」

「了解」


 返事は一斉に返ってきて、ハイガルはすぐに各隊員にそれぞれの場所を指示すると通信を切り、クラールが残っている建物に視線を移した。そこから強烈な光が発し、次の瞬間には地面が揺れた。


「隊長…」


 そうつぶやくが、ハイガルはすぐに切り替えてレウスに連絡を入れる。


「レウスさん、緊急事態が発生しました。すぐに行政府の方に来てください」

「…わかりました、すぐに向かいます」


 そして通信を切ると、今度は逆に通信が入ってきた。


「なんかやばそうな雰囲気だねえ」


 アクシャの声が響いた。


「はい、かなり危険な状況です」

「へえ、ずいぶん大事みたいだねえ。で、今どこにいるの?」

「現在は行政府です。ですが、こちらの戦力は確保したのでアクシャさんは街で他に何か起きないか、それの警戒をお願いします」

「了解了解。任せておきな」


 そこで通信は途切れ、ハイガルはさらに続けて支部のアナスタに連絡を入れる。


「はい」

「緊急事態です。調査のためにこちらに人員を」

「了解、すぐに向かう」

「お願いします」


 通信を切ると同時に、今度は行政府が爆発していた。


「次から次へと」


 珍しく悪態をついたハイガルはその爆発から何か出てこないかと目を凝らすが、爆煙だけで何も見えない。それでもすぐに気を取り直して、自分が避難させた政府の要人達に顔を向ける。


「皆さん、ここは我々が抑えますので、周辺の避難はそちらでお願いします。かなり危険な状況ですので、皆さんできる限りの迅速な対応を」


 言葉は穏やかだったが、ハイガルの雰囲気は有無を言わせないもので、その場の者達は自らの仕事のために動き出した。

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