先の見通し
夜、クラールは支部の修復を監督していた。
「ここをいつまでもこんな風にしておくわけにはいかんぞ! 早く仕上げればそれだけボーナスも出す!」
その言葉に職員や職人は一斉に返事をする。
「だが、交代で休みはとれ! 倒れたらボーナスが出ても無駄になるぞ!」
それにもしっかり返事があり、満足気にうなずいたクラールは下の階に下りていく。その途中でハイガルと合流した。
「魔道具密造の件の進捗状況はどうだ?」
「順調です、予想よりも彼らの戦力は上でしたので。それに、キーツ君のおかげで設計事務所の調査でも思ったよりも早く収穫がありました」
「そうか、できるだけ急いだ方がいい気がするな」
「同感です」
「遊撃のほうはどうだ?」
「連絡はつきました。ですが、現在地からして数日はかかりそうです」
クラールは無言でうなずくとハイガルの肩を叩く。
「わしは警戒を続ける。お前には引き続きそれ以外のことを頼もう」
「了解しました」
「すまんな」
「これが私の仕事ですから、お任せください」
「うむ」
二人は階段を下りると別れ、ハイガルはそのまま研究室に足を向けた。中に入ると、椅子で仮眠を取るキーツと、その足元で寝る狼、そして自分の席で何か書いているアナスタの姿が目に入った。
「張り切っていますね」
「まあ、色々面白いことがあるから」
「設計事務所での収穫ですか?」
アナスタは首を横に振ると、黙ってキーツのことを顎で指した。
「彼は優秀だし、創造性もある。もしかしたら、新しい発明に立ち会えるかも」
そう言ってから、アナスタは手元の紙の束を差し出した。ハイガルはそれを受け取ると、軽く目を通していき、読み終わると感心したように息を吐き出した。
「…エレメントストーンの実用化を見ることが出来るのかもしれないということですか」
「そう、これを読む限りでは、可能に思える。マーガレット部長にも話はしたけど、反応は悪くなかった」
「それは期待できそうですね。ところで、他の方達は?」
「全員宿に戻った。聖剣使いの子は残ろうとしたけど連れて行かれて、キーツ君だけはここに残ってる」
「あちらも大変そうですね…」
そうつぶやくと、ハイガルは紙の束をアナスタに返し、ドアに向かった。
「こちらは頼みます」
アナスタは軽く手を振ると、すぐに自分の仕事に戻った。
ハイガルは部隊員達と連絡をとりながら支部から外に出ると、その足でアクシャ達の宿に向かった。
そして、宿に到着してみると、なぜかアクシャが手袋をして宿の前で炭をかき回していた。その手を止めずにアクシャは顔だけハイガルに向けた。
「おや、まだ働いてんのかい」
「あなたこそ一体何をなさってるんですか?」
「夕食の準備だけど。ああ、もうちょうどいい頃合かな」
アクシャは卓上サイズのバーベキューグリルにその炭を放り込んで持ち上げた。
「さて、一緒にどうかなハイガル君?」
返事を待たずにアクシャは宿に入っていき、ハイガルは仕方なくその後に続いた。
「…どうもあの人のペースはわかりませんね」
中に入ってみると、宿の食堂のテーブルの上にアクシャが持ってきたグリルが置かれ、早速そこで肉やら野菜やらが焼かれ始めていた。トーラは準備万端にトングと皿を持っていたが、ジン改めシガッドとレウスは落ち着いて座っている。
「ほらほらそこの二人、ぼんやりしてるとそこのに全部食われるよ」
「そうそう、食べちゃうよ」
トーラは周囲を威嚇するかのようにトングをカチカチ鳴らす。それを見てハイガルはため息をついてから席についた。
しばらくしてグリルに乗せたものが焼け始めると、早速トーラがトングを使って乱獲を開始する。それ以外の四人はのろのろとトングを伸ばしていた。
そんな調子でゆるゆると夕食は進行していき、アクシャはおもむろにハイガルに語りかける。
「さて、副隊長さん。別に食事しにきたわけじゃないだろうから、そろそろ話を聞こうじゃないの」
そう言われて、ハイガルは皿とトングを置いた。
「まず皆さん、本日はお疲れ様でした。おかげさまで魔道具の密造組織に関してかなりの進展がありました」
そこでハイガルはその場の全員を見回した。相変わらず食べているトーラはともかくとして、今までとは雰囲気が違うシガッドのところで視線は止まる。
「そういえば、ジンさんではなく、あなたは本当の名を思い出したそうですね」
「シガッドだ。今までよりも力も増したから、お前達の役には立つだろう」
「ではシガッドさん、これからもお願いします。さて、明日以降の予定の話ですが」
「ちょっと待った」
アクシャが横槍を入れた。
「なんでしょうか?」
「いやね、基本的にトーラは少年と一緒で、あたしは自由にさせてもらう。だから、なんか言うなら青年とシガッドだけにしておいて欲しいね」
「そうですか。もちろん私達は協力をして頂いている立場ですから、あまり無理を言うつもりはありません。ですが、レウスさんとシガッドさんはこれまで通りに協力して頂けるということでよろしいでしょうか?」
ハイガルにそう聞かれ、まずはレウスがうなずいた。
「俺はいいですよ。また魔族と戦えるならそれこそ願ったりですから」
「俺もかまわない」
シガッドは簡潔に一言だけで同意した。その二つの返事にハイガルは内心で多少ほっとする。
「ありがとうございます。では、明日からの予定です。残念ながら、まだ大きな動きはできません。それにお二方の働きで敵が身を潜めるか、それとも派手に動き出すか、そこを見極める必要があります」
それにシガッドは腕を組む。
「つまり、しばらくは様子見か」
「いいえ、こちらからも揺さぶりはかけようと思っています。今のところ相手に主導権を握られている感もありますから、黙っていることはありません」
「じゃあ、国が動く程度までその二人を暴れさせるつもりかい?」
再びのアクシャの横槍にハイガルはなんとも微妙な表情になった。
「そこまでいくとやりすぎですね。そのぎりぎり手前程度で抑えておいておきたいところです」
「なるほどなるほど、そこらへんはあんたがコントロールするってわけだ。うまくいくといいねえ」
「もちろんです。協力して頂ける方のためにも、最新の注意を払って進めます」
「だそうだ。青年もシガッドも頑張りなよ」
そう言ってから、アクシャはグリルに残ったものをまとめて乗せた。
「さあ、食え食え皆の衆」
煙が食堂に満ちていった。




