目指すべき方向
周囲は慌しかったが、キーツは実験台に杖を置いてそれをじっと見ていた。その横にはトーラが立って同じようにしている。
「ねえ、さっきからそうしてるけど」
「改造しようと思ってるんです。現状でも出力はかなり高くしてあるんですけど、魔族には全く通じませんでしたから」
「改造なんて簡単にできるの?」
「いいえ、これはかなり完成度が高いものなので、簡単には。機能を削ればできますけど」
「そうすると不便になるんじゃないの」
「その通りです。せっかく魔道具を沢山組み込んで多機能なので、それを無駄にしたくないですね」
そこでキーツは杖を手にとる。
「これは、マジックカートリッジは内臓していません。魔力は外部供給で、攻撃魔法は元となる魔道具に発動速度の上昇と増幅のための回路が組み込まれています」
「それってすごいの?」
「サイズと予算と時間さえ気にしなければいくらでもできますよ。でも、このサイズで一から作ったら本当ならかなりのお金と時間がかかりますね」
「ふうん。じゃあ、あんまりいじらないで、なんとかやってみるのがいいんじゃないの」
トーラがそう言うと、キーツは杖を置いてうなずいた。
「はい。なので、ただ出力を上げるのではなく、多機能さを生かした同時発動ですね」
「数で勝負するの? でも、どうやって」
キーツはエレメントストーンを取り出した。
「これを使ってみようと思うんです。発動した魔法を一時的に記憶させることができれば、時間は多少かかるようになりますけど、同時発動か、あるいは合成することもできるかもしれません。未知数ですが、かなりに攻撃力の向上が見込めます」
それを聞いてトーラは頭をかく。
「言ってることはよくわかんないけど、なんかすごいパワーアップしそうなのはわかったかも」
「と言っても、うまくできるかは全然わからないんですけどね」
キーツはため息をついて、腕を組んだ。そこにアナスタが入ってくる。
「キーツ君、これから出られる?」
「何があったんですか」
「違法な魔道具の設計事務所を押さえたから、その現場を見に行く」
「わかりました。トーラさん、一緒に来てもらっていいですか?」
「もちろん、護衛だし」
そうして三人が外に出ると、それを待っていたかのように狼がキーツに駆け寄ってきた。
「あれ、どこに行ってたんだい?」
キーツは膝をつくと、狼の首を撫で回した。その間にアナスタは車両のドアを開けて運転席に乗り込んでいる。
「キーツ君、その獣も一緒に乗せて」
「はい」
キーツは狼と一緒に後ろに乗り込み、トーラはアナスタの隣に座った。アナスタはすぐに車を発進させ、口を開く。
「とりあえず入った情報だと、魔族が現れたくらいで現場は無事らしいから、情報は無事。でも、前の密造工場の調査にも人手を割いてるし、人手が全然足りてない」
「それでアナスタさんまで外で仕事なんですか」
「そう、向こうにも人手はあるけど、キーツ君みたいに専門知識を持ってるのは少なくて。それより、その杖の改造をするの?」
「はい、エレメントストーンを使って、もっと攻撃力を上げることを考えてます」
それを聞いてアナスタは数秒の間黙り込む。
「…できるの?」
「以前よりもエレメントストーンの特性についてはだいぶわかってきましたから、なんとかできる見込みはあります」
「じゃあ、こっちは早く片付けるようにしないとね」
そして、車が現場に到着して三人と一匹が外に出ると、数人のパイロフィスト職員がそれを迎え、すぐにレウスも歩み寄って来た。キーツはその傷ついた姿を見て声を上げる。
「レウスさん! 大丈夫ですか?」
「ああ、俺なら別に問題ないですよ。魔族には手こずりましたけど、なんとかなりました」
トーラはそう言うレウスをじーっと見て、軽く鼻を鳴らした。
「雰囲気変わったんじゃない。こう、今までよりも力強さがあるっていうか」
「…まあ、すぐにわかりますよ」
レウスは露骨に言いたくなさそうだったので、トーラはとりあえずそれ以上聞こうとはしなかった。
「レウスさんは一緒に上に行かないんですか?」
「俺はジンが戻ってくるのをここで待ってますよ、外の警戒も必要ですから」
「わかりました、お願いします」
キーツがそう言うと、三人と一匹は建物に入っていった。それから狼は部屋の前で止まると、その場に寝そべる。
「少し時間はかかるけど、しばらく待ってて」
そう言って狼を撫でると、キーツは壁の一部が弾け飛んだ部屋に足を踏み入れた。
「すごい状況ですね」
「確かに。でも思ったよりも内部の損傷はひどくないから、これなら」
アナスタはすぐにとりあえず整理された書類に近づくと、それを漁りだした。キーツはその場にいたパイロフィスト職員に話しかける。
「ここにあった資料はあれで全部ですか?」
「いえ、思ったよりも収穫が多いので、あれは全部ではありません」
「なら、僕はまだ整理がついてないほうを手伝います」
「それはこちらです」
キーツはまだ手付かずの棚のほうに案内され、残されたトーラは一応ロープが張られている壁の穴に近づいて外を見た。
「ずいぶん風通しよくしちゃって」
そうつぶやき、トーラは壁の断面を見回す。そこは高温の炎に溶けていて、魔族の力の強さがうかがえた。
そんな調子で部屋の調査は進展していき、キーツはあるノートを手にとって動きを止めた。
「アナスタさん、ちょっといいですか」
「なに」
アナスタが反応すると、キーツはそのノートを持ってアナスタにそれを見せた。
「資材の購入履歴が書かれているみたいです」
「なるほど」
アナスタはノートを受け取って、それを素早くめくり、ざっと目を通した。
「こんなものが残っているということは、ほとんど身一つでここから逃げたってこと。連絡だと魔族以外はいなかったみたいだし、直前で情報をつかんでのかも」
「よほど急いでいたのか、それとも罠でしょうか?」
「どちらにしろ、調べないことにはね。魔道具の設計書もあるから、それとあわせて調べれば色々わかりそう」
「それなら、そっちのほうを重点的に調べるようにします」
二人は再び別れ、資料の調査に戻っていった。トーラはうろうろしていたが、特におかしな気配もなく、手持ち無沙汰になっていたので、部屋の外に出て狼の前でしゃがんでいた。
「あんた、賢いよね」
そう言って狼の腹に手を埋めるが、特に反応は返ってこない。
「アクシャはなんか知ってるみたいだけど、何も教えてくれない。でも、あたしはあんたの力だけはわかってるからね」
その言葉に、狼は目を開けると、トーラの手を前足で軽く叩いた。
「あっち行けってこと? いいわよ、別にちょっと休んだだけだし」
トーラは再び室内に戻り、調査を進めるキーツとアナスタを眺める仕事に戻った。




