おかしな二人組
支部はキーツと狼にトーラ、外はレウスとジンに任せ、アクシャは一人で街を歩いていた。その様子は特に緊張したような様子もなく、目立つ格好ではあったが街に溶け込んでいた。
アクシャは近くの喫茶店に入ると帽子を椅子に引っかけて、お茶を一杯とクッキーを注文した。すぐに運ばれてきたそれを一口飲んでから、空を見上げる。
「さて、どうしたもんかねえ」
そうつぶやいてから、ポケットから出した一角獣をテーブルの上に置いた。それからアクシャはそれに話しかける。
「なあ、あたしはこれからどうすればいいと思う? ま、今はなりゆき任せで、目の前のことに集中かね」
その問いかけに一角獣はティーカップを角で叩く。
「はいはい、ちゃんと働くよ。とりあえず魔族でも探しておくかね、あの連中というか、約一名には聞きたいこともあることだし。でも今は休憩」
そしてクッキーを半分に割ると、一つは自分の口に放り込み、もう半分は一角獣に食べさせた。そうしてのんびりした後、一角獣をポケットに戻したアクシャは再び街を歩いていた。
しばらくして、アクシャは人の流れが変わったことに気がつく。
「青年達が動いたのかな」
アクシャは近くの通行人をつかまえてみる。
「何かあったのかな」
「なんか爆発があったらしいんだ。あんたも家に帰ったほうがいいよ」
「へえ、そりゃどっちかな?」
「西の方らしい。だいぶ派手なことになってるみたいだから見に行きたいけどさ」
「そりゃやめときな」
「わかってるさ、あんたも気をつけな」
そう言って通行人を開放すると、アクシャは西の空を見上げた。
「問題はほかでどう動きがあるかだけど」
アクシャは路地に入ると、目を閉じて両手を軽く広げる。その姿勢を数十秒維持してから、静かに目を開けた。
「…ああ、そっち」
小さくつぶやくと、アクシャは騒ぎとは反対の方向に足を向ける。そして、しばらく歩くと、目立たない場所でフードを被っている人影に気がつく。アクシャは一度足を止めると、そこにゆっくりと近づいていった。
「あんた、こんなところで何をしてるのかね。姿ならいくらでも隠せるだろうに」
そう言ってアクシャはそのフードの人物の隣に立つ。それでも、その人物は何も答えないが、アクシャは特に気にする様子もなく続けて口を開く。
「おやおや、だんまりかい。別に初対面ってわけじゃないんだから、もっとこう気さくに話してくれてもいいんじゃないのかね」
アクシャが手を動かすと風が起こり、フードが頭から外れる。そこに現れた顔はアエチディードのものだった。
「しばらくぶりじゃないの、魔族の大将さん」
アクシャの態度は敵と遭遇したとは思えない気楽な様子だったが、それとは反対にアエチディードは無表情なままだった。
「…どんな用なのかしら」
「そう警戒しなさんな、確かに一度はやりあったけど、そんだけのことさ。今は少し話でもしようじゃないか」
「話? 魔族相手によく言うわね。何を考えているの?」
「こんなところでぼんやりしてたのに言われたくないねえ。その様子じゃあんたも今はなんかやらかす気はないんだろ、いいから付き合いな」
そこでアクシャはいきなりアエチディードの腕をつかんだ。
「フードは戻しておきなよ、落ち着けるところに行くから」
アエチディードはフードを元に戻すと、無言ではあったが、つかまれた腕を振り解くこともなく歩き出したアクシャと一緒にその場を離れた。
しばらくして二人は小さなレストランの個室に来ていた。アクシャはテーブルに肘をついてティーカップを揺らしている。
「なんか今日は一休みばっかりだねえ。ま、それはいいとしてあんたは何か食べたりしないのかい、特別におごってもいいけど」
「そうね」
アエチディードはメニューを開くと、それにざっと目を通してうなずいた。
「決めた」
「はいはい」
アクシャが店員を呼ぶと、アエチディードは店で一番高いステーキを注文した。
「こりゃまた、高いもんの味なんてわかんのかい」
「高ければおいしいんでしょう」
「ああ、そういうこと。まあ、こっちの懐はあったかいから別にいいけど」
それから二人は特に何を喋るということもなく、お茶だけ飲んでいた。そして、注文していたステーキがアエチディードの前に運ばれてくる。
アクシャは黙ってアエチディードがナイフとフォークを手に取るのを見てから、ティーカップをテーブルに置いて口を開く。
「食べ方わかんの?」
「それくらい知ってるわよ」
そうしてステーキは綺麗に切り分けられていく。アテリイはそれが二口ほど食べられるのを待ってから、姿勢を正した。
「そろそろ、あんたのことでも聞かせてもらおうかね」
「ん? なにかしら」
「あんたは破壊の衝動に支配された普通の魔族とは違う。でも、力を求めてるよな。あの獣を狙ってるわけだし」
アエチディードは返事をせずにステーキを口に運んだ。アクシャはそれにかまわず話を続ける。
「ここでも少し暴れたようだけど、前とは明らかに目的が違うように見えるね。今回はちょっとパイロフィストの隊長とやりあってから、てきとうに魔物を呼び出して終わり。それで今はこうして飯を食ってるわけだ。何を考えてるんだい?」
口の中の肉を飲み込んでから、アエチディードはアクシャの目を真っ直ぐ見た。
「それを聞いてどうするつもり?」
「自分の身に関係がありそうなことを知らないままにしておくのはちょっとね。これでも今はパイロフィストと関係があるし、ちょっと気になってる少年と青年もいるからさ」
「少年? そういえば変な子どもがいたわね。飛ばそうとしたところで邪魔が入ったけど」
「飛ばす? あんたなら消し炭にするのも簡単だったはずなのに、なんでそんな手のかかることをしようとしたんだい」
アエチディードは今度はつけあわせの芋を口に運び、ゆっくりと咀嚼すると飲み込んだ。
「気まぐれ」
「気まぐれねえ? そりゃおもしろい。じゃあ、あんたの今までの行動も全部気まぐれってことかな」
「それは違うわね。大体、大きな脅威に対しようと思ったら力を求めるのは当然だと思うけど」
そしてアエチディードは再びステーキに戻ると、残りを黙々と食べた。アクシャはそれが終わるまで黙って待ち、おもむろに眼鏡を外した。
「脅威。その正体は何だと思ってる?」
「悪魔以外にいるの?」
「それは魔族にとっては味方じゃないのかね」
「私には違うのよ」
「ふうん」
一つ息を吐き出すと、アクシャは眼鏡をかけて立ち上がった。
「お話どうも、金は払っておくからゆっくりしていきなよ」
返事を聞かずにアクシャは個室から出て行った。




