進化する力
ロベイル共和国には様々な噂が飛び交い、街はかなり混乱していた。
「だいぶ不安が広がっているように見えるな」
「これだけ事件が続けばそれはそうでしょうね。でも、俺達には関係ありませんよ」
ジンとレウスは特に周囲の様子を気にする様子もなく、自然に歩いていた。
「それで、次はどこなんだ?」
「俺もまだ聞いてませんけど、そろそろ連絡が入ると思いますよ」
それからしばらくして、レウスに通信が入った。
「なんです?」
「エトラです、次の場所が決まりました。今から言う場所に来てください」
それから場所が告げられ、通信は切られた。
「次の話が来ましたよ」
「そうか、場所は」
「近くの店です」
数分歩いてカフェのような店に入ると、奥の席に私服のエトラが座っていた。レウスとジンはすぐに同じ席につく。
「早速ですが、次の場所は密造工場ではありません。設計事務所と言ったところです」
「設計事務所? 大したことはなさそうだな」
ジンはそう言うが、エトラは首を横に振った。
「いえ、前回の件もあるので、腕の立つ護衛がいる可能性があります。どうか油断はなさらずに」
「それは楽しみですね。場所はどこなんですか?」
エトラは黙って紙を出すと、それに簡潔な地図を素早く書いた。
「ここが現在地で、標的はここになります」
「近いですね」
「はい、できるだけ急いでください。時間をおいたら逃げられる可能性が高いです」
「わかりました、すぐに向かいます」
何も飲み食いせずにレウスとジンはその場から立ち去った。それを見送ったエトラはティーカップのお茶を飲み干し、さらに追加で注文をすべく店員を呼び止めた。
そして、レウスとジンは地図で指定された建物の近くまで来ていた。それは高級な雰囲気のある六階建のアパートで、見た目に特に怪しいところはなかった。
「どうしかけるんだ?」
「三階ですから、少し面倒くさいですね」
「上からも下からもちょうど中間か。どうする?」
「正攻法で」
そう言うとレウスは正面からそのアパートにに入っていく。そしてそのまま上階に向かおうとした。だが、それは管理人に呼び止められる。
「ちょっと、あなた達」
ジンは足を止め、顔だけ管理人に向けた。
「パイロフィストに通報をしておとなしくしておけ」
それから二人は階段を駆け上り、すぐに目的の部屋の前に到着した。
「援護を頼みます」
それだけ告げてから、レウスはドアを蹴り破った。その勢いのまま中に飛び込み、室内を素早く見回すが、そこに人影は見当たらない。
次の瞬間、レウスは杖をガランダルドに変えるとそれを水平に振るった。その一閃は目の前に広がった炎を剣にまとわせて吸収する。
「よく勘づいたな!」
炎が消えると同時に、見た目は中年の男である魔族、アロールフが部屋の隅に忽然と姿を現していた。
「魔族か、いいものが釣れたな」
そうつぶやいたレウスは動じることなく、むしろ笑った。
「お前もノーデルシア王国にいたんだろう? ちょうどいい、パイロフィストが取り逃したなら、俺がここで始末してやるよ」
「威勢がいいな!」
アロールフが手を振るとそこから炎が現れ、急速に室内に広がった。レウスはそれに対し、最初に吸収した炎を放つ。
二つの炎がぶつかり合い、室内には爆発的に炎が広がった。その炎は窓ごと周囲の壁も大きく吹き飛ばし、アロールフはそこから弾かれるようにして外に出ていた。
その視線は室内に向けられ、その先には無傷のレウスとジンの姿があった。
「大丈夫か?」
ジンがたずねると、レウスはうなずく代わりに剣を軽く振る。
「ここは頼んだぜ!」
叫んだレウスは外に跳び出すと、剣から闇を伸ばした。アロールフはそれを腕に巻きつかせ、レウスの結界の中に取り込まれる。
ジンは下を見下ろして道の真ん中に結界が発生しているのを確認すると、室内を振り返った。
「しばらくは大丈夫そうだな。魔族もいたし、ここには他にも何かありそうだ、調べておくか」
ジンは室内を改めて見回し、さっそく家捜しを始めた。
そして、結界内ではレウスとアロールフが対峙していた。アロールフは結界内を見回してから、手に炎を灯し、それを上に投げつけた。炎は結界にぶつかり、その場で消え去る。
「それなりの強度はあるな。まあ、付き合ってやろう」
「いつまでその余裕でいられるかな!」
レウスは姿勢を低くすると、弧を描くようにして斜めにアロールフに向かって走った。アロールフは動かずに、手から炎を出すとそれで迎え撃つ体勢になる。
「食らえ!」
レウスは勢いを殺さずに、そのまま走り抜けるように胴を薙ぐように剣を振るった。その一撃はアロールフの体をとらえたように見えたが、その瞬間、勢いを増した炎によって軌道をそらされて空振りになってしまう。
だが、レウスはそれを予期していたかのように剣を自分の右手に刺し、ガランダルドをブラッドに変えて持ち替えると、振り向きざまに黒い血管をアロールフに向かって伸ばした。
アロールフもすぐにそれに反応して振り向きざまに手を横に振ると、その起動に炎の壁が立ち上った。レウスの放った血管は炎の壁に弾かれそうになったが、そこでレウスは地面を蹴る。
「甘い! ブラッディスピア!」
声と同時に黒い血管は一つにまとまり、まるで槍のようになると、炎の壁を突き破った。レウスは手ごたえを感じ、さらに突きを繰り出す。
「クソ!」
炎の壁は消失し、そこに現れたのは血管と魔剣の一撃を自らの左腕で受け止めたアロールフの姿があった。
「浅いな」
そう言ったアロールフは自分の腕を燃やし、爆発させるとレウスを弾き飛ばした。レウスはすぐに体勢を立て直すが、顔を上げた時には、すでにアロールフは爆発させた腕を再生していた。
「だが、いい攻撃だったぞ!」
アロールフは今度は自らの全身を炎で包んだ。そして、わずかに前傾姿勢になると一瞬でレウスの目の前まで到達する。
そのままアロールフの拳がレウスに迫るが、その一撃は魔剣によってギリギリのタイミングで跳ね上げられた。しかし、続けて放たれた前蹴りは防げない。勢いを殺せずに吹き飛んだレウスは、思い切り結界に叩きつけられた。
「…チッ」
レウスはそれでもすぐに立ち上がり、ガランダルドを構えなおした。それを見たアロールフは両手を広げて前傾姿勢になる。
「そうだ、この程度で終わっては面白くないぞ!」
「そう思ってるなら、ここが貴様の墓場だ」
レウスの戦う意思はますます充実していた。




